このブログを検索

2011年8月31日水曜日

(研) ここに来て、早五箇月

当面の課題
・本や情報の取捨選択に、自分の脳のフィルターが掛かることは致し方無いことである。問題は、自分というフィルターの質をどう高めていくか。フィルターがいつまでも同じだと、得る情報や思考回路の向上は望むべくも無い。本屋で買う本も自分の知的限界を痛感するようなものしか選ばないだろうし、狩猟するwebの情報の程度もいつまでも一緒だろう。恐らく多くの書物や情報や人々の語る言葉に接することで、徐々にフィルターは変質していくのだろうが、それを少しでもよい方向になるよう仕向けたい。
・現状維持は最悪の愚策である。
・やる気が減退しているときに如何にやり続けられるか

***
第一、当事者が本気で行い、身銭を切り、人生を棒に振るつもりでやっているのならば、たとえそんな理由なぞ皆目分からなくとも、自身では一向にかまわぬことである。(廃疾かかえて - 西村賢太 膿汁の流れ p158)

2011年8月30日火曜日

(雑) 新聞を買わなくなって、早幾歳

一日中western blotと格闘。
考えうるあらゆるpitfallに落ちており、結果の解釈どころの話ではない。
でも、穴を一個ずつ埋めてやるしかない。

***
滅多に読まない毎日新聞の社説をウェブで読む。

「かいらい政権」という単語を発見。
新聞が国民の知的向上推進を放棄して久しいと私は感じていたが、漢字も読めなくていいらしい。
「傀儡政権」と書くことを、何時から新聞は放棄したのだろう。
難しい漢字を「ひらく」ような、低位の知的水準を標的とした新聞は、やがてなくなるだろう。

と主張するのは「私は、ちょっとばかし難しい漢字を読めるんだぜ」と高慢に振舞いたいからではない(傀儡、が読めても何の自慢にもならないし、そもそも調べれば分かるようなことを自慢げに語っても何の得もない。それに私はよく漢字変換を間違えるし)。

そうではなくて、新聞の主義・主張に目新しい視点がないことや、論理的破綻が数多あることには目を瞑るけれども(それらの主張に反論するトレーニングとして利用できる為)、漢字も読めないような国民を量産するおつもりなのか、ということをお伺いしたいのである。
漢字を「ひらく」ことが、新聞の購買層を広げるための商業的な戦略だとしたら、それは恐らく失敗だろう。
そもそも「漢字が難しいから新聞を読まない」という人は、最初から新聞を読まないだろう。「ニュースはYahoo!ニュースで十分じゃね?タダだし」と考える賢明な方々のうちの何%かはそのような方であろう。
だとすると、このような気の抜けた「かいらい政権」との表記は、誰の、如何なる要望に答えての対応なのか、または、誰に阿(おもね)っての事なのだろうか。
新聞を読む人は、読み書きのできる最低限の知的水準の持ち主であろうから、難しい漢字や意味のわからない単語を調べるくらいの知的好奇心を併せ持つと考えられる。少なくとも私は、意味の分からない単語に遭遇したら、それを調べる位のことはするだろう。新聞の主な読者は、私より一回りも二回りも上の世代の方々が中心であろうから、そのような方々に「かいらい」と書いて提示すれば、下手をすると「馬鹿にしてんのか」とお怒りを買う可能性すらあるだろう。

別の可能性を考えてみる。
もし、「難しい漢字があると小中学生が読めないから」という理由から、「かいらい」になったとすれば。
私は、余計に意気消沈してしまう。

「お父さん、この漢字なんて読むの?」
「それはね、傀儡(かいらい)と読むんだよ。操り人形ってことだよ」
「へぇ~」

という会話が繰り広げられる家庭はおそらく日本全国の家庭のうち、0.01%程度あればいい方だろうが、このような時に「かいらい」と書かれていれば

「お父さん、かいらいって何?」
「それはね、操り人形ってことだよ。○○が代表になっていたら、全部△△の言いなりになってたかもしれないってことだね」
「へぇ~、△△って人はすごいんだね!」

という会話は行われるかもしれないけれど、そこに

「傀儡」って何だかすげー漢字。こんな難しい漢字もあるんだ…。

というようなちょっとした驚きやわくわくした感情は生まれないだろう。
もしかしたらその小学生なりが「傀儡っていう漢字がなんだかカッコよくて、それで漢字ってすげーな、って子供心に思って、それで漢字ばっかり勉強して…今みたいな学者になりました」
という、知的再生産の葦の内の貴重な一本になる可能性を摘み取っている可能性がある。
まぁ、ただでさえ、親世代の新聞購読者が減少しているから、子供が新聞を読むなんて、相当稀なんだろうが。

書いていて改めて思ったが、新聞が発行部数を落としている1つの理由として、難しい漢字表記を「ひらく」ような知的水準の退廃に、嫌気が差してきている日本国民が増えてきていることがあるのではないだろうか。新聞社は、自らの知的向上の放棄による購買部数の低下を、「インターネットによって無料の情報を狩猟できるから売れなくてもしょうがないよね」という理論に甘えているのであろうか。

しかし、新聞社としての方針に従わざるをえない大人の事情があるとしても、新聞の紙面に文字を書くことを生業としている人にとって、難しい漢字を「ひらく」ことは面白いことではないだろうな…漢字が読めない首相、と時折、首相の白痴ぶりを新聞などのメディアは取り上げるけれども、逆に「漢字が書けない新聞」と言われたとしたら、それは恥ずかしいことではないのだろうか。

と、ぐだぐだと、これまでいろんな人が書いているだろうことを、ここで私が再掲してまで新聞を批判したのは、新聞には知的刺激装置としての機能を果たしていただきたいからである。
もしもそんな日が来たら、私はいずれかの新聞に、お金を払って、その活字を読み、紙の手触りを味わい、匂いすら嗅いでみたいと思う…が、生きているうちには恐らくそんな気分にはならないだろうな…。だってウェブ上で無料の情報が手に入ってしまうんだから。

2011年8月29日月曜日

(雑) Paraskevi-phobia

遡ること3日前の金曜日。

緊急で申し込まれたBMI 43.5のcaesarean delivery。

体重をみると、私より多い。

…。

ん?

…。

私たち夫婦を足した値より多い。

…。

spinal anesthesiaがfirst choiceな訳だが。
心頭滅却してトライ。

…。
おー、ミラクル、逆流あり。
なんだ血液か。

・・・。

・・・。

入んね。

・・・。

・・・。
歌詞がリフレイン。

でも、ヒーローになりたい、ただ一人、君にとっての…。
…。

…。

やっぱり入んね。

…。

常勤の先生に手をかえたら、1分経たずに入れてくれた。
…。

後光が見える。

夕方だったからよかったが、夜中だったら確実に全麻になってたな。
私はバイト麻酔科医なのに…。
これしきのスキルじゃ、バイト麻酔じゃ食っていけない。

その上、例え麻酔科医を10年やっても、20年やっても今日の脊髄くも膜下麻酔が入る気は全くしない。

…。
今回の当直代は屈辱代。

注)
paraskevi : 金曜日
-phobia : ~恐怖症

2011年8月28日日曜日

(雑) 深く静かに潜航せよ

恐らく私もそのうちの1人なのだが、言論の自由の意味を履き違えた輩たちが、web上に「お犬さまの縄張りマーキング」の如く、好き勝手に欲望の呪詛を書き綴り続けたために、却って言論の自由はなくなりつつあるように感じる今日この頃。そしてそれはwebだけでなく、その他の悉(ことごと)くに適用されているような。

***
福岡教育大(福岡県宗像市)が09年に福岡市で開いた講演会で、外部講師が校区内に同和地区がある中学校教諭の困難ぶりをユダヤ人が大量虐殺された収容所にたとえ「アウシュビッツ」などと発言していたことが分かった。大学側は講演録を記載した紀要(論文集)を発行し関係機関などに送っていたが、不適切な点があったことを認め、回収作業を進めている。(毎日新聞 2011年8月25日 21時45分)
***

アウシュビッツや同和の話に、ここでは当然立ち入らない。そしてこの記事の成り行きに異議あり、と申し上げるつもりもない、何故ならアウシュビッツも同和地区の問題も、そのどちらの話題についても、私は素人レベルの知識や理解しか持ち合わせていない。そして、そんな状態で何かを語れば、こんな零細ブロガーの、どこの馬の骨とも解らぬ私の記述にさえ過敏に反応する方がいらっしゃるし(Googleの検索を馬鹿にしてはいけない)、世界の何処かから有難い御批判・非難を頂く事ほぼ必定だからである。ましてやブログタイトルに「医師」であることを宣言している。一般社会の所謂「常識的感覚」からは「医師は高度の倫理観を持つべきである」とされており、世間様から医師への御批判・非難の閾値は、その他の方々に対してよりも低下することが容易に予想される。映画批評サイトであれば許容される「グロテスク」や「ネクロマンティック」や「ブレインデッド」といった所謂露悪趣味の映画について滔々と語ることは、医師という看板を掲げたままに語ることを控えたほうがよろしいかもしれないということである。

誰か(たち)が「不適切」だと考え、それが起爆剤となって引火を繰り返し、皆が不適切の大合唱を始め、炎上し炎上し、灰となって燃え尽きてもなお大合唱は止まない。それがここ最近の世相の一部である。

web社会における真の危険回避は、
「沈思黙考、自分が深くコミットしない問題には立ちいらず、語ったとしても、誰からも悪意の侵入を受けないような無害な話題に終始すること」
否、
「web上では何も語らず、サブマリンのように静かにあちらこちらのサイトをブラウジングして独りぶつぶつと画面の前で喋りながら有用な情報をコピー&ペーストし続ける」ことかもしれない。

以上のことは考えすぎかもしれないが、最低でもこれくらいのことを考えてweb上に文字を彫り続けないと、私もいつの日か数多の不幸な人々のように、医師としてあるまじき「不適切発言」で、一般社会から退場させられるかもしれない。自分の麻酔技術の不備や痴漢の冤罪で社会から退場させられるより以前に。

2011年8月25日木曜日

(雑) ついに受験票が送られてきた

本当に4日間の日程でやるんだ…。
あと1ヵ月か…。
弁当の注文…。
1000円か…。
いらないや…。

(雑) 目の前に晒されると気にならざるを得ない、AneCan編

あれは確か…帰り道に池袋駅ですれ違った女性のチークが、何故か右側だけ妙に濃くて、遠目からは一瞬「DVの傷跡か?!」、と妄想させられた日、だったから、8月16日の出来事。
という文脈で過去の日付を思い出す人を、私は、ちょっとばかり警戒するかもしれない。

ある特定の日付の思い出し方が「俺の地元の高校が3回も逆転して10-9で甲子園で初勝利をおさめた日」という想起の仕方だったら、あまり不審に思わず、あぁこの人は地元ラブなのね、くらいですむだろう。

その違いは何だろう…と思いながら、電車に乗ったところ、AneCan(姉キャン) の吊り革広告に目がとまった。
美人さんの容姿に目が行ったのではない。

「麗子OLの1か月CD」
と書かれていて興味を惹かれたのである。

CD?

私の知ってるCDは
音楽のcompact discと
cash dispenserと
偽膜性腸炎を起こすClostridium difficileという菌
くらいで、その中でAneCanで取り上げられる可能性が1番高いと推測されたのが音楽のCDだったからだ(それすら低いだろうとは思ったけど)。

1か月のCD特集、、これは興味深い。世のアラサーOL様たちが何を聴いて日々を送っているのか(あるいはAneCanは、その読者にどのような音楽を聴くことを欲しているのか)はほんのちょっと気になる。だが、音楽はとっくにダウンロードする時代になっているし、流行を作り出すのがこの手の雑誌の欲望するところの筈なのに、CDを特集するとは随分とアグレッシブに攻めてきたもんだ。いよいよ人生初のAneCan購入か、、、いやAneCan買うのは少女漫画を買うより恥ずかしいから妻に買って来てもらおう、、と妄想しつつ吊り革広告のそばににじりにじり寄ってみたら小さな文字で。

コーディネート。

と書かれていた。

こー、ディネート?
co・ordinateでは?

音節は無視か…。

いや、多分、ファッション雑誌では当たり前の略し方なのだろう。
そもそもAneCanは私を読者対象とは絶対に考えていないだろうし…。

いずれにせよ、8月で一番落胆した出来事だった。

と思って辞書を引いてみたが、
分節は「co・or・di・nate」だった。

だから、いいのか…。

2011年8月24日水曜日

(雑) 目の前に晒されると気にならざるを得ない

与党代表選の最有力候補は、端正なお顔立ちの元党代表らしい。やっぱりテレビ受けするもんなぁ…。国民の支持率も高いようだけど、やっぱり皆イケメンが好きなんだよなぁ。政策が他の候補者とどう違うか、なんて、皆どうでもいいんだろうなぁ。

その表れか、彼が党代表選に出馬を決めた翌日のトップニュースは、タレントの引退会見だった。
与党の党代表選、もとい次期総理大臣選は、2006年以降毎年の恒例行事化している。もはや誰がなろうと日本の平和は同じように保たれているように多くの国民には見える(または誰がなっても駄目っぷりは同じだろうというように、多くの国民が考えている)ことから、メディアの取り上げもその程度、ということなんだろうなぁ。
私にとっては、どちらも同程度に興味がないのだが、メディアが「多くの国民にとって、より大きな関心事は次の首相が誰になるかの行方、よりも、タレントの引退会見だろう」と認識している(NHKも含めて)ことが、私が今日分かった小さな小さなことである。

2011年8月23日火曜日

(音) Fleshgod Apocalypse - Agony (2011年, Italy) (やっぱり凄かった)

2007年~イタリアのテクニカルデスメタルバンドのフルアルバム2作目。

恐らくデスメタルを主食とする人たちには、このアルバムはオーケストラ、シンフォニックなアレンジが強すぎて、それ程受けないのかもしれないが、シンフォニックメタルを主食とする私には、2011年5指に入る大傑作作品。
世の中にヘヴィメタルを標榜するバンドは数多あれど、このアルバムほど、メタルでなければ描けない世界を描いているアルバムはそうそうないだろう。

Dimmu Borgir的な曲にCryptopsy的な半端ない音数のドラムで演奏してくれちゃったら、もうそれだけで感涙ものなのだが、そこにダークサイドなオーケストレーションが加わり、全編圧倒的な音の塊。デス声が時折クリーンヴォーカルになり、無慈悲な孤高さを演出する。
この手のデスメタルでは、オーケストレーションが曲の飾り程度にしか使われないことが多く、真性デスメタルファンではない私には、それが不満だった。本作ではシンフォニックな管弦楽パートが見事に曲の一部として融合してしまっているのが何よりも特筆すべき点。デスメタル+シンフォニーというのは誰かがどこかでやっているのだろうけれど、ここまで美しく作られた楽曲群を私はこれまで未体験だったので、尚更ぐいぐい引き込まれた。

本作購入の決め手だった#5「The Violation」だけが突出した神曲というわけではなく、しかし、この曲が本作のハイライトではありながら、他のどの曲も押し並べて完成度が高い。加えて曲間の切れ目がほぼ皆無で、全編通して1つの曲、のようにも受け取れる。そのため、曲ごとの差別化は何回か聴かないとできないように思えるが、どの曲も荘厳激烈極まりないため、好きな人は好き、飽きる人は途中で飽きて脱落、「デスメタル」と聴いただけで逃げる人は端(はな)から聴かない、といういつもの構図に落ち着くだろう。

1. Temptation
2. The Hypocrisy
3. The Imposition
4. The Deceit
5. The Violation
6. The Egoism
7. The Betrayal
8. The Forsaking
9. The Oppression
10. Agony
11. Heartwork (Carcass cover)

ということでピアノソロな#10以外に凡曲が全く見当たらない上に、#11の「Heartwork」もシンフォニックアレンジで素敵出来。
初聴のバンドで、こんなにスリリングな作品に出会えたのは久しぶり。今年の研究室の猛暑を締めくくる(まだ?)にふさわしい作品でした。

2009:Oracles (1st full album)
2010:Mafia (EP)
もそのうち聴こう…。

(麻) 麻酔科専門医認定試験口答試験2010年症例4-1 胸部下行大動脈瘤の切迫破裂

簡単な人には簡単で、難しい人には難しい…のかな、こういう大血管問題って。
明暗が分かれそうですな。


@症例
・76 歳男性。165cm、55kg。
・胸部下行大動脈瘤に対しCPB下での人工血管置換術が予定。
・5 年前に大動脈弁置換術を受けた。
・10 年前よりカプトリル(ACE 阻害薬)、経口血糖降下剤、5年前からワルファリン内服中。

1) 術前評価と管理
1.この患者の術前での問題点を挙げる問題点
・心臓について一通りチェック。運動耐用能はどうか。A弁の動きはどうか、ASやARになっていないか、冠動脈疾患の有無(冠動脈造影所見)、収縮能拡張能はどの程度か、他の弁の動きがどうか。
・高血圧の程度をチェック。術当日のACE阻害薬は中止する
・DMについて程度をチェック。コントロール不良ならばインスリン導入を検討。罹患歴10年と長いので、腎臓・目・末梢神経障害の有無、特に腎機能低下がどの程度かをチェックする。
・抗凝固を術前にヘパリンに変更する

その他で知りたいこと
・頸動脈病変の合併は
・呼吸器や肝機能、腎機能等、他臓器の障害の有無
・TEEを是非使用したいので食道や胃の病変や手術歴の有無

2.手術前にワルファリンを未分画へパリンに変更。ヘパリン開始3 日目に貧血はないが、血小板が22 万から7 万へと低下。原因は?
・血液疾患の可能性もあるが・・・ヘパリン起因性血小板減少症 (heparin-induced thrombocytopenia、以下HIT)を第一に考える。
ヘパリン投与2~3日後の発症ならば、HITのI型の可能性もあるが、I型の場合、10~30%の血小板減少が起こるとされる。本症例では70%程度の減少がみられており、典型的ではない。そのため、時期としては典型例より早い(通常投与開始5~14日後~平均10日位~に発症)が、HIT II型の可能性がある(II型では15万/μl以下の減少、50%の減少)。

以下、聞かれてないのでおまけ:本患者では人工弁のため、抗凝固療法は必須である。 HIT I型ならヘパリンの投与を中止せずとも血小板数は自然に回復し合併症も起こさないが、II型の場合、ヘパリンの持続投与により動静脈塞栓症の危険性が高い。そのため、ヘパリンをただちに中止し、抗PF4・ヘパリン複合体抗体(HIT抗体)を測定し、代替の抗凝固療法(アルガトロバン)の投与を開始するのがよいだろうと考える。

2) 麻酔法および術中管理
1.胸痛が出現し、切迫破裂が疑われたため、緊急手術が行なわれることに。麻酔管理のポイントを挙げる。


(*注)HITではなく、夜間1人で当直している時にかかってきた悪夢のPHS…という設定で答えてみる。
・切迫破裂であればバイタルは安定していると考えられる。抗凝固中で出血の危険性も極めて高いので、待機的に手術できるのであればそちらの方が安全であると考えられる。降圧薬や鎮痛薬投与をして経過観察し、貧血の進行やバイタルの悪化、破裂所見の進行がなければ数日~10数日様子を見て、待機的に手術を行う。

もしショックバイタルなら待てないので当然緊急手術。
~オペ室に来る前にすべきこと~
・on callの若くてやる気のある麻酔科医(いれば)を呼ぶ。
・輸血の準備を大量にしてもらう(RCC 20U, FFP 20Uをまず)。血小板も必要。麻酔導入時には、輸血が手元にあることが必須。必ず確認。
・ヘパリン置換前、ワルファリン内服中での発症ならビタミンK(ケイツーNなど。10-20mg。アナフィラキシーに注意)を投与してもらう。その際は恐らく止血に大苦戦するだろうからFFPがもっと必要かもしれない。
・術式、体外循環の方法を確認する。下行大動脈ならおそらく右半側臥位のspiral incision(LiSA 2008年6月号p 619)だろうから、分離肺換気を要求されるだろう。左用DLTを入れるためには大動脈瘤で左主気管支が圧排されていないかをCTで確認しておく。また、動脈圧ラインをどこか入れるか(左鎖骨下動脈がクランプされるなら右橈骨動脈から挿入、また大腿動脈の非送血側にA-lineを留置))も予め相談。以上を外科医に確認しておく。
・もし家族を呼んで、手術の説明してから手術…であれば、家族を待っている間に外科医に右内頸静脈からCVCとPACを入れてもらう。いろんな余裕があれば気管挿管後の方が安全かもしれないが、その場合でも、麻酔導入前に太い口径の末梢静脈路があった方がよい。
~手術室~
・麻酔導入中に破裂するかもしれないので、麻酔導入前に外科医と機械出しナースが手洗い+ガウン着用をしていることが必要。
・血圧のコントロール。下げすぎず、決して上げすぎず。麻酔導入前にA-lineを必ず挿入。薬はミダゾラム(±ケタミン)、フェンタニル(or レミフェンタニル)、ロクロニウム。もちろんrapid sequenceで。循環変動に即座に対応できるよう、Ca拮抗薬や超短時間作用型βブロッカも吸っておいた方がよいだろう。
・MEPを測定するならプロポフォールやフェンタニルやケタミンで麻酔維持。

2.術中の大動脈遮断により心血管系ではどのような生理学的変化が予想されるか。
・急激な後負荷増大によって、
遮断近位側の血圧上昇
左室拡張終期圧の上昇
心負荷の増加
心筋酸素消費量の増加
が起こる

3) 周術期危機管理
1.胸部下行大動脈瘤手術における注意すべき神経学的合併症は何か。その原因と予見するためのモニタリングは何か。
・脊髄虚血(Adamkiewicz動脈は90%がTh7-L1)による対麻痺
モニタリング→MEP(motor evoked potential:運動誘発電位):頭皮上に刺激電極を貼って大脳皮質の運動野を刺激して下肢の筋収縮を測定。脊髄運動下降路の障害の有無を経時的にモニタ。術中はMEPの波形が観察されるような血圧で管理を行う必要あり。

(おまけ…SEP(somatosensory evoked potential:体性感覚誘発電位)は脊髄前角の虚血を反映しない。そのためSEPが正常でも対麻痺がおこる可能性がある。)


2.一般的な脊髄保護として考えられる方法を挙げる。
・CSFドレナージ:L3/4かL4/5よりくも膜下にカテーテルを留置。術中は10cmH2Oを超えないようドレナージ。術後数日で抜去する。
・硬膜外冷却法:硬膜外カテーテルから4℃の生食を潅流させる。CSF圧を見ながら。

・低体温(33-34℃程度)
・薬物投与(ナロキソン。ステロイドはヒトにおいてはCSFドレナージと併用でのみ効果あり、とMiller日本語版p1634にあり)
・遠位大動脈潅流

4)接遇問題―歯牙動揺のいきさつと今後の方針を説明をしましょう

記載のために参考にした文献やWebなど~大変お世話になりました
・ヘパリン起因性血小板減少症患者の大血管手術周術期抗凝固管理. 日本臨床麻酔学会誌 Vol. 28 (2008) , No. 7 951-955
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/28/7/28_951/_article/-char/ja
・HIT情報センター
http://www.hit-center.jp/contents/hit-genkyo.php
・LiSA別冊'06 胸腹部大動脈瘤手術の脊髄保護戦略
・LiSA2008年6月号p618-629
心臓手術の実際―外科医が語る術式、臨床工学技士が語る体外循環法(2008年,秀潤社) p154-161
・臨床麻酔2006年9月号 腹部大動脈瘤破裂患者の麻酔管理 p1384-1391
・大動脈外科と脊髄保護─コンセプトの変化と麻酔科の役割─. 日臨麻会誌 Vol. 30: 497-505, (2010) .
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/30/4/30_497/_article/-char/ja
・脳脊髄循環からみた脊椎外科・大血管外科における脊髄保護. 日臨麻会誌 Vol. 31: 193-201, (2011) .
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/31/2/31_193/_article/-char/ja/
***
Anesthesiology November 2011 - Volume 115 - Issue 5 - p 1093–1102
にCase Scenario: Anesthetic Considerations for Thoracoabdominal Aortic Aneurysm Repair
が掲載されていますので、知識の復習に。freeです。(2012/2/20追記)

2011年8月22日月曜日

(雑) "続・オヤジの一番長い日" ~私的「24」ならぬ「44」

私はいつも意識を失っている患者さんの頭側に立っている。

だから、患者さんの顔をまじまじと見ることが多い。
しかし、患者さんの頭側から覗き込むので、顔立ちとしての造形美についてはよくわからない。

口には気管チューブが挿入されているし、鼻からは胃管が挿入されているし、目はアイパッチという角膜が乾燥しないためのシールを貼ってしまうので、どんな美人さんでも美人さんじゃなくてもあんまり変わりないのだ。
でもいつも気になって気になって仕方ないことがある。

それは目脂(めやに)だ。

ご老人だと結構しっかり頑固にこびりついていることが多い。長期入院の方に多いのは想像できるが、中には昨日入院、今日手術、数日後退院のスケジュールなのに、がっちりとついていることもあるのだ。
この方は入院してなくても、目脂をごっそり付けたままスーパーに買い物に行ってたのだろうか、とか目脂がべっとり張り付いたままパチンコ屋でスロット打ってたのだろうか…と思うとなんとも言われない気持ちになる。

目脂はおそらく、患者さんに無断でゴシゴシ取り除いても「お前、なんてことしてくれたんだよ!大事に取っておいたのに!」と怒髪天で憤慨されることはないだろう。だから、手術が終わって、アイパッチを剥がし、患者さんの意識が戻る前にガーゼなどでゴシゴシと取って差し上げることは、私の麻酔をやる上での、いくつかある楽しみのうちの1つである。

もう一つ気になることがある。

それは鼻毛(はなげ)だ。

びよ~んと、もの凄い長さのモノが1本だけ飛び出ていたりすると、切りたくて切りたくてウズウズしてしまう。だが、鼻毛の場合、「お前、なんてことしてくれたんだよ!その一本だけ伸ばして大事に取っておいたのに!」と万が一にも怒髪天で憤慨されることがあるかもしれないので、今日までの麻酔科医人生4年5ヵ月間で、患者さんに無断で鼻毛を切ったことはない。
いつか我慢できずに切ってしまう日がくるんだろうか…その時は術後回診時にきちんと説明した方がいいのだろうか…いやいや術前回診の時に説明しておく必要があるな。

「万が一、目に余る長さの鼻毛等がございましたら、全身麻酔中に処理させていただきます。」

それが高じて、そのうち、胆嚢を手術で取るついでに顔の無駄毛処理やフェイシャルパック、整髪パーマ染毛、二重瞼のプチ整形まで付いてきちゃうようなサービスが全身麻酔下にオペ室で行われるようになるのかなぁ。既に行われているのかなぁ。

***
などと妄想していて罰があたったのか、2か月と10日ぶり位に、オールナイトで麻酔をする羽目になった。
私は勝手に緊急手術の麻酔grading scaleを作って、難しい方から順にS級、A級、B級、C級(注1)に分類しているのだが、今回のはA級1件、S級1件、B級1件だった。なんにせよ、26時間中に6件の麻酔管理をしたのは久しぶり。真夜中に輸血をポンピングしたのも久しぶり。私はバイト麻酔科医なのに…。

これは自分の撒いた種ではない。
最早、金曜日に眠れるなんて甘い考えは捨てよう。

注1:C級とは、緊急手術なのにスパイロ検査をやっていたり、絶飲食時間がたっぷり取ってあったりする「外科医の都合による予定緊急手術」である。

2011年8月18日木曜日

(麻) 麻酔科専門医認定試験口答試験-2007年症例7-喘息患者の橈骨抜釘術

こちらもI先生からいただいたものを加筆したものです。

症例
・56歳男性。178cm、55kg
・左橈骨骨折術後の抜釘術
・小児期から気管支喘息があり、一年に数回、特に季節の変わり目に喘息発作が起こる。1ヶ月前にも発作が起こり、ステロイド吸入と気管支拡張薬の吸入療法を受けた。

1)術前評価
1.術前回診で必要な問診と検査について述べて下さい。
問診)
・現在、調子の良い時期か悪い時期か?分泌量はどうか?
・コントローラーは何を使用しているか?きちんと定期的にコントローラーを使用しているか?
・特にテオフィリン内服患者においては、血中濃度確認。
・レリーバーは何を使用しているか?最終発作とそのときの治療。
・ステロイドの内服歴は?
・喫煙の有無・ アスピリン喘息の可能性は?
・薬剤アレルギーの有無

検査)聴診、胸部レントゲン、スパイログラム

*もし調子の悪い時期であれば、緊急手術ではないので、喘息の状態が改善するまで手術を延期することも患者さんや主治医と相談してよいと考える。

2)麻酔法および術中管理
1.この症例で選択する麻酔方法について理由を付けて説明。
・腕神経叢ブロック。喘息があるので、気道に刺激を与えたくないから。

2.この症例を腕神経叢ブロックで行う場合どのようなアプローチがあるか。選んだアプローチの利点と合併症を挙げる。
斜角筋間アプローチ、鎖骨上アプローチ、鎖骨下アプローチ、腋窩アプローチ
私なら・・・、鎖骨下アプローチ(超音波ガイド下、神経刺激装置併用)で、カテーテルを挿入する。
利点:斜角筋間アプローチや鎖骨上アプローチのような横隔神経麻痺やホルネル症候群が非常に稀。気胸の危険性はあるが、鎖骨上アプローチよりも頻度が少ない。カテーテル挿入位置が感染しにくく、見えやすく、固定性もよく、管理がしやすい。
合併症:気胸、血管損傷、神経損傷、局所麻酔薬中毒、感染、腫脹

3.この症例を全身麻酔で行うとすればどのような麻酔管理をおこなうか。
・気管挿管下にセボフルランとレミフェンタニルで行う。挿管前にセボフルラン濃度をしっかり高くし、レミフェンタニルの血中濃度が十分高くなるようにする。手術侵襲を考えるとLMAやi-Gelでもよいだろうが、術中に喉頭痙攣や重度の喘息発作が起こった時に換気ができなくなる可能性があるため、初めから気管内挿管で行う。
・術中、浅麻酔にならないように十分気を付ける。抜管は、深麻酔下またはしっかりと覚醒させてから行う。深麻酔のうちに、気管内吸引を行なっておく。
・手元にβ刺激薬を準備しておき、術中呼吸回路から使用できるように準備しておく。
・テオフィリンとステロイドを手元に準備しておく。

4.術後鎮痛は。
・腕神経叢ブロックなら…鎖骨下アプローチで後神経束近くにカテーテルを挿入。0.2%ロピバカイン4-6ml/hrを持続投与する。
・全身麻酔なら…アスピリン喘息ならNSAIDsは使用しない。抜釘ならペンタゾシンとアセトアミノフェンの併用で乗り切れるのではないだろうか。

3)周術期危機管理
1.術中に突然SpO2が90%以下に低下。どのように対処するか。
・術者に異常事態であることを告げ、外回り看護師に、他の上級麻酔科医(いれば)を呼んでもらう。
・酸素100%にし、麻酔回路と気管チューブ(もしくはLMA等)が接続されているか確認する。
・パルスオキシメータが患者さんの指にきちんと装着されていることを確認しつつ、換気を手動に替えバッグの重さを触診。聴診してwheezeが聴こえないか確認する。
・テオフィリンやアドレナリンやステロイドやサルブタモール等が手元になければ持ってきてもらう(救急カートにあればカートごと)。血圧がどの程度かも確認する。
・以上の対処をしつつ、麻酔機のトラブル、喘息発作、分泌物による閉塞、気胸、肺塞栓を鑑別する。
・喘息発作が最も疑わしければ、セボフルランを深くし、深くなってから、気管内吸引をする。
β2刺激薬の吸入を行う。アミノフィリン250mgを生食100mlに溶解し、半量を15分で、残りを45分かけて、持続静注する。ただし、もともとテオフィリンを内服しており血中濃度が8μg/mlの場合は、その半量とする。アスピリン喘息でなければ、ヒドロコルチゾン200mgを持続静注。それでも改善しなければアドレナリン1/3A程度を皮下注。

*喘息発作だと思っていても、アナフィラキシーの症状として出ている可能性があることを忘れない方がよいでしょう。覆布の下の患者さんの体に発赤がないか…をチェックするのって焦っていると忘れてしまいがちになる。

参考web
・麻酔と救急のために
http://www.msanuki.com/m/index.php?%E5%96%98%E6%81%AF%E6%B2%BB%E7%99%82%E5%89%A4
・リウマチ・アレルギー情報センター 成人気管支喘息ガイドライン
http://www.allergy.go.jp/allergy/guideline/02/contents_04.html#8
・慶應義塾大学医学部麻酔学教室 術中喘息発作の治療ガイドライン
http://www.keio-anesthesiology.jp/clinical/m09.html

2011年8月16日火曜日

(雑) 上野のパワースポット

週末。
「空海と密教美術」展(東京国立博物館)に行って来た。

9:30開場のところ、9:40に着いたら長蛇の列。入場まで10分位待ったかな…。9:30より前に行くか、10時過ぎくらいに行った方がいいかも。
どこに隠れていたのか、世の中にこれほど空海に興味がある人がいたとは。
仏像より書が素晴らしかったな…。

***
んで昨日。
悪いことした。

帰りの電車を待っている21時半。英語圏から来たであろう若い外人さんカップルにホテルの場所を尋ねられた。恐らく2人の今日の宿泊場所だろう。ホテルの名前に、自分たちが今いる駅名が入ってたものだから、そしておそらく彼女たちもそうだと思ったにちがいなかったから、我々はこの駅で出会ったのだが、残念なことに、彼女が手にしている紙にはホテル名とホテルの外観の写真しか載っていなかった。

iPhoneで調べて、マップを見せてあっちの方角だよ、と教えたのはいいが。
よくよく見てみると、ホテルへは、もう一つ隣の駅から歩いた方が大分近かったのであった。小さな親切大きなお世話。相手のペースに呑まれず、もうちよっと調べて差し上げればよかった。

この暑いなか、散々歩いて、
彼氏「何であんなやつに聞いたんだよ」
彼女「あんたが地図をプリントアウトしてこなかったからでしょ、この役立たず!!」
と喧嘩になってなきゃいいな。もしかして新婚旅行で日本に来て、今日のこのエピソードが離婚のきっかけになったりして。しかも震災のために四ヶ月位遅らせてわざわざ日本に来てくれたのかもしれないのに。しかも円高で、どこに行っても当初の予定よりお金がかかっていて、普段はラブラブな2人の関係に溝ができているのかもしれない。あぁ、しかも腹ペコだったかもしれない。彼女の方は結構ふくよかだったから、もしかしなら人一倍お腹を空かせていたかも。それで10分以上も歩いたら、普段は温厚な彼女の怒りの閾値も下がるだろうなぁ、せめて私が持ってたガムでもあげればよかった、、、、。

と色々考えてしまうけど、貧困な私の妄想力ではこれ位しか思い浮かばないや。

***
Evernoteは10か月前にダウンロードしていたのだが、しばらく存在自体を忘れかけていた。このたび、iPhoneに「PostEver」のアプリをダウンロードした。何かのメモをそこで取って、Evernoteにどんどん送ることができる。パソコンにもEvernoteをダウンロードすることで、同じ情報が同期される。
今日から実験中のメモも、試験的にEvernote上に書き込むことにした。文字を入力してるそばから自動で保存してくれるのが嬉しいところ。実験のプロトコール等を移動中にiPhoneで見ることはあまりないだろうが、「何でも記録しておかないと心配になる病」に若干罹患気味な私には、大変役立つツールとなるだろう。そして、今日からPhotoshopとIllustratorを使い始めた。今のところ使い方がよく分からないが、まぁなんとかやっていこう。
加えて、解析用のアプリケーションをダウンロード。こちらはさらに訳が分からない。
こうしてどんどん覚えることが増えていくのであった。不良債権化しないようにしていかないと…。

(雑) Black "Nex" Aftermath

私は弁当とともに、水筒も持参するようになったのだが、その中身が麦茶やウーロン茶や玄米茶やジャスミン茶、という「~茶」にすっかり飽きてしまった。

そして、茶を持参するくせに、脱水を言い訳にコーラやブラックコーヒーを買ってしまっていたりしていた。

ということで「コーヒーかコーラ、どちらかを水筒で持っていけないだろうか?」と思ったのであった。

コーヒーを500ml持っていくのは・・・・この論文を読んでやっぱりやめた。

Epidemiologic evidence on coffee and cancer. Nutr Cancer. 2010;62(3):271-83.

のThere appears to be no association with breast, pancreatic, kidney, ovarian, prostate, or gastric cancer. Risk of bladder cancer appears to be associated with heavy coffee consumption in some populations and among men. The associations with childhood leukemia and mother’s consumption of coffee were ambiguous—with some suggestion of risk at high levels of daily consumption.


国立がん研究センター
喫煙、コーヒー、緑茶、カフェイン摂取と膀胱がん発生率との関係について
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/339.html

別にコーヒーを飲むことをやめるわけではない。
肉食やアルコールが大腸がんのリスクだったり、たばこが肺がん食道がん喉頭がんのリスクだったりしても、やめない人はやめない。大したリスクではないので、コーヒーをやめる必要もないのだが。知られているすべてのリスクを回避したとしても、発がんするときは発がんするだろう。

んで、コーラを水筒に入れて持って行った2日目。初日は全く問題なかったのに、何故か水筒のふたが緩んでいて、カバンと水筒の周囲にあった文庫本4冊が残念なことになった。本当にどうでもよくないけどどうでもよいことなのだが、Naglfarというブラックメタルバンドの「Sheol」というアルバムの2曲目に「Black God Aftermath」という曲がある。何故かペプシネックスで汚染されたカバンや本を見て、「綺麗に拭かなくちゃ」ということよりも、まず1番先に想起されたのが、この曲名とヴォーカルの咆哮だった。

ということで、「コーラ水筒で持っていこう計画」はたった2日であえなく潰えた…という話、をあえてブログに残しておくと、今後の自分のためや、誰かのためになるのかよくわからないが、一応書いておこうと。

2011年8月14日日曜日

(走) Training in Rena (其の百十七-九)

暑さで生命力が減退しているが、それに甘えていてはいかん、と思い走ったところ、3週間も間隔が空いてしまっていたことに気づく。

7/17 10.0km, 66min (9-11km/h, 傾斜 0) → 初めて論文を読みながら走ってみる。距離が短く感じた。あまり読みやすいとはいえない。
7/24 5.0km, 32min (9-11km/h, 傾斜 0) → 頭痛のため途中で中断
8/14 5.0km, 31min (8.5-12.5km/h, 傾斜0-3.0) → 論文を持って行ってみたが、トレーニングマシンの台において走ってみると、文字が小さくて読めないことに気付く。もっと大きい文字に印刷してこないとだめなのか。

total distance: 835.2km (July 34.0km, August 5.0km)
total time: 5262min = 88h21m (since 7th, Feb, 2010 走り始めて今日で554日目)

(音) Fleshgod Apocalypse - Agony(まだ聴いてないけど)


こりゃあ確かに凄い。

最近、「英語に慣れようキャンペーン」の一環として、英語のウェブサイトでメタルの情報を狩猟するようになってきている。
その中に「METAL STORM」というメタルアルバムのレビューサイトがある。今日現在6276バンド、37977枚のアルバムについてレビューされている。
んで、「2011年のアルバム1位」に選出されていたのが、このイタリアのバンドの作品。本当にいいのかよ…と思って半信半疑のままYou Tubeでみた"The Violation"のあまりの破壊力に一聴するなり大爆笑。確かに…凄い。
ハリウッド映画のサウンドトラックのようなシンフォニックで大仰なサウンドが一気にデスメタル化するイントロは芸術そのもの。Dimmu Borgirがデスメタルをやっているようなサウンドで、ヴォーカルもデス声主体だが時折キャッチーなクリーンヴォイス化するため、デスメタルの中では相当聴きやすい部類に入ると思う。輸入版はもう日本でも手に入るようだけど、8月19日のiTunesでの発売を待ってみることにしよう。楽しみ。

2011年8月13日土曜日

(雑) ボイリング

暑い。
1ヵ月暑く、3週間涼しめ(30℃前後)の気温だったが、この1週間でまた毎日35℃前後をうろうろしている。研究室の中も毎日30℃以上。

Ischemic preconditioning initially referred to the ability of short periods of ischemia to limit infarct size. (Circulation. 1986; 74:1124 –1136.)
虚血プレコンディショニング(短時間の虚血が梗塞巣を制限する)って単語が何故か思い浮かぶ。ちょっとの猛暑だったら体も慣れるのかもしれないが、私の体細胞という体細胞は前回の1ヵ月の猛暑ですっかりぐったりしてしまっているらしく、今回は1週間もたずに毎日へとへとである。
ぐったりしながら、日々細胞を培養皿に蒔き、論文を狩猟し、ラットの様子を見に行ったり、試薬の量はマイクログラムなのかナノグラムなのか、細胞数は10の五乗なのか六乗なのか何度も何度もチェックし、これからやる予定の実験の計画をしたり、そして、ときどき麻酔をしたり、麻酔科学的なことを考えたりしている。

今週の実験に使っていたプラスミド(環状DNA)を間違えて使っていたらしく、当然ながら実験をやり直すことになった。
間違っていたことすら気づかなかったら、そりゃぁ間違う。別にこれは指導者のせいではない。私が確認すべきことを怠ったせいである。前回別の実験に使ったプラスミドを、今回の実験でも使ってよいと思い込んでいたために起こった間違いである。
これは研修医の先生の指導にも通じることだな。目の前の研修医の先生が何を知っていて何を知らないか。何かを教えようと欲する時には、常にそこから始めなくてはいけない。覚えとこ。

他の実験でも、培養皿に蒔く細胞数がよくなかったため(?)にうまくいかなかった実験をやり直している。
err and try, try and errの繰り返し。コンタミは最近全くしなくなったな…。それくらいが進歩かな。

実験の待ち時間。4時間ある。
21時半なのに、何故かまだ研究室内は31.5℃もある。
もう皆帰ってしまった…。
こんな風に過ぎていく8月も悪くないのかもしれない。

2011年8月11日木曜日

(麻) 麻酔科専門医認定試験口頭試験2007年-症例7-子宮癌広汎子宮全摘術DVT肺塞栓

I先生からの寄稿を改訂して掲載いたしました。感謝。

@症例
・73歳女性。150cm、82kg
・子宮癌に対し広汎子宮全摘出術が予定
・高血圧がありCa拮抗薬を内服し、血圧は正常範囲内
・膝関節症と下腿の痛みと発赤あり、日頃からあまり運動はしない

1)術前評価と管理
1.術前状態における問題点を列挙。
・ 60歳以上の骨盤内悪性腫瘍に対する根治術予定
・ 肥満(3度) BMI 36.4
・ カルシウム拮抗薬内服にてコントロール良好な高血圧
・ 膝関節症による運動制限
・ 深部静脈血栓症を疑わせる所見(下腿の痛みと発赤)

2.術前にどのような検査を行うか。
ルーチンの検査(血算、生化学、凝固、感染症、心電図、胸部X−p、呼吸機能検査)以外に、DVTの診断:D-dimmer測定, 下肢静脈に対する超音波検査, 腹部造影CTでIVCや腸骨静脈の圧迫による血栓がないか見たい。
また、肥満で高血圧があるので、胸部までCTが撮影されていれば、冠動脈や大動脈の石灰化も見ておきたい。また、肥満なので、硬膜外腔までのおよその距離をCTで測定しておきたい。

2)麻酔法および術中管理
1.硬膜外麻酔を施行するとしたらどのような点に気をつけるか。
DVTを疑わせる所見があり、術前より抗凝固療法が行われていないかどうか確かめる。原疾患による凝固異常もないか留意。
また、術後の抗凝固療法の予定の有無を主治医に確認。硬膜外カテーテル挿入時だけでなく、抜去前後での抗凝固薬の中止が必要という情報を主治医が認識しているか確認する。

2.この患者の導入時の危険性について述べて下さい。
・肥満(3度)があるため、換気困難が予測される。換気困難時には低酸素血症発症の危険性が非肥満者より高くなる。
・舌や咽頭浮腫の可能性があり、挿管困難も予想される。
・高血圧があるため、血圧変動が大きいことが予想される。
・導入時だけではないが、PEのリスクあり。

3)周術期管理
1.導入後100%酸素でマスク換気を試みましたが困難。対処法について説明。
・まず落ち着いて、これからすべきことを頭の中で整理する。
・換気介助可能な人を呼ぶ。外科医でも手術室看護師でも上手に介助できる人であれば誰でも。
・経口エアウェイか経鼻エアウェイを挿入し、再度換気を試みる。
・1人での換気が困難な場合、2人法を試みる。
@既に筋弛緩薬が投与されていたら…LMAやi-Gelが手元に準備されていなければ取りに行ってもらう。DAMカートがあればなおよい。また、普段からミニトラック等の取扱いに慣れている医師(自分がそうならば、一番良いのだが…)が思い当ればその医師を呼んでもらう。
それとともに挿管を試みる。1度喉頭展開して無理もしくは一度AWSを使用して無理ならば、深追いしない。声門の浮腫が強くなると、覚醒させたときに患者さんが自力で呼吸することもできなくなるためである。挿管が無理ならば、周りにいてかつ手が空いていて、かつ冷静に薬液をシリンジに吸えそうな人を指名してスガマデクス16mg/kg(80×16=1280mg)「20mlのシリンジにブリディオン6バイアル吸ってください」と相手が勘違いしないようにきちんと指示して吸ってもらう。その後投与し、自発呼吸を再開させ、覚醒させる。
@筋弛緩が投与されていなかったら(換気ができることを確認してから筋弛緩を投与するという、お作法をきちんと守っていたならば)
・患者を一度覚醒させ、自発呼吸温存下に経鼻ファイバー挿管に切り替える。

2.術中ETCO2の急激な低下とSpO2の低下あり。何を疑うか。その場合、他にどのような症状が現れるか。どのような対応をするか。
・第1に肺塞栓症を疑う
・症状:血圧低下、心電図変化(下記)、心停止
・対応:まず緊急事態であることを宣言し、人を集める。PCPSが挿入できるように心臓外科医や臨床工学技士を呼ぶ。同時に100%酸素投与、気道内圧が高ければ少し低めになるよう設定。術者に手術を一時中断してもらい心臓マッサージを依頼、PCPSの準備ができるまで頑張ってもらう。麻酔科医はアドレナリン等の昇圧剤を使用。人手に余裕があれば、TEEを持ってきてもらう。massive PEなら直接見えるだろうし、そうでなくても右心不全所見はとれるだろう。
治療はヘパリンを5000-10000単位投与したいが、術野の出血コントロールの程度との相談。カテーテルインターベンションか外科的血栓摘除になるだろうが、これらは様々な人的制限がない状態での理想的な治療オプションとなるだろう。

*心電図変化
・sinus tachycardia and atrial arrhythmias in 83% of patients with a confirmed diagnosis of PE; atrial arrhythmias, in particular, were associated with a higher mortality rate.
・ST-T変化
・右脚ブロック、T波陰転

*心エコー所見
Echocardiographic findings associated with pulmonary embolism
・RV/LV end-diastolic diameter ratio > 0.7
・RV/LV area ratio > 0.66
・RV end-diastolic diameter > 27 mm
・“McConnell sign” (右室自由壁運動低下で心尖部は正常か過剰運動…という所見)
・Septal shift
・Tricuspid regurgitation > 270 cm/sec

上記はいずれも「J Clin Anesth. 2011 Mar;23(2):153-65.」より引用


 4)術後管理
1.術後深部静脈血栓形成の予防方法について述べて下さい。
・早期離床、積極的な運動
・弾性ストッキング
・術後出血のコントロールがついた時点で、抗凝固療法(未分画ヘパリンとワルファリン)開始。腹部手術なので、低分子量ヘパリン(エノキサパリン)やフォンダパリヌクスも選択肢として挙げられる。
・本症例については、既に血栓が存在する可能性が高いため、間欠的空気圧迫法は避けるか、血栓がないことを確認してから行うべきと考えられる。
・DVTがあることが分かっていれば、血栓が溶解するまで抗凝固療法を行い手術を延期するか、どうしても手術をしなくてはならない場合は循環器内科コンサルトにて下大静脈フィルターの適応を検討すべき症例だと思われる。
・また、下肢の症状がDVT、PEによるものであればPEの最高リスクであろうし、もしDVTでなくただの蜂窩織炎等であり術中の症状もPEによるものでなければ高リスク症例であろうから、予防法が変わってくるであろう。

本記事の記載にあたり、以下のサイトや文献にお世話になりました。
・肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/index.htm
・術中閉腹時心静止から救命できた肺塞栓症の1例. 日臨麻会誌 Vol. 27 (2007) , No. 1 71-76
・肝細胞癌切除手術中に肺塞栓を合併しショックとなった2例. 蘇生 25巻1号 Page23-27(2006.03)
・両下肢骨折の観血的整復術中に急性肺血栓塞栓症を生じた1症例. 麻酔 53巻9号 Page1051-1056(2004.09)
・Perioperative pulmonary embolism: diagnosis and anesthetic management. J Clin Anesth. 2011 Mar;23(2):153-65.
・旅行中の大腿骨骨折に対するギプス固定後,手術中に肺血栓塞栓症を発症した1症例. 日臨麻会誌23巻3号 Page62-65(2003.04)
・周術期肺血栓塞栓症対策マニュアル(横浜市大病院)
http://www.fukuhp.yokohama-cu.ac.jp/about_hospital/approach/pdf/thrombosis_manual.pdf
・肺塞栓症; 肺塞栓症を見つけたら麻酔科的対策は? 日臨麻会誌 Vol. 28 (2008) , No. 1 62-68
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/28/1/28_62/_article/-char/ja

2011年8月10日水曜日

(麻) 麻酔科専門医認定試験口頭試験2007年-症例9-子癇発作の緊急帝王切開術

こちらもI先生からの寄稿をもとに改訂したものです。

症例
30歳。155cm、87kg(非妊時75kg)。妊娠32週。
血圧180/105mmHg、脈拍103回/分、両下肢に浮腫が著明、蛋白尿(+)。
子癇発作のため緊急帝王切開術の麻酔依頼あり

1)術前評価と管理
1.患者の術前状態の問題点を列挙。
・ 肥満(非妊娠時BMI 31.2)
・ 妊娠時の体重増加 肥満群の推奨体重増加(目安5kg)を超えている。
・ 早産 妊娠32週
・ 妊娠高血圧症候群(重症)
・ 子癇発作(と胎児機能不全もあるかも)
・ フルストマック

2.術前の高血圧の対応について説明。
緊急かつ適度な降圧を要するので、ニカルジピンの持続投与を行う。(出産後の子宮弛緩を悪化させるので注意)
脳還流、胎盤血流を損なわず(下げすぎず)、心不全を予防するため。
降圧目標としては、sBP=140-160, dBP=90-100, mBPの低下を20%以内とする。(いずれもGrade C)

2)麻酔法および術中管理
1.麻酔法として何を選択しますか。その理由について述べて下さい。
@全身麻酔を選択する場合の理由
子癇で痙攣していれば、区域麻酔は不可能。おそらく子癇を止めるためにジアゼパム等のベンゾジアゼピンが使用されれば、妊婦は意識レベルが低下するため、やはり体位はとれなかろう。
また、痙攣発作の原因として脳血管障害や頭蓋内病変、PRES等の可能性があり、頭蓋内圧亢進は否定できない。その場合は脊髄くも膜下麻酔は禁忌となりうる。また子癇発作が落ち着いたとしても、手術中に子癇発作を再発する可能性も十分あり、手術開始前に確実な気道確保をしておいた方が安全な可能性がある。

@脊髄くも膜下麻酔を選択する場合
患者の痙攣がコントロールされていて、かつ血小板数が十分あり(HELLP症候群等が否定されている状態)、かつ凝固因子が正常で出血傾向がなく、かつ患者が頭蓋内圧亢進症状がなく、かつ患者の同意が取れる(つまり患者が意識清明である必要あり)のであれば、肥満のために気道確保が難しい可能性は十分あり(重症PIHでは重症の気道浮腫がありうる)、誤嚥性肺炎も恐ろしいので、脊髄くも膜下麻酔で行うことも選択肢として残る。

2.選択した麻酔方法を具体的(使用薬剤の種類および量も含む)に述べて下さい。
@全麻の場合
・チアミラール 4mg/kg(子癇が重度で子癇治療に対してジアゼパム等使用されていればもっと少なくてよいだろう) + スキサメトニウム 100mgまたは1.5mg/kgによる迅速導入。挿管で著明な高血圧になることも予想されるのでfentanyl 200ug程度を併用。
・脳血管障害、頭蓋内病変の除外をされていないであろうから、頭蓋内圧を上昇させる薬剤は避ける。GOSにはしない。(AOS+レミフェンタニルまたは)プロポフォール+レミフェンタニル、ロクロニウムによる全静脈麻酔にて維持する。
・術中覚醒を避けるためにBISモニタリングを行う。(添付文書において、児娩出後のプロポフォールは禁忌とはなっていない。)
・肥満があるため、換気困難や挿管困難も考えられる。手元にネーザルエアウェイ、エアウェイスコープ、LMAを準備する。
子癇発作の際、硫酸マグネシウムを投与されていると思うので、筋弛緩薬が過量投与になりすぎないように注意する。人手があったり、自分に余裕ができれば筋弛緩モニターも併用する。
・胎児のApgar scoreが低い可能性があるので、蘇生できているか確認する。

@脊麻の場合
・高位spinalで著明な血圧低下が起こる可能性があるため0.5%hyperbaric bupivacaine1.6ml+fentanyl 10-20ug程度がよいのではないだろうか。低血圧予防の輸液負荷はPIHのために危険であろう。あまり低血圧予防効果もないとされている。

3)周術期管理
1.脊髄くも膜下麻酔後に血圧が著明に低下。考えられる原因を挙げる。
・PIHで全身の血管が収縮しているはずだが、脊麻の影響で血管抵抗が著明に低下した
・仰臥位低血圧症候群
・全または高位脊髄くも膜下麻酔
・アナフィラキシーショック(稀)
・子宮内や腹腔内での出血(稀だろう)
・偶発的な肺塞栓(稀だろう)

2.仰臥位低血圧症候群の病態と対処法について述べて下さい。
子宮により下大静脈が圧迫され静脈還流が減少するために生じる低血圧。
ベッドを左側にローテーションする、右腰下に枕を入れる、用手的に子宮を左に寄せる。

4)周術期危機管理
1.術前訪問時、患者に子癇発作が生じていました。どのように治療しますか。
・ナースコールを押して、人手および救急カートを集める。産科の病棟が手薄なら救急科医師等にも応援を依頼
・上記が来るまで、側臥位とし、気道確保と誤嚥防止、舌損傷防止に努める。
・バイタル測定, 酸素投与(必要ならば気道確保)、静脈路確保。
・硫酸マグネシウム(マグネゾール)1管(2g/20ml)を5分間かけて静注。必要ならば、もう1管。これで4g。 以降は、1-2g/時で持続静注する。
・児の状態および母体の状態を評価する。
・マグネシウムの血中濃度を測定する。
・硫酸マグネシウムだけでは痙攣コントロールが難しい場合、ジアゼパムやミダゾラム、バルビタール等の投与も考慮する。
・マイルドに降圧する
・産科の先生と急速遂娩の可否・タイミングについて話し合い、急速遂娩であれば、手術室に連絡し、準備にとりかかる。
・患者さんの家族を呼んでいるか確認
・児が32週なので呼吸管理が必要であろうからNICU担当医にも連絡が必要。もしこの病院にそのような設備がなければ、より高度な医療施設への搬送も考慮する必要があろう。

***
子癇前症ならともかく、3)-1で子癇に対して脊麻していてびっくりする設問である。こんな設問にも動揺しないような精神力も見られているのだろうか。
と思って調べたら下記の論文があった。
ちなみに…The reported incidence of further convulsions in women receiving magnesium sulfate is 5.7% to 13.2%. (Lancet 1995;345(8963):1455-63.)
子癇発作が落ち着いていても安心できない。
同論文では最終痙攣から19.3 ± 7 hrs後に脊麻をしている。
私がこの問題に当たったら全身麻酔と回答するだろうな…。

以下のサイトにお世話になりました。ありがとうございました。
・日本妊娠高血圧学会 ガイドライン
http://jsshp.umin.jp/i_7.html
・研麻抄「重症妊娠高血圧症の帝王切開に脊髄クモ膜下麻酔[anesthesiology]
http://vril.blog.so-net.ne.jp/2008-09-11-1

参考論文
・Spinal anesthesia for lower segment Cesarean section in patients with stable eclampsia. Journal of Clinical Anesthesia (2011) 23, 202–206

(本) 大震災の後で人生について語るということ - 橘玲

日当直明けに大学の医局に行ったら、「原稿料を振り込みました」旨の封筒を発見。とある商業誌の特集の一部を担当させていただいたのだが、その原稿料らしい。
単純に作成開始(ボスに「これ書いて」と仰せつかった日)から脱稿までの日にちで換算すると150円/日程度の報酬。つまり「1日1本ペットボトルあげるから、これで頑張って書きなさい」という程度である。学術的な価値は、報酬ゼロ円/日で血眼になって作られた論文の方が高い…ということは認識しているけれど、お金を頂けた上に、症例報告のような論文以外を執筆したのが、生まれて初めてだったので、非常に勉強になり、ちょっと嬉しかったのであった。

早くお金のもらえない論文を書きたい…と思えるのは、衣食住が維持される程度の収入があるからで、そういった環境と国に生きていられるのは幸せなことである。

***
「大震災の後で人生について語るということ - 橘玲」
を読む。

「ヒトとしての物理的制約から、私たちの人的資本は一定年齢を超えるとゼロになり、それ以降は金融資本だけで生きていくことになります。」(p111)

という言葉は、数年前から私の頭の片隅をずぅぅぅぅぅぅっと占めてきた言葉であり、この(生きていれば)「未来に確実に来るだろう現実」に現時点からどのように対策をとったらよいのか。非常に難しい問題である。
非常に不謹慎だろうけど、やりたい勉強ややるべき仕事や守るべき家族などについて「あーでもないこーでもない」と没頭しているうちにぽっくり行く、のは、自分のことだけを考えるのならば、もしかすると理想的なことなのかもしれないが(私以外の人間にこの考えを当てはめようとは全く考えていないので悪しからず)、定年になり、いろんなことが片付いてきたときに、「なんで生きているんだろう」と哲学することすらできないほど衣食住に困る可能性を時折妄想してしまう。

麻酔科専門医になることや英語のレベルを向上させることは、定年までの私の人的資本の価値を向上させることであり(自分だけが満足する自己実現的な価値ではなく、他人から見て役に立つ、社会的存在としての自分の価値)、自分が今所属している場所でないところに行きたいときに切符となるような重要なものなのだけれど。上記の本を読むと、日本円はいつまで大丈夫なのか、とか、税金の無駄遣いに怒っていたり円の先行きを心配しているせに、資産の大部分が円だったりする自分の状況にとても不安を覚える。

私の生まれた年の男性平均寿命は73.35歳なので、定年を無事に終えられれば人生の9割が終了したことになるし、私が定年を迎えるであろう30余年後は、高齢者率が40%程度。必然的に「働ける者は死ぬまで働きましょう」とお上からありがた~いお達しが出るだろう。そもそも定年を迎えるころには日本円にどのような価値があるのだろうか。医療も市場開放され、より安い人件費で働いてくれる優秀な外国人麻酔科医たちに仕事を奪われるのだろうか。それまで、私は麻酔科医として仕事をしているのだろうか。年金制度や国民皆保険制度はとっくに破綻しているだろう。社会保障費は間違いなく減少し、自分の身は自分で守らなければ本当に餓死するだろう。

今の私的危険対策は、経済のことを自分よりも詳しく知っているであろう本書の著者のような方々の本を読んで暗澹たる気持ちになりながらも、できる対策を日々ちょっとずつ行い、人的資本の価値を高めるために常にちょっとずつ冒険して胃が痛くなりながらもコンフォートゾーン(自分の心地よいと感じられる領域)を広げ続けて、「ここまでやれば将来は安泰だろう」と決して思わず、軌道修正を死ぬまで続けることだと思う。それが成功するかどうかは30年くらい経てば分かるだろう。経たないとわからないだろう。
いろいろとためになる一冊でした。

2011年8月9日火曜日

(麻) 麻酔科専門医認定試験口頭試問2007-症例8-関節リウマチ環軸椎亜脱臼

I先生に寄稿していただきました。
適宜改変しておりますが、回答の1つの案としてご利用ください。


@症例
・74歳女性。155cm、 45kg。
・RAによる頚椎環軸椎亜脱臼に環軸椎後方固定術が予定
・ステロイドを10年前から服用、現在はプレドニゾロン15mg/日内服


1)術前評価と管理
1.全身状態(ステロイド以外)の術前評価で注意する点
・関節病変,骨:術中体位に問題はないか、麻酔導入前に体位のチェックを患者さんとともにする。長期ステロイドで易骨折性、皮膚脆弱性注意。
・開口制限の有無
・頸椎の可動域と症状について
・肺病変:間質性肺炎の有無、胸水の有無、呼吸機能
・心血管病変:狭心症や脳梗塞の既往、心膜炎の有無
・眼病変:シェーグレン症候群を併発していないか?
・消化管病変:NSAID潰瘍の有無
・腎病変:金製剤によるアミロイドーシスの有無
・経鼻挿管の可能性もあるので、易出血性の有無や鼻腔の観察
・ステロイドによる糖尿病の有無
・その他の内服薬の確認
 ・他の膠原病の合併


2.ステロイドカバーについて述べてください。
通常、副腎はコルチゾール20mg/day程度を生理的分泌しており、ストレス時には200mg-300mgのコルチゾールを分泌する。しかし、長期ステロイド内服患者においては、副腎の機能が低下しているため、ストレス時にコルチゾールの補充を自ら行えない。本患者のPSL15mg/dayは、コルチゾール60mg/dayに当たり生理的分泌量を超えており、10年間内服しているため、副腎機能低下が充分に考えられる。そのため、急性副腎不全のリスクを考え、補充投与をするのが、ステロイドカバー。しかし、補充しなくてはいけないというエビデンスはなく、慣習的に行っているのが現状で、定まった補充量はない。

一般的に行われているのは、
・小手術:通常内服量のみ。カバーなし。
・中手術:通常内服。術前にハイドロコルチゾン50mg, 8h毎に25mg。翌日からは通常通り。
・大手術:通常内服。術前にハイドロコルチゾン100mg, 8h毎に50mg。
 POD1 8h毎に25mg、POD2 12h毎に25mg、POD3 25mg1回、POD4〜 通常通り
本症例は、中手術と考えられる。


2)麻酔法および術中管理
1.挿管方法について
・下記のいずれにせよ、熟練した麻酔科医がいれば、頸椎に過剰な負担がかからないよう導入の補助を依頼する。
・開口が十分でき、かつ、頸椎の可動域に余裕がありそうで、かつ、マスク換気危険因子がなければ全身麻酔導入後に、頸椎を中間位に保ったままエアウェイスコープで挿管する。
・それ以外の場合には、自発呼吸温存下経鼻挿管とする。フェンタニル25-50μgずつ分割投与、必要に応じてミダゾラムを0.5mg-1.0mgずつ分割投与。ぼぉっとしてきたら、挿管時の激しい咳嗽を避けるため、輪状甲状間膜から4%リドカインで喉頭に麻酔を予め施行。その後鼻腔を消毒しリドカイン+アドレナリン(フェニレフリン)を使用したのち、ID6.0mm程度の気管チューブを挿入。10cmちょっと進めたところで気管支ファイバーを進めていき、声門を通過し、気管分岐部を同定したところで、チューブを優しく進める。披裂軟骨部で抵抗があるようならば無理をしてはならない。チューブが気管内に挿入された後、プロポフォール等を投与して眠っていただく。


2.腹臥位にした時に起こりえる合併症について述べて下さい。
・体位変換時の頸椎症増悪
・4点支持器等による皮膚傷害
・神経障害(視神経障害、眼窩上神経、尺骨神経障害、総腓骨神経障害、外側大腿皮神経障害 48B36)
・呼吸:胸郭の動きが制限され,また腹圧もかかるため,気道内圧が上昇しやすい.体位変換後に気管支挿管状態になっていないかも注意


・挿管チューブの屈曲や圧迫、誤抜去、歯牙損傷
・上気道浮腫:頭低位、頸椎屈曲位、長時間手術、輸液過多などによる?


3)術後疼痛管理
1.術後鎮痛はどのように行いますか。
フェンタニルによるIV-PCA、25-50μg/hrにて。酸素を持続投与して経皮的酸素飽和度をモニタリングする。
もし腎機能等に問題がなければNSAIDsを併用する。



4)周術期危機管理
1. 術後、病棟で循環不全.考えられる原因を列挙。
・循環血液量不足(術中の輸液不足や、術後の創からの出血)
・急性副腎不全
・心筋梗塞や狭心症、輸液過多による心不全
・術後使用薬剤によるアナフィラキシーショック
・術前に見つかっていなかった下肢静脈血栓の遊離による肺塞栓
 その他


2. 急性副腎不全について説明
急激な副腎皮質ホルモンの絶対的または相対的な不足状態。本症例の場合は術前のステロイド長期投与による可能性が高い。
症状:激しい腹痛、高熱または低体温、低血圧、悪心、嘔吐
検査所見:低Na, 高K, 低血糖、好酸球増多
処置:血中ホルモン測定の採血を行った後、ハイドロコルチゾン投与。昇圧剤、酸素投与、輸液、電解質と血糖補正。


参考文献
・頚椎手術時の気管挿管
http://www.maruishi-pharm.co.jp/med/libraries_ane/anet/pdf/33/33work.pdf
・日本臨床麻酔学会誌 Vol. 31 (2011) , No. 1 150-156
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/31/1/31_150/_article/-char/ja
その他

2011年8月6日土曜日

(雑) 夏休みの宿題

6か月ぶり位にTIVA(total intravenous anesthesia)で麻酔した。
MHリスクなければほぼ全例AOSな最近の私。
肺外科だろうがなんだろうが、全てセボ、セボ、セボ。
当直帯は落ち着いていたので、ASA用のポスター作成その他の仕事に勤しむ。早く当直帯にぐーすか眠れるようになりたいな…。

***
研究室のお師匠が旅に出られたので、旅に出られる前に伝授されていた「研究室でやっておくことlist」を、ひたすらこなす。
実験実験また実験。
何だか、普段の土曜日より忙しいんですけど…。

そして矢張り、当直明けのせいかわからないけれど、実験の手順を1つ抜かしてしまった。やった後、すぐ気付いたから特に問題なかったのだけど、細胞を少し無駄にしてしまった。反省。

2011年8月4日木曜日

(音) DIR EN GREY - DUM SPIRO SPERO (2011年, 日本)

聴く前の状態:先行シングルは#12のみ体験。雑誌のインタビュー記事等の前情報は一切なし。

全編通して5回程聴いたところでの記録。暗くて怖くて混沌とした退廃的なサウンドでありながら、聴けば聴くほど味が出てきそうなわくわくするサウンドが前作に引き続き提示されるとは、全く驚嘆するしかない。前作を超えてしまいました。

日常生活から一番近いところにある霊的(地獄?)な世界の入り口。ただし、前作「UROBOROS」より更に入口は狭くなっている。音楽的な方向性は前作に似ているように感じられるが、分かりやすい歌メロは減少。だが、前作で確信したであろう自分たちの強みに特化して、その方向性を押し進めた作品。

現時点での1番のお気に入りは#9の「DIABOLOS」。たった9分51秒間が、プログレッシブで懐かしさを感じさせつつ、かつ宗教的で叙情的に、日常から私の時間を切り取るような感覚を味わせてくれる。導入の煌びやかな歌メロから、徐々に破滅的な陰へ落ち込んでいく様は芸術的。本作品で1番良心的なバラ-ドである#13「VANITAS」より遥かに涙腺を刺激する曲。
中盤から変態的に加速する#5(タイトル長い)も素敵な出来。
そして先行シングル#3, #8, #12の使い方は見事。#8は作品前半の、それまでの長く重い暗闇からほんのちょっぴり太陽の光を拝めるかのような存在。

1. 狂骨の鳴り
2. THE BLOSSOMING BEELZEBUB
3. DIFFERENT SENSE
4. AMON
5. 「欲巣にDREAMBOX」 あるいは成熟の理念と冷たい雨
6. 獣慾
7. 滴る朦朧
8. LOTUS
9. DIABOLOS
10. 暁
11. DECAYED CROW
12. 激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇
13. VANITAS
14. 流転の塔

・歌詞が聴きとれなければ歌ではない
・分かりやすいメロディじゃなければ歌ではない
という確固たる信念をもつ人や、快楽を感じるメロディの幅がポップミュージックによって既に固定化されている人、以外には一聴の価値があるが、多くの人にとっては不快にしか感じないサウンドであろうことも容易に想像がつく。ということで、私は初対面の人、周りの仲良しの人、にも決してこのサウンドをすすめはしないけれど、のめり込む人にとっては、異常な中毒性をもつであろう作品といえる。

何はともあれ、何も考えずに音に体を委ね、大音量で音の塊を浴びる、というのが正しい接し方だろう。

2011年8月3日水曜日

(雑) 酸素と二酸化炭素とボンベの話

この2週間ほど、ずっとこの事案について、つらつらと考えていた。患者さんや患者さんの家族を察するに余りある。この事案についての情報をまとめると、凡そ以下のようになるようだ。

@事案
・深夜に終わった腹部大動脈瘤切迫破裂の緊急手術と全身麻酔
・患者さん(気管挿管され鎮静状態)をICUへ搬送中、
「緑色の二酸化炭素ボンベ+流量計」に呼吸回路(ジャクソンリース?)を接続したために、低酸素→心停止になった

@それを取り巻く医療の現状
・酸素の色:手術室壁のアウトレットや麻酔器のパイピングのホース、流量計、圧力計、酸素マスクは全て緑色。

・酸素ボンベだけが黒色
・医療用ボンベの色は、酸素は黒、二酸化炭素は緑。これらは「高圧ガス保安法」で決まっているので”容易には”変更できない。
・日本の酸素消費の99%が工業であり、医療用は1%未満
・2008年8月に酸素ボンベと二酸化炭素ボンベの取り違え事故が発生した。その後、小型医療用CO2ボンベの接続部の形状をヨーク式に徹底することで、事故が防止できると考えられていた。
・腹腔鏡手術時に使用する気腹用CO2ボンベは、気腹装置のヨーク式コネクターに取り付けるので安全。だが、ヨーク式の流量計を接続したCO2ボンベはOPCAB等の手術の際に使用することがあり、手術室に存在する。

これに対して厚生労働省から通達された文章
http://www.anesth.or.jp/news2011/pdf/20110728.pdf
を読むと、厚生労働省は、「注意喚起、周知徹底しましょう」と未だに「人間の注意力」に頼った文字を各医療機関に送っているのが分かる。暗に「事案当事者の麻酔科医が不注意だったことが、本事案の主原因である」、と断罪しているかのようだ。インシデント発生時に考えるべきその他の大事なことを無視し、
ミスを個々人の努力不足や注意不足に求めており、危機意識の低さを露呈しているだけの通達、のように私には思える。
私としては「酸素に関するほかの部品は全て緑色なのに、酸素ボンベだけが黒い」という現状を変える方向に、労力を傾ける役人の方が、1人でもいるとよいように思える。
「注意喚起、周知徹底しましょう』と、とりあえずすぐにでも出せる声明の裏に「このままの法律では、また医療事故が起こる可能性がある、システムを変えるように動かねば」という使命感で動いて下さる方がいることを望むけれど、おそらくそういう動きは起こらないだろう。現場は法律がこのままの状態で、「酸素ボンベが黒いまま」で、個々に最大限の想像力を働かせて対策するしかないのだろうか。

私のような凡麻酔科医が24時間働いた当直あけに、本症例のような大動脈瘤切迫破裂の手術の麻酔を

・適切な血圧に保つために輸液、血液製剤を術野の状態に合わせて迅速に投与し、
・輸液と輸血だけでは血圧を維持できない場合に昇圧剤を併用し、
・適切な呼吸状態に保つよう、人工呼吸器の設定を調節し、
・輸血過投与やアシドーシスで基準値から逸脱した電解質を補正し、
・各種薬剤が間違った速度で患者さんの体内に送り込まれないように、シリンジポンプの設定や、末梢静脈路、中心静脈路の別を正確に判断し、
・患者さんが覚醒しないよう、痛がらないように各種麻酔薬を投与し、
・術野を見ながら血液製剤が不足しそうなら、追加のオーダーを出し、
・尿量を10‐30分ごとにチェックして尿量が保たれているかチェックし、
・体温が下がってこないかチェックし、
・術者や外回り看護師と適切にコミュニケーションをとり、
などなどを、数時間の手術が無事に終了するまで、何回となく繰り返した後に、患者さんをICUへ搬送する段階になって、移送用のベッドについているボンベが「酸素ボンベ以外にはありえない」というような状態をつくることが、真のリスク軽減への行動だと思う。

本事案の麻酔科医を責めるのは、「60点以上で合格出来る、満点が100点のテスト」で99点を叩き出したが、「はい、1問間違えたから落第ね」と言われるくらい酷な話のように感じる。

「間違えたのが1問だろうが、その1問が患者さんの命に関わるんだよ、ふざけたことを言うな」という批判が聞こえてきそうだが、患者さんに起こってしまった不幸な事実、と「今後の再発を防ぐ為にすべき対策」は違う。そして、事案の当事者以外の人々が取るべき行動は、事案の当事者を責めることではなく、再発が起こらないような環境にすることだろう。

ちなみに、近くにいた研修医3人に個別に聞いてみたが、酸素ボンベの色を即答できる人はいなかった。

参考にしたwebなど
http://www.info.pmda.go.jp/anzen_pmda/file/iryo_anzen13.pdf
http://www.ricv.zaq.ne.jp/ekaax407/co2bombetrouble.html
その他

2011年8月2日火曜日

(麻) 麻酔専門医認定試験2010-症例3‐2 脳死・臓器提供

http://www.anesth.or.jp/guide/index.html
にいろいろなガイドラインが提示してあるが、麻酔専門医認定試験受験者たる私は目を通した方がよいんだろうなぁ(って受験生たちは皆とっくに目を通してるんだろうか)。「宗教的輸血拒否に対するガイドライン」の未成年者への対応など、口頭試問で問われた時に、知識がないと変な回答をしかねない…が、これって「このように答えたら何点あげます!」とはやりづらいだろうから心配しすぎかも。

***
脳死の臓器提供については、色々な考えをお持ちの方がいると思う。日本麻酔科学会では「脳死体からの臓器移植に関する指針」で学会会員に対して脳死体移植への基本姿勢を示している。(この指針はフリーアクセスで日本語が読める方であれば誰でも閲覧可能である)
そこで書かれているように
1 麻酔指導医は、所属する医療機関の長官から脳死判定を要請された場合、速やかにこれを行う。
2 臓器提供病院の麻酔科医は、臓器摘出時のドナー管理を依頼された場合、これに協力する。
3 麻酔科医は、ドナーとその遺族に対して、礼意をもって接する。
4 麻酔科医は、所属する医療機関で臓器移植が行われる場合、レシピエントの麻酔および周術期管理を行う。

controversialでdelicateな「臓器移植」の問題を、ここに、このように問題形式で記載するとは何事だ、とお怒りになられる方も当然いらっしゃると推察いたしますが、ドナーとその遺族に対しては人間としてだけではなく麻酔科医として世界のほんの片隅からでも礼意をもって接することができるようになりたい、という願いから記載されたものとして、どうぞご容赦いただきたい。
また、私は本日時点で、腎移植レシピエントの麻酔を担当した事がありませんので、それもご了承ください。(ということでおわかりでしょうが、患者さん向けやその家族向けの情報でもありません)

質問
1) 法的脳死判定における脳死判定基準と麻酔科医の役割
1.法的脳死判定における脳死判定基準を説明する
@以下のA-Cを満たしてから判定を開始する
A.前提条件を完全に満たす
・器質的脳障害で深昏睡か無呼吸
・原疾患の確実な診断
・回復の可能性が全くないと判断されること
B.確実な除外診断
C.生命徴候の確認
・体温:深部温32度を超えること
・血圧:sBPが90mmHg以上
・心電図:重篤な不整脈がないこと
@判定基準は
・深昏睡
・瞳孔径4mm以上、瞳孔固定
・消失する脳幹反射(①対光反射②角膜反射③眼球頭反射(人形の目反射)④眼球前庭反射(カロリック反射)⑤咽頭反射⑥咳嗽反射⑦毛様脊髄反射)
・平坦脳波(聴性脳幹反応の消失は必須ではないが確認が望ましい)
・無呼吸テスト(最後に行う。*臨床的脳死判定には含まれていない。補:開始前PaO2≧200mmHg、PaCO2は35~45mmHg、TOF≧0.9になって1時間以上経過、中枢温は35℃以上が望ましい)

2.法的脳死判定に携わる麻酔科医の3条件は…
A.脳神経外科医、神経内科医、救急医又は麻酔・蘇生科・集中治療医で学会専門医又は学会認定医の資格を持つ者
B.脳死判定に関し豊富な経験を有する者
C.臓器移植に関わらない者

2) 腎移植手術について
1. 腎移植レシピエントの術前問題点を挙げる
・腎不全とそれに伴う症状や合併症
・循環:dry weight、高血圧、浮腫、心不全、虚血性心疾患、心筋症、 感染性心内膜炎などの有無、程度、コントロール状態。
・貧血の程度:Hb、Ht、透析による変動
・呼吸:肺水腫の有無
・代謝:糖尿病の有無、代謝性アシドーシスの程度
・電解質異常:カリウム、カルシウム、リン、マグネシウムの値。最終透析後に採血しておく
・出血傾向...血小板数低下、機能異常、出血傾向の有無
・その他合併症...動脈硬化、易骨折性、喘息、けいれんなど
・精神状態
・透析用シャントの位置、ラインとる位置...シャント側にモニターをつけない。シャントを圧迫しない。
・術前に免疫抑制剤を内服していれば、易感染性がある。ステロイド投与されていれば術中のカバーを相談する。

2. 腎移植時に使用される免疫抑制剤を3つ挙げて下さい。
内服薬としては…
・プログラフ (タクロリムス、FK506): カルシニューリン阻害薬
・ネオーラル(シクロスポリン、CyA):カルシニューリン阻害薬
  ・ 血中濃度を測定し内服量を決定。
  ・グレープフルーツまたはグレープフルーツジュースを摂取しない。血中濃度が上昇するため。
・ブレディニン(ミゾリビン、MZ):代謝拮抗型免疫抑制薬
・セルセプト(ミコフェノール酸モフェチル、MMF):代謝拮抗型免疫抑制薬
・アザニン、イムラン (アザチオプリン、AZ):代謝拮抗型免疫抑制薬
・メドロール (メチルプレドニゾロン、MP):副腎皮質ステロイド
一般的には免疫抑制剤の内服は上記のものから3剤使用。
カルシニューリン阻害剤(プログラフまたはネオーラル)の中から1剤
代謝拮抗型免疫抑制剤(ブレディニン、セルセプト、アザニン)の中から1剤
メドロールのあわせて3剤を内服する。
これらの組み合わせは、移植した条件や拒絶反応の有無、薬剤の副作用を考慮して決定。
他に注射薬もある。

3) 移植後のICU 管理について
腎移植手術終了後、、手術室内で抜管、ICU に搬送
1. 死体腎移植直後のICU 管理について、特徴的な事項。
(・通常,腎静脈は外腸骨静脈に,腎動脈は内腸骨動脈に吻合する。)
・尿量低下。輸液量に注意。カリウムフリーにする。NSAIDsの使用は慎重におこなう。

2. ICUでの疼痛管理方法について、具体的に説明。
・免疫抑制剤により易感染性があるため、硬膜外は施行しない
・iv-PCA フェンタニル25-50ug/h程度。

*参考文献
・法的脳死判定マニュアル
http://www.jotnw.or.jp/jotnw/law_manual/law5.html
・臨床麻酔 2010年4月号の総説
・泌尿器ケア 2010 vol.15 no.7 p86-88
・綜合臨床2009(VoL 58):増刊 今すぐに役立つ輸液ガイドブック
・質問は死体腎移植ですが、生体腎移植について
http://www.maruishi-pharm.co.jp/med/libraries_ane/anet/pdf/36/36spe_3.pdf
・こちらも
http://www.maruishi-pharm.co.jp/med/libraries_ane/anet/pdf/36/36spe_4.pdf
・「神戸大学麻酔科マニュアル」http://www.med.kobe-u.ac.jp/anes/manualholder/ldkt.html


◎2012年10月11日追記
Management of the heartbeating brain-dead organ donor. British Journal of Anaesthesia108(S1): i96–i107 (2012)(脳死ドナーの管理についてのreview記事)
・LiSA Vol.19 No.10 2012 徹底分析シリーズ
・脳死ドナー管理について過去の自分のまとめ(一部重複してます)

2011年8月1日月曜日

(研) 4ヶ月経ちて

この4か月で学んだことを適当に羅列しておく。

・実験を始める前に細胞がどのような状態か、チェックする。駄目ならやり直し。これはどうなんだろう…?と感じたら、必ず第3者の目でチェックしてもらう
・同じ実験を繰り返して、それらの実験間で、値がどうぶれているかチェックする
・設定した条件が第3者からもわかるように、見えるような方向に、試行錯誤する
・自分の計画において、何を既にやったか、何がまだやっていないか、全て把握すること
・better than nothing
・意味があるconclusionかを常に考える。実験系全体でも個々の実験でも同じ
・コントロールでどれくらいばらついているのか、いないのかをきちんとチェックする
・枠組みが大事
・早く自立すること
・分からないことだらけでも、分かろうと努力すること
・教えてもらえること、学べることへの感謝
・教わったことが常識か常識でないかを自分で判断できないうちは、自己流に決してしないこと。そして、教わったことが客観的に教科書や文献的に整合性がとれているのかを確認する手間を惜しまないこと。
・何事も謙虚に行うこと

早く「分からないこと」へのストレスが、楽しいものに変わるといいなぁ。