Bloggerの記載フォームがrenewalされている。前のversionより記載スペースが広く見えるようになっており、慣れれば使いやすくなりそうである。
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こちらもI先生の寄稿を適宜改定させていただきました。この場からも御礼申し上げます。心より感謝いたします。あくまでも回答の一つの案としてご利用ください。リンク先は2011年9月1日現在で開けることを確認しています。
…あと4週間か…。
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症例
・75歳女性。150cm、46kg。
・直腸癌に対して人工肛門造設術が予定
・脊椎転移の疼痛に対してモルヒネ徐放製剤180mg/日を内服中。
・Hb 8.0g/dl、TP 5.2 g/dl以外に異常検査値なし。
1)術前評価と管理
1.この患者の術前状態における問題点を列挙。
・直腸癌(おそらくイレウス状態または近々イレウスになると予測される)
・ 脊椎への転移ありADLが低下しているだろう。
・ 術前よりオピオイド内服をしている
・ 貧血
・ 低栄養状態
・脱水もあるかもしれない
2.術前に必要な検査を挙げてください。
・ルーチン検査(血算、生化学、スパイロメトリーまたは動脈血液ガス、心電図、胸部レントゲン写真)
*モルヒネを内服しているので、腎機能に注意。(薬理活性をもつM-6G:morphine-6-glucuronideが腎不全患者で代謝が遅延する…というのは筆記試験の過去問でよく出ている)
・活動度が低いと思われるので、深部静脈血栓スクリーニングのためにD-dimmer測定。
・ 現在のオピオイド内服量での疼痛コントロール状況、その他の鎮痛薬や鎮痛補助剤、レスキュードーズの有無、脊椎の痛みだけなのか?など、痛みの評価を行う。
・その他の転移の有無、骨折の有無を確認。必要があれば、画像診断。
2)周術期管理
1.麻酔管理の注意点は。
・麻酔は全身麻酔で行う。脊椎転移があり、また脳転移の可能性もあるので区域麻酔は禁忌となる可能性がある。
・全身麻酔導入時には、誤嚥に注意する。rapid sequence inductionがよいであろう。直腸癌で通過障害があるかもしれないことと麻薬による腸管蠕動の低下の可能性があり、胃内容物はおそらく停滞気味だと予想される。
・術前よりオピオイドを服用しているので、投与経路の変更(経口→経静脈に。モルヒネなら180mg経口→90mg経静脈、と1/2から1/3の量にする *モルヒネの生物学的利用率は33-50%)をして、術前・術中・術後に退薬症状(下痢、鼻漏、発汗、流涙、あくび、身震い、頻脈、高血圧等の自律神経症状や中枢神経症状)を生じさせないようにする。術前はオピオイド基本量は維持する(もしフェンタニルパッチをしていれば、小手術では継続、大手術では数時間前に中止~患者の体温が低下したり体液量の変化を伴うため。因みにフェンタニルパッチ中止後の血中濃度の半減期は16‐17時間)。
・麻酔に使用する鎮静剤と、術前投与の麻薬間との相互作用で、覚醒遅延の可能性がある。BIS測定が有効かもしれない。
・耐性(オピオイドレセプターのダウンレギュレーションが関与しているとされる。)や交差耐性により、手術侵襲に対して術中に使用するオピオイドの投与量の予測が難しい(必ずしも増えるわけではない)。大量投与により、術後の呼吸抑制や覚醒遅延につながる可能性があるので、麻酔覚醒後の呼吸数は12回程度以上あることを確認する。
・禁忌でなければNSAIDを併用する
*モルヒネ(オキシコドンも同様)の退薬症状の経過
・発症:6-18時間
・症状ピーク:36-72時間
・罹患期間:7-10日
*因みにフェンタニルは…
・発症:2-6時間
・症状のピーク:6-12時間
・罹患期間:4-5日
2.術後モルヒネ180mg/日をフェンタニルパッチへ変更する際,何mgフェンタニルパッチを使用したら良いか。(経口のモルヒネ180mg、として回答)
・モルヒネ経口60mg/日 = フェンタニル経皮2.5mg/3daysなので
フェンタニル経皮吸収型製剤(デュロテップMTパッチ)の3日間貼付型製剤8.4mgが妥当であろう。これはフェンタニルとしては50μg/hrの吸収量。(以前のデュロテップパッチで言えば7.5mg/3days)
ただし、作用発現に12-14時間かかるので、開始時期に注意。
*ワンデュロパッチ(1日製剤)なら3.4mgか5mg、フェントステープ(1日製剤)なら4mgか6mg
補) オキシコドン徐放製剤100mg/dayはモルヒネ経口150mg/day。 46C35
3)がん性疼痛を有する患者の全人的ケア
1.がん性疼痛治療におけるWHO 方式の三段階ラダーについて説明。
痛みの強さによる鎮痛薬の選択および鎮痛薬の段階的な使用法を示したものである。
軽度の痛みに対しては、第一段階の非オピオイド鎮痛薬を使用する。
中等度の痛みに対しては、第二段階の「軽度から中等度の強さの痛み」に用いるオピオイドを用いる。
強度の痛みに対しては、第三段階の強オピオイドを用いる。
いずれの段階においても、鎮痛補助薬を必要に応じて追加する。
2.WHO 方式のオピオイド処方時の5 原則を挙げる。
・経口的に
・時間を決めて
・ 除痛ラダーにそって効力の順に
・ 患者ごとの個別的な量で
・ その上で細かい配慮を
3.緩和ケアで用いる麻薬の内,知っているものを挙げてください。
コデイン、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、トラマドール、ペチジン、ペンタゾシン、ブプレノルフィン
@記載にあたり、参考にしたwebや論文など。大変お世話になりました。
・癌性疼痛患者の周術期オピオイド使用. 合併症患者の麻酔スタンダード、克誠堂出版、2008年、p261-265
・臨床医のくすり箱 医療用麻薬、2011年、南山堂
・Diagnosis and initial treatment of venous thromboembolism in patients with cancer. Clin Oncol. 2009 Oct 10;27(29):4889-94
・オピオイド変換表
http://www.geocities.jp/keisannote/opioidokansanhyou.htm
・ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/kannwairyou/Durotep.pdf
・Pain Relief
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/analg-opioid.html#narcotic
・がんの痛みの治療
http://blog.livedoor.jp/fumikazutakeda/