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2011年2月25日金曜日

(雑) in Pacifico Yokohama (day 2)

これは絶対花粉症だ。みなとみらいの観覧車前で日光浴をしていたら、突然の漿液性鼻汁とくしゃみで発症。東京は19℃。異常な暖かさ。

雑誌の座談会に参加する機会をいただいていたので、そちらにお邪魔する。麻酔科医御歴々の先生方のディスカッションに小童が小一時間ほど混じってみる。
そこで改めて認識したのは、「麻酔の手技や方法は、研修の初期段階で刷り込まれたやり方が、否がおうにも体に染み付いている」という当然過ぎる事実である。例えば10人弱のその座談会の場において、硬膜外麻酔の「loss of resistance」を空気で確かめる方法に挙手したのは、(その場では)、私だけであった。

あ、あれ?

空気で何が悪い。
悪いんです。少なくとも医学的に良いことは1つも教科書にはかかれていない(強いて挙げるなら抵抗消失が生理食塩液より分かりやすいこと、準備が要らないのでラクチンということくらいだろうか)。
それは私も良く知っている。
だが、たかだか0.5mlにも満たない空気が、成人の体内に送り込まれて空気塞栓の原因になったり、まだら効きの原因になったりするだろうか。
こういうことを私が主張するのは、いかにも今議員資格停止処分を受けている議員の主張に通ずるところがあるような気もする。そしてこの論法で仕事をしていると、「いつか痛い目に自分で遭わないと、習慣から脱け出せない愚か者」となる可能性がある。

座談会の後で聴いたsurviving sepsis campaign guideline(SSCG)のauthorの一人、Mitchell M. Levy先生の講演(Reducing Mortality in Severe Sepsis and Septic Shock)が終わった後、座長の先生がフロアに質問していた。
「SSCGに則って治療している病院の先生方、どのくらいいらっしゃいますか?」
会場には数百人のオーディエンスが居たと思うが、手を挙げたのは恐らく2割程度。これは私の推測よりも大分少ない割合であった(まぁやっていても挙手しなかった方も多かったかもしれないし、英語での質問をよく理解していなかった方もいたかもしれないので、正確なところは分からないが)。
英語でのSSCGについての講演を、わざわざ聴きに来る方々の中でも、2割程度の実践。硬膜外腔の確認を空気で行うのと違い、患者の死亡率を下げると複数の大規模研究で証明されているのにも拘らず、である。
硬膜外の空気とSSCGは同列に比べる問題ではないが。

うーん。

2011年2月24日木曜日

(雑) in Pacifico Yokohama (集中治療医学会 day 1)


集中治療医学会に参加するために東横線に乗ってパシフィコ横浜に行く。平日だというのに大勢の医師・看護師・臨床工学技師がいる。それぞれ職場から「行ってきていいよ」と許可されて来ている人たちの集まりである。発表者でなければ、パチンコに行こうがスパに行こうが咎められないであろうにも拘らず、何百、何千という人たちが一堂に会し、何らか知恵や知識を吸収しようとする姿勢に一人感動する。
 
メリトクラシー(meritocracy)というのは、努力するものに報いる制度である。それは誰でもその気になれば努力することができるということを前提としている。しかし、「その気になれば」というところに落とし穴がある。というのは、世の中には、「その気になれる人間」と「その気になれない人間」がおり、この差異は個人の資質ではなくむしろ社会的条件(階層化)に深くリンクしているからである。(内田樹 知に働けば蔵が建つ p64)

この文脈で言うと、おそらく私が学会会場で見かけた人々は、社会的条件に多分に恵まれた人々である(本人が意識しようとしまいと)。1-3時間の教育講演やシンポジウムに言葉を発することもなく、物音も立てず、じぃぃっと演者の言葉やスライドに耳や目を集中させることが、少なくともこの瞬間においてはパチンコやスパに勝っているのである。たとえ演者の話が途中で迂遠なものになり、初心者向けの講演と言いつつ無闇に略語を断りなく使い出し、「発表スライドの推敲してないだろ、もしかしてやっつけ仕事なのか?」とスライドの誤字脱字が妙に気になりだし、白背景に黒字のシンプルなパワーポイントに妙にイライラして、なぜか文字のフォントも小さく、箇条書きであるべきところがだらだらと数行に渡る文章になっていてアカデミックな内容であるか否か以前に発表の仕方をもう少し工夫して欲しいと僭越ながら思ってしまったり、仕舞いには「この演者は自分の語る言葉にどれくらいの情熱を傾けているのか」について懐疑的になってきたとしても、その場に座り続けることを選んでいるのである(それは私だけかもしれないが)。
自分が何かもの申すときは「時間×その場に居合わせた人の数」分の時間を、ありがた~く頂戴して喋っているのだ、ということに改めて思いを馳せた1日だった。

(麻) MH in Japan

2010年11月23日にたこつぼ型心筋症について記載しましたが、本当に当直帯に遭遇するとは思いませんでした。SAHの重症度に比例するのでしょうか。

***

Anesthesiology 2011;114: 84-90のPrevalence of Malignant Hyperthermia and Relationship with Anesthetics in Japan: Data from the Diagnosis Procedure Combination Database. ではDPCデータから抽出した悪性高熱症(MH)の発症率や麻酔薬との関連を論じています。東京大学の先生たちの報告。18ヶ月、全麻123万件程度を対象。

観察期間中にMHは17人(7.3万人に1人)、家族歴や神経筋疾患などのリスクファクターはなし、死亡例はそのうち1人(5.9%)、14人でセボフルランが使用されていた。男(オッズ比3.49)、29歳未満(同1.91)、セボフルラン(1.53)、ロクロニウム(2.03)などだった(ただしこれらの薬剤が要因か、までは論文中で触れられていない)。サクシニルコリンは因果関係不明。


***
日本では1985-2004年までは死亡率が15%程度だったようですから、2006-2008年に調査したこの論文のデータを見ると死亡率は格段に低下しています。
イチ麻酔科医としては、たとえ肺塞栓症より頻度が低くとも、実際に見たこともないMHに対して、本当にテキスト通りの対応ができるかどうかなんて自信があるわけありません。上記17人は一般的なリスクファクターがなかったのですから、MHは予測不可能。毎回「起こるかもしれない」と思って麻酔をかけていくしかないのかも。この論文を読んで以来、全麻導入後にはどんなバイタルよりも体温を気にするようになりました。

@一般的な悪性高熱症の知識(の一部) (2011年5月24日追記)
・15分間で0.5℃以上上昇、最高体温38℃以上
・ダントロレンは1-2mg/kgを10-15分で。一応7mg/kgまで。
・カルシウム拮抗薬はダントロレンとの併用で心停止の報告あり慎重投与
・MHに伴う血行動態変化は心筋酸素消費量を4倍に上昇させる。代謝亢進に伴う全身の酸素消費量は約3倍、血中乳酸値は15-20倍
・初発症状はETCO2の上昇 > 急激な体温上昇 > 原因不明の頻脈 
(古典的にはSCC投与後の咬筋硬直)
・遺伝子検査では必ずしも異常は認めない
・病因はリアノジン受容体の機能異常により、Caイオンによるカルシウムイオン放出(CICR)が亢進し、細胞内Caイオンの濃度上昇に伴う骨格筋収縮が生じるため

2011年2月22日火曜日

(本) 30歳からの人生戦略 ― 古市幸雄

副題には
勉強を「仕事とお金」に変える方法
とあります。

多くの医師にとっては、ここで書かれている戦略があろうとなかろうと、まずまず安定した収入を得て、人生を終えることができるかもしれません。医学部という、まさに医師を作るための工場で培養された人間にとっては、勉強(あくまでこの著者が言うところの勉強ですが)は既に多くの場合習慣になっており、勉強が仕事とお金に変わっています。勉強が習慣になっているのは、これまで馬鹿にされることが多かった「知識の暗記に偏った学校教育と受験」を、各人の好き嫌いはさておいて通過してきているからです。人並みの努力で云われるがままにこつこつと努力をしてきた人間が到達できる場所として、医師という職業は他職に比べて、経済的には恵まれていると私は思います。経営者ほどのキャッシュは得られないが、雇われる労働者として得られるお金としては十分すぎるでしょう。

・Dike wasn't a bad leader because he made bad decisions. He was a bad leader because he made no decisions.(バンドオブブラザーズ第7話、雪原の死闘 p34)
・Tell your audience what you're going to tell them. Tell them. Then tell them what you told them.(106)
・継続できるかどうかは、あなたがスランプに陥ったり、気分が乗らないときに、やり続けられるかどうかに掛かっているのです。・・・中略・・・。継続できている人は毎回、「する」ことを選んでいるだけです。(148)

これからのキャリア形成のヒントがあれば・・・と思い読んでみましたが、今の時点の私にはあまり活用できる文言は見つかりませんでした。どちらかというと、もらった給料を飲み会等に散財してしまって貯金がないという方や、電車で移動中はケータイでゲームor高齢者を差し置いて優先席に陣取って鼾をかいて爆睡・・・のような習慣を持った方(私がこれらの習慣を批判する気はありませんが)で「このままではダメだ」と思っているような人が読むと得るところがありそうな印象を受けました。読書家⇒金持ちの図式は成り立ちませんが、金持ち⇒読書家は結構な率であたっているのではないでしょうか。

2011年2月21日月曜日

(音) Dimmu Borgir in Shibuya

ライブは6年振りです。今回はノルウェーのブラックメタルバンドです。新作「Abrahadabra」があんまり素晴らしかったので、チケットを購入してしまいました。Dimmu Borgirの来日は10年ぶりらしいです。次があるかは分からないし、彼らの公演を見るためにヨーロッパにいくこともそう簡単にはできません。平日夜のライブ参加に協力してくださった職場の方々には本当に感謝。


巨大な「Abrahadabra」アルバムのジャケットをステージ背景に構え、赤いライトが妖しく光る。タバコくさい。久しぶりに行ったライブハウス(o-east)はそんな場所。オーディエンスにはメタルTシャツを着た冴えない男性だけではなく、ねぇちゃんやおじょーちゃんや外人さんもいます。意外にファン層は広い様子。
「コブクロ?まぁ好きかも。彼女が好きなら付き合っていこっかなぁ」くらいのちょこっと好きレベルでは恐らくディムボガーのライブには来ないでしょう。後ろのほうにいても仕方ないのでステージから3列目程度の最前列近くの場所に移動します。


開演前の会場内にはGamma Rayが流れていました。アルバム「Somewhere out in the sky」から「Watcher in the Sky」「Shine on」と流れ、Helloweenの古典的名曲「March of Time」「Eagle fly free」「I want out」とGerman Metalを堪能したところでバンドが登場。19時ぴったりにアルバム通りに「Xibir」でスタートします。
お気に入りだった「Gateways」や「Progenies Of The Great Apocalypse」は意外にこじんまりとしていましたが「Dimmu Borgir」や「Ritualist」、過去の「The Chosen Legacy」や「Indoctrination」が非常にライブ映えしていたのが、そんなマイナス感を帳消しに。疾走曲になると私の前にいたロングヘアのお嬢さんが激しくヘッドバンキングをしており、とってもアットホームな気分になります。なぜか涙腺が緩んだのはそれほど思い入れのない曲「Puritania」が演奏されたとき。ライブではスタジオアルバムと違った魅力に出会える、ということも久しぶりに思い出しました。
それにしても、1曲の中でもシンフォニックに、暴力的に、転調を繰り返す彼らの楽曲群がこれほどライブでも映えるとは知りませんでした。キーボードが奏でる音をもっと強調したステージ作りをして欲しかったようにも感じますが、よりギターとドラムが強調された今日のような音作りのほうがオーディエンスの乗りはいいのでしょう。
1番の収穫はブラストビートを連発するドラムの激音がこの五体にビシバシと響くことがこれほどまでに快楽をもたらすのか、ということ。スキンヘッドで怪しい笑みを浮かべながらギターを演奏するGalderを間近に見ることができたのも、嬉しい体験でした。


ステージが90分で終わってしまったのが残念でしたが、アンコールをおねだりするオーディエンスたる我々会場の一体感はあまりなかったですし、オーディエンスもバンドも90分で燃え尽きたのかもしれません。ともかくも素晴らしい体験でした。

2011年2月18日金曜日

(雑) 今年は麻酔専門医試験が1週間早いらしい

研修医時代の「臨床実績報告書」に科長の署名をいただくべく、昔の勤務先に依頼書を送ったところ、返信が来てました。感謝。
書類には、麻酔科責任者(自署)を記載するようにと書かれています、そのため、「名前だけだし、自分で書いちゃお」と自分で代筆したりすると、後々ばれて大変なことに巻き込まれる可能性があります。やってはいけません。当たり前ですが。


久しぶりにJSAのホームページを見たら
2011年度麻酔専門医試験の試験日程は、9月30日(金)、10月1日(土)、10月2日(日)」と書いているではないですか!てっきり10月7-9日だと思っていたのに。
そしていつの間にか5月の総会の事前申し込みが始まっており、人気のDAMなどはもう定員いっぱいで締め切られています。何と皆さん勉強熱心なことか。完全に出遅れました。まぁいいや。取り敢えず専門医試験の申請に必要な書類を整理しよっと。


久しぶりの手術室監督で、歩くこと歩くこと12226歩達成。今日は大きなトラブルなく順調で何より。

2011年2月15日火曜日

(本) 苦役列車 ― 西村賢太

当直入りには何故か「お供」が欲しくなります。一通り、予定手術・緊急手術の麻酔が終了した後にちょっと読めるような文章を。生まれてはじめて「文藝春秋」を買ったのは芥川賞作品が2作収録されているという月並みな理由からですが、私の興味は専らこの著作にあったのでした。流石に朝7時半から麻酔の準備をし、全症例が終了する25時半まで18時間動き続けた後では読めませんでしたが、当直明けに読了。

著者の自伝的要素が多分に入っているという本作。中学卒業後各種アルバイトを転々とした(逮捕歴もある)とプロフィールにあります。そのような人生の中で、どのようにして、これほど読ませる文章を書く力を身につけていったのか。驚嘆。非常に長~い以下の一文がとても印象的。

加えて、すでに戸籍上では他人になっているとは云い条、実の父親がとんでもない性犯罪者であったことからの引け目と云うか、所詮、自分は何を努力し、どう歯を食いしばって人並みな人生コースを目指そうと、性犯罪者の伜だと知られれば途端にどの道だって閉ざされようとの諦めから、何もこの先四年もバカ面さげて、コツコツ夜学に通う必要もあるまいなぞ、すっかりヤケな心境にもなり、進路については本来持たれるべき担任教諭とのその手の話し合いも一切行わず、また教諭の方でも平生よほど彼のことが憎かったとみえ、さわらぬ神に祟りなしと云った態度で全く接触を試みぬまま、見事に卒業式までやり過ごしてくれていたから、畢竟、彼に卒業後のその就職先の当てなぞ云うのはまるでない状況だった。(p445-6, 文藝春秋 2011年3月)

濃密な臭いを発散する文章に窒息しそうになります。

2011年2月14日月曜日

(本) 君がオヤジになる前に ― 堀江貴文

・いまどき料理が不得意なんて、あり得ない。野菜を切って、コンロを使って、調味料をふる。たったこれぐらいの手間を惜しんでいる人に、幸福な人生がやってくるわけがない。「面倒臭い」は、思考停止した人間の、自覚のない敗北宣言だ。(p65)
・失敗や苦労は、若い時は買ってでもしろと言うけれど、僕は違うと思う。苦労を買うより、ミスを防止する思考力を育てる方が、若い人には大事だ。(71)
・自分が持っているパフォーマンスを最大限に活かさないのは、人が生まれた才能に対する冒涜だと考えている。(145)
・皮膚感覚で嫌だということを、受け入れてしまった後の後悔は、何億円稼いだって拭えるものではないだろう。(148)
・もし本気で負のループを断ち切りたいのなら、まず自分の孤独と真剣に向き合うべきだ。・・・(中略)逆境は我慢と、あがくことでしか乗り越えられないことを知っている。(168)
・こう打って、こう指せば必ず詰めるという将棋しか、指そうとしてない。でも人生って絶対、詰め将棋なんかじゃない。(205)

前に進むためには家族も友人も切ってきた、と本書のいたるところで語っていますが、それに拒絶反応を示す人は多いでしょう。著者の名前を見ただけで本書を手に取らない人もそれ以上に多いでしょう。本書で示されているような氏の価値観を私は全く否定しませんし、できませんし、する権利もありません。もっとも、こんな考え方をする人ばかりの世の中で生きていたいとは思いませんが。
仕事に対する情熱と行動力、それにかけてきた時間と成果は私の比ではないということだけは、本書を読んでよく分かる事実でした。(まさにこの点こそが、私が氏の価値観をどうこう論ずることができない理由です。何事も成し遂げていない私は、人のことをおこがましく批判できる存在とはなり得ません。)
共感できるところと共感できないところと玉石混交の本書でしたが、このような考えをもつ人が世の中にいて(そして恐らく絶対的少数といえるほど少なくはないでしょう)、自分の哲学の下に自分の生きたいように生きているという事実がある。それは素晴らしいことで、学ぶことが多々あった一冊でした。

2011年2月13日日曜日

(音) Sirenia の The Enigma of Life (2011年)

ノルウェイのゴシックメタルバンド。「The 13th Floor」 (2009年)に続く5作目のアルバム。基本的には前作を踏襲した1枚です。
メタリックなギターサウンドや荘厳なコーラスパート、デスヴォーカルパートは前作より薄め、ヴォーカルAilynの可憐な歌声をより前面に押し出した結果、コマーシャルな、非常に聴きやすいサウンドになっています。起伏に富んだ煌びやかな装飾の前作より、落ち着いた作風です。
本作の最高潮はタイトルトラックの#12「The Enigma of Life」。彼らが表現したいであろう耽美的な世界を極限まで突き詰めたスローバラードですが、魂の慟哭とも言うべき悲壮な世界観にただただ唖然とします。この曲をもってSireniaの孤高性がまた一段高みに上ったと思います。
Bonus Trackとして収録されている「El Enigma de la Vida」は「The Enigma of Life」のスペイン語歌唱版です。こちらは英語版に比べ、より退廃的な雰囲気が出ており、味わい深い仕上がりとなっています。

2011年2月12日土曜日

(雑) 打率7割7分2厘

東京で本格的に雪が降った翌日。

初めて行く開業の眼科病院にて、外来手術・造影剤使用(FGA = fluorescent gonio angiography)検査のための点滴を終日取り続けます。
打率は何のことはない、本日の私の「一刺し目での点滴成功率」です。

非常に拙い。

点滴が下手な麻酔科医は麻酔科の看板を下ろした方がよいと常々思っていましたが、今日ほど本気で思ったことはありません。眼科の局所麻酔手術で薬剤投与をすることは殆どないので、普段手術室で小さい子供以外では使ったこともないような24ゲージなどの極細のカテーテルを入れていたのですが。

それにしても入らない。

アウェーで本調子が出なかったということを多めに見積もったとしても、酷かった。というか、そういうことを言い訳にしている時点でプロ失格ですが。
二刺ししてしまった患者さんたちには心からお詫びしたい。今日は色々と勉強になった一日でした。

2011年2月10日木曜日

(本) American Pie ~Slice of Life Essays on America and Japan~― Kay Hetherly

20の短編エッセイの集合体で、私でも一冊読み通すことができました。単語のレベルは易しいのに、ところどころに深い意味合いの言葉が埋め込まれています。

・A variation of the expression "I am what I am," this line implies that your basic character never really changes. It also suggests that where you come from is who you are. (p28)
・Maybe everyone who has left home and gone back knows that felling: you can always go back to your hometown, but you can never really go back "home" again. (p58)


2011年2月8日火曜日

(走) Training in Rena (其の九十六~七) と (本) 向日葵の咲かない夏 ― 道尾秀介 

2/6 6.0km 35min (8.5-11.0km/h, 傾斜 0-9.0)
2/8 6.0km 41min (8.0-11.0km/h, 傾斜 0-9.0)
矢張り当直明けは疲れやすい気がします。

***
表題の小説は2009年に日本で一番売れた文庫(オリコン発表)らしいですが。このような「首を吊った小学生がクモに生まれかわったり、犬猫が殺されて関節を逆に折りまげられる」ようなお話が、あまり大衆受けするとは想像できません。読者によっては露骨に嫌悪感を示すような気が。それでも売れているということは、つまり他の本があまりにも売れなくなっているということなのでしょうか?
普段ミステリに分類される本を読まないので、読後は「・・・・え?終わり??それで?」という狐につままれたような凡庸極まりない感想を持ったのみ。それでも作者の巧妙な物語の運び方に巧みに読まされてしまったわけですが、内容のほうは一読しただけでは、今一つ理解ができませんでした。そのため、後から何度か読み返して「あぁなるほど」と合点して、作者のストーリテリングの上手さに感動してしまったというわけです。普段数冊の本を平行して読むのが常ですが、この作品は中一日(当直帯に暇だったら読もうと画策していたのですが、それは無理でした)で読みきってしまいました。それ位読ませる作品でした。

ネット上で色々な意見を見ると、「感情移入できない」(そりゃそうだろう)とか、「酷い話」(これまた題材的にはそりゃそうでしょう)とか。批判的なことを表明する人が非常に多くいることが、また新鮮な驚きでした。

2011年2月5日土曜日

(走) Training in Rena (其の九十四~五) と (音) EL&P ― 展覧会の絵

2/2 5.0km 34min (8-12km/h, 傾斜 0-9)
2/5 7.0km 45min (8-10km/h, 傾斜 0)
total distance: 682.1km (Nov 52.2km, Dec 42.2km, Jan 21.1km, Feb 12.0km)
total time: 4263min = 71h03m

いつの間にか、目的を意識した状態で走り始めてから1年経ちました。走る習慣をつけること自体が目的でしたが、今は走らないと何となく落ち着かない程度にまでなりました。恐らく習慣化することには成功したと思います。山手線は1周34.5kmらしいので、この1年で19.7周した計算になります。マイペースマイペース。

***
Emerson, Lake & Palmer に「Pictures at an Exhibition」(1971年, 英)という有名なアルバムがあります。
モデスト・ムソルグスキーの「展覧会の絵」をアレンジしたものです。
B級ホラー映画で使われそうなおどろどろしいキーボードのイントロに始まり、ギターのアルペジオがあり、昂ぶり過ぎないヴォーカルライン、最後はもっと聴いていたいと思わせるような美しいメロディで4:43があっという間に終わってしまう。
以前はそれほど感じませんでしたがこの4曲目「The Sage」は私の琴線に触れる曲だと最近気づきました。市場に出回っている音楽は商品といえば商品ですが、その1つ1つがとても私的な出会いを提供してくれる。同じ曲を聴いていても、聴くタイミングや人によって全く感じ方が異なる。そのことにいつも感動を覚えます。

(本) 「患者様」が医療を壊す ― 岩田健太郎

もし、あなたが患者さんだったら、
「ああ、私の主治医の先生は私なんかよりずっと偉大な人なんだ。この人について行けば大丈夫だ」
と強く信じることをお奨めします。(p32)

感染症を専門とする有名な先生が医療の諸問題に対して、緩い語り口で綴っています。どこかで読んだ文体だな・・・と思って読みすすめると、著者自身もあとがきで書いているように内田樹氏の文章から影響されているのでした。どうりで思想も論理もすっと私の心に入って来るわけでした。

・ふざけたガセネタほど、丁寧に誠実に反駁する、これがリスク下における正しい振る舞い方です。(p152)
・何度も繰り返しますが、僕らの居る世界は「どちらに進んでもリスクはゼロにならない」宿命を背負っているのです。(162)
・医療における善悪の問題は多くの場合絶対的な正否の問題ではなく、価値観としての「好悪」の問題であることが多いです。好悪の問題である、という認識の元で少しトーンを下げて医師の見解を述べれば、対立構造の起きる可能性は減るでしょう。(192)
・事物はその目的に応じてその価値が決定されるのである。一律に硬直的に事物の価値に優劣をつけるのは価値観の押しつけに過ぎない。(195)

本書を読むと、自分の価値観は価値観として、身の回りで振りかざされている一般的な「多くの人が賛同しやすい、こうあるべきだという正論」に、もう少しばかり慎重になろうと思います。「こんな酷い状態、患者さんの自業自得だ」、という分かりやすく同調しやすい意見も日々、私がそのように知らず知らずのうちに教育され、認知してきた結果に過ぎません。自分の立っている場所を相対化するのに役に立つ一冊でした。ありがとうございました。

(本) 多読術 ― 松岡正剛

・本は「水たまり」のようなもの(p143)
・誰かに薦められた本は読むべきです。その意味が十年後でもわからずとも、三十年後にはわかろうとも。(p145)
・本はリスク、リスペクト、リコメンデーションの3R(146)

「無知から未知へ」と。この200頁ほどの本の中にも、著者が引用する大量のreferenceからは、知らない知の大海が大きく広がっていることが分かりました。読書が生活の一部になってくると、もう読書が生活の一部ではなかった頃に戻れません。しかし、読書が毒にもなり薬にもなるという一面を時々思い出そうと思った一冊でした。

2011年2月4日金曜日

(本) 40歳からの知的生産術 ― 谷岡一郎

4月からお世話になる予定の病院に見学に行く。電車で片道1時間半。
見学に行った後に大学に戻ったりしていたら、結局今日一日で4時間くらい電車に乗っていました。
***

本書の歯に衣着せぬ物言いに対峙した時に、拒絶感を強く感じる人がいる気がします。本書で取り上げられている「ダメなものの例」が、一般社会の卑近な例(誰に対しても身近と考えられる)のため、大いに共感するところも多々ありました(共感するだけでは知性が育たないと著者には言われるでしょうが)。それらの俗世に対する意見が、愚痴や悪口に留まっていないように感じるのは、「著者の言葉の遣い方が慎重だから」ではないかと感じます。その筆跡は乱暴な意見のようでいて、非常に注意深い印象を受けました。

・ですから脳の体力・持久力を鍛えることを、僕はずっと意識してきました。具体的には、日本棋院での対局を終えて家に帰ってきた後、疲労困憊の状態でさらに、インターネットなどで早碁を打つのです。それも一局や二局ではなく、寝てしまうくらい疲れきるまでです。疲れに任せて漠然と打つのではなく、脳が疲労しきっていても、さらにもう一段階上の集中力を発揮して、それなりにレベルの高い内容の碁を打たなければなりません。(中略)普段から「疲れきった脳に最後の一仕事をさせる訓練」を積んでおかなければならないのです。(p59-60 張栩『勝利は10%から積み上げる』朝日新聞出版、2010年)
・とにかく「放っておいてはならないこと」は先送りしてはならない。たとえ今、余分に時間を使うことになろうとも、ボトム・ラインの哲学を成し遂げることは、優先させなくてはならない。(p76)
・「自分で考える時間を確保するために、情報をカットする時間をあえて作る」 (p162)

タイトルを見ただけで、39歳以下の人は手に取らないのかもしれませんが、書かれている内容はむしろ若い人たち向けです。そして、そのような、年齢的に、熟年者よりも相対的に可塑性がある人たちが読む方が、日本の将来にはよい影響を与えると、私は感じました。

2011年2月1日火曜日

(麻?) 大学院への英語~もしかしたら医学系、分子生物学系、生命科学系の大学院進学志望者に応用可能かもしれない

大学院試験が終わりました。胸のつかえがおりるとは将にこのこと。

医学部の学生には
・大学在学中に数ヶ月英米へ留学
・親や親戚が医師(海外勤務だったりする)→それに乗っかって幼少の頃から英語の教育を「あたかも一般市民がテレビを毎日見るかの如く」特別な努力をしているという意識なしに受けている。
・学生時からUSMLE(アメリカの医師国家試験)受験のために英語を凄まじく勉強している。そして実際に合格しちゃう。
というように、勉強が習慣の一部となっている方がいっぱいいます。
私はそのような方々とは違って、これまで英語学習はサボってきていましたので、非常に今苦しい思いをしたと言うわけです。自業自得です。
でももしかすると、そのような境遇におかれて、2-3ヶ月の学習で大学院入試を突破する必要がある、「遅まきながら向学心に燃えてしまった」私のようなドクターもいらっしゃるかもしれませんので、ここに記載しておきたいと思います。
よく大学院試験は名前だけ書けば合格する・・・とも聞きますがどうなんでしょう。流石に白紙で零点の人と、満点の人を同じ大学院に入れてはまずいような気がしますよ。いくら大学院に行く人が少ない時代だとしても。それに英語不得意な人が受験を期に曲がりなりにも英文と格闘することが、マイナスになることは一切ないでしょう。
~受験までの道のり~
まさかこの年になってZ会の英語本を買って勉強することになるとは思いませんでした。
院試のために通勤中に読んでいたのは「テーマ別英単語ACADEMIC(初級、中級、上級)」の3冊。これは日本語の解説も充実しているので、お勧めです。
それ以外には・・・(◎はおすすめ)
@英文読解・・・
◎過去問(5年分の前期・後期で計10回分の過去問)
・オンデマンド英語教材ライフサイエンス(http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/ja/service/ondemand/index.html)
・Nature (よく出題されている。私は一切読みませんでしたが)
・Scientific American (こちらもよく出題されている。こちらも一切読めませんでした。日本語訳の日経サイエンスは読んだけど)
@英単語・・・
所謂、英単語の参考書は全く使用しませんでした。それよりも過去問の分からない単語や抄読会の英語論文で分からない単語をきっちり文章で記録して、何回も見直した方がよいと思います。(三十路になると十代の頃のごり押し暗記は不可能です。私自身は、Gmailの「下書き」に英語例文集を記録しておき、出勤途中や麻酔の合間にiPhoneでちょこちょこ見直すようにして、記憶を定着させようと努めました。)

@周辺知識を集めるための読書・・・
・日経サイエンス過去数か月分(大学院の英語試験は背景の知識がないと大変かもしれません。そういう意味では、医学・科学の世界のトピックをつかんでおいた方がよさそうです)
◎犠牲 / 柳田邦男 /文春文庫 
◎命は誰のものか / 香川知晶 /Discover
◎医療と生命(シリーズ<人間論の21世紀的課題>) /ナカニシヤ出版
・まだ科学で解けない13の謎
・世界は分けても分からない

@大学院で研究するための客観的理由や遣り甲斐を考えたければ・・・
◎博士号を取る時に考えること取った後できること 生命科学を学んだ人の人生設計 / 三浦有紀子・仙石慎太郎 /羊土社
・医系流れがわかる研究トレーニング How To /佐藤雅昭他 /メディカルレビュー社
◎やるべきことが見えてくる研究者の仕事術 プロフェッショナル根性論 /島岡要 /羊土社
・ 科学者として生き残る方法 /フェデリコ・ロージ他 /日経BP

@解答用紙におかしな日本語を書かないために・・・
・「超」文章法 /野口悠紀雄 /中公新書
・伝わる・揺さぶる!文章を書く /山田ズーニー /PHP新書
◎簡単だけど、だれも教えてくれない77のテクニック 文章力の基本 /阿部紘久 /日本実業出版社
・理科系の作文技術 /木下是雄 /中公新書
・医学部への小論文 /湯木知史 /Gakken

@英語リスニング・・・
リスニング問題はありませんでしたが、来る海外での学会発表(あるのかな?)に向けて聴いておいて損はない筈。
◎VOA(Podcast)
・OpenAnesthesia.org (Podcast)
◎The World of Anesthesiology Podcast
・Gaba G style English (Podcast。このクォリティの番組が無料で提供されているのが凄い。英会話教室に通うよりこれ見ながらシャドーイングしたほうが喋れる様になる気がします。)
・iTunes U 「Anesthesia Nursing Program」
・CNN English Express 2010年12月号2011年1月号、2月号
はっきり言って音楽鑑賞が趣味の人間にPodcastを聴いての英語の学習は苦行です。しかし、歯磨きみたいなもんだ、と思えば、徐々に聴かないと気持ち悪くなってくるレベルに達します。それまでは「思考は現実化する」のナポレオン・ヒル先生が書いている「毎日1時間、報酬以外の仕事に従事せよ」という言葉を妄信して聴こうじゃありませんか。
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これで院試に落ちたら、何ごともなかったかのように、麻酔専門医試験の方に話題をシフトしていくことにしよっと。

・・・しかし、麻酔科医として仕事をしながら(当直のシフトもリスクマネージャの仕事も何もかも勿論そのままで)勉強するってけっこー大変かも。家の机で「さぁやるか」と構えてした勉強は殆どなかった。そうでなくても、通勤の電車の中や、外勤先に行った際にちょこっとあいて喫茶店でとか。隙間時間はいくらでもある。寧ろ、捻出するのに苦労するのは恒常的なやる気。(2011年9月6日追記)

(音) Stratovarius の ELYSIUM (2011年)

いくら英語の過去問を解いても知らない単語は出てくるし、知らない話題は出てくるし、無限回廊のようです。ですが、こんなフレーズに試験問題とはいえ遭遇すると何とも言えない気持ちになります。


They are chronically hungry, unable to get health care, lack safe drinking water and sanitation, cannot afford education for their children and perhaps lack rudimentary shelter and basic articles of clothing, like shoes.


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私にとって、バンドの新譜を聴いてがっかりするのは、
「そのバンドに無意識のうちに求めている、過去の名曲と似て非なるいい曲」
に新譜の中で出会えなかったときです。


「Stratovariusと私」の約13年間の歴史においては、9作目「Elements Pt.1」(2003年)がそうだったため酷く落胆してしまい、暫くStratovariusから遠ざかっていたのです。
恐らく、8作目の「Infinite」(2000年)が結構なお気に入りだったためでもあるわけですが。「Infinite」収録の「Infinity」が映画「スパイ・ゾルゲ」(2003年)のCMで頻繁にオンエアされていたのが気になり、映画館に見に行ってしまったくらいです(映画本編では全く使われておらず、これまた酷く落胆してしまいましたが)。


この新作は前作「Polaris」同様、タイトル通りの美麗なアートワーク。
ちなみに「Elysium / ilí(ː)ʒiəm」は
1.《ギリシャ神話》エリュシオン(善人が死後に住む至福の地)
2.理想郷
という意味のようです。

そして本作は内容も美麗なものになっています。

「EPISODE」や「VISIONS」といった彼らのクラシックスに及ばないと切り捨てるのは簡単ですが、本作からは、新しい何かがこれからの彼らに生まれるような、そんな爽快感を封じ込めた1枚のように感じられます。
典型的なスピードメタル「Infernal Maze」「Event Horizon」、「Castaway」、彼ら自身が確立したスタイルで安心できる大仰かつシンフォニックなスロー曲「Fairness Justified」や「Lifetime in a Moment」等、往年のファンでも楽しめるつくりになっています。
#9の長尺「Elysium」((18分07秒)は間違いなく本作のハイライト。5分~と11分~で曲調が大きく変化するため、1曲が3つのパートに分かれています。一聴するだけでスペクタクル映画を1本見終えたような満足感が得られる佳作に仕上がっています。

とはいうもののボーナストラック的に収録されている「Against the Wind」や「Black Diamond」を聴いてしまうと、「あぁ、やっぱり昔の曲はいいなぁ」と思ってしまう自分もいます。