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2011年3月31日木曜日

(雑) ただ自分のこころがあれば

「少にして学べば即ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば即ち老いて衰えず。老いて学べば即ち死して朽ちず」(佐藤一斎)

今日までと明日からで、特に何が変わるということはないが、向上心だけはいつまでも持ち続けたいと思う。例え足踏みする日があっても。

明日から大学で麻酔をすることは、少なくとも最初から最後まで担当することは暫くなくなるけど、お世話になった皆さんに感謝したい。今日まで育ててくださり、ありがとうございました。

2011年3月30日水曜日

(麻) 僧帽弁狭窄合併妊婦の麻酔

Case Scenario: Cesarean Section Complicated by Rheumatic Mitral Stenosis (Anesthesiology 2011; 114: 949–57)から。

心合併症をもつ妊婦は先進国では0.2-3%程度。
@症例
推定収縮期肺動脈圧54mmHg, NHYA 4の帝王切開を36週に予定
・心臓外科医と人工心肺をスタンバイ
・酸逆流予防に30分前にsodium bicitrateを内服
・児心音を執刀まで持続モニタリング
・麻酔導入前にA-lineと肺動脈カテーテルを留置。
 →血圧125/65/76, HR 105, CVP 14, PAP 90/50/62, SvO2 34%
・麻酔導入:レミフェンタニル0.2γ、エトミデートとサクシニルコリンで挿管、
・維持:レミフェンタニル0.05-0.1γ、0.5MAC以下のイソフルラン、100%酸素、ベクロニウム
・麻酔深度はBISで40-60に。換気はnormocarbia
・TEEでモニタ:僧帽弁圧較差16mmHg、弁口面積1.4cm2、
・Apgarは4/9
・分娩後はオキシトシン40単位/2hr
・手術室で抜管。術後はcardiac care unit。産後4時間のSvO2は54%、5日後退院。
・産後4ヶ月で僧帽弁手術


discussion
@妊娠に伴う循環器変化(%)
・血液量+35、血漿量+45、HR+20, stroke volume+30, CO+40,SVR-15, SBP-5
・収縮力は様々、CVPとPCWPは変化しない


@麻酔管理目標
☆pulmonary edemaとarrhythmiaが最も合併症に関係する
・左室拡張時間を十分とるべく、頻脈を避ける。phenylephrineやnorepinephrineは良いだろう。epinephrineは頻脈になる。区域麻酔による血管拡張も反射性頻脈を起こす可能性がある。
・β1刺激薬が子宮への作用を考えると好ましい。
・正常/高めの前負荷・後負荷、心収縮力の維持。血管抵抗を下げるのはよくない。
・一般的にシングルショットの脊麻は勧められない。(Curr Opin Anaesthesiol 2005; 18:507-12)
・適切なモニタリング下(A-lineやPAC等)で、用量を調節した区域麻酔ならば有益かも。
・経膣分娩では腰部硬麻がよい
・AFにはジゴキシンが使用できるだろう
・僧帽弁狭窄症合併妊婦の帝王切開に対する麻酔法に関するevidence-based ガイドラインは存在しない。個々の症例に応じて対応すべき。

***
JB-POT受験以来見ることのなかったWilkin's scoring (MSの重症度スコア)が掲載されている。実際にこんな重症な患者さんには滅多に出会わない。こんなものをまとめても、緊急で来られたら役に立たないかもしれないが、患者さんの情報から「重症だ!」と騒ぐことは可能である。そうすれば誰かの手は借りられるかも。

2011年3月28日月曜日

(走) Training (其の百四~七)

3/20 10km, 57min (9-12.0km/hr, 傾斜0.0)
3/21 1.6km 8min (10km/h) + bicycle 8km
3/24 4.0km 34min (10km/h)
3/27 10.5km 68min (7.5-12.0km/h, 傾斜0-9)
total distance: 765.2km (Nov 52.2km, Dec 42.2km, Jan 21.1km, Feb 37.0km, March 58.1km)
total time: 4779min = 79h39m

***
「What I Talk About When I Talk About Running」(訳:Philip Gabriel)より

・Sometimes when I run, I listen to rock, but usually it's metal, since its beat is the best accompaniment to the rhythm of running. I prefer Arch Enemy, Orphaned Land, Dir en grey, and Dimmu Borgir, and oldies like EL&P and Black Sabbath.(p14を元に改変)
・To put a finer point on it, I'm the type of person who doesn't find it painful to be alone. ... I've had this tendency ever since I was young, when, given a choice, I much preferred reading books on my own or concentrating on listening to music over being with someone else. I could always think of things to do by myself. (p15)
・Not that people's personalities change that dramatically.
・Which is why the hour or so I spend running, maintaining my own silent, private time, is important to help me keep my mental well-being.(p16)
・Emotional hurt is the price a person has to pay in order to be independent.(p19)

訳書によってまた新たな言葉に出会えるのは嬉しいことである。私は村上春樹氏の熱心なファンではないけれど。
割とコンスタントに走れるような状態に戻ってきたため、11月水準程度の走行距離に復帰。そう考えると、昨年の、あの暑かった7月に80km走っていたことに我ながら驚く。
私が走る理由のひとつは、切り取られた時間を欲するため。誰をも邪魔せず、誰にも邪魔されず、多くの人のお蔭で、走るという行為が粛々と実現されていることに、一見全く無関心のようでいて、その実大変感謝する。そうは言っても私には「私(し)の時間」が非常に多く与えられている。電車の中、麻酔中、喫茶店の中、走っている最中、眠っている時。私は、すべての私だけに使える時間に感謝する。自分の想像力の限りにおいて、自分の時間を思い通りに使えるということは、きっと世の中で最も幸せなことの1つだと思う。

2011年3月27日日曜日

(音) Within Temptation の The Unforgiving (2011年)

オランダのシンフォニック・ロック/メタルバンドのスタジオアルバム、5作目。

3/23の発売日を今か今かと待ち構えていたが、弓部置換や肝切の麻酔をやっているうちにいつの間にか発売日を通り過ぎていた。私のバンドへの愛情なんてそんなものかとちょっとがっかりする。
確かに先行シングル「Faster」の、メジャー路線のポップな作風に触れて以来、本作への不安感を募らせていたのだが。

歴史に残る名盤(と勝手に思っている)「The Heart of Everything」以来、4年ぶりの新作。現在第3子を妊娠中というSharon den Adel。9オクターブの歌声を持つといわれる彼女が歌えばどんな歌でもWithin Temptationなのだが、本作はこれまでの陰鬱気味だったヴォーカルラインが後退し、ヴォーカルも楽器もenergeticなつくり。シンフォニック一辺倒だった前作までの路線から、よりポップでメタルになって聴きやすくなったということもできそうだが、もともと聴きやすいサウンドを提供してくれていた彼らに対する評価としてはちょこっと違う気もする。一聴するだけでは、他の誰かが作った凡庸なロックを、上手いヴォーカルと楽器隊でメタルサウンドにアレンジしたかのような曲のオンパレード。彼らにとっていいことか悪いことか分からないが、これまでより大衆に受けるだろうとことは想像できる。
となると憂いを秘めたアップテンポな佳曲#3「In the middle of the Night」や、バンドの新たな代表作になるだろう、無限リピートに耐えうるこれまた切なメタルな名曲#6「Iron」や#11「A Demon's Fate」が収録されているだけでも大満足すべきなところかも。何よりこれらの曲がランニングのお供にもできるのが嬉しい。他の曲も聴けば聴くほど味が出てくるかもしれないし、Within Temptationの新しい魅力に溢れた1枚。日本でももっと売れて欲しいなぁ。

2011年3月26日土曜日

(麻) 空気塞栓の診断と治療メモ

新天地に旅立つレジデントのY先生の総括。印象に残った症例に関連して紹介してくれた論文。
「Diagnosis and Treatment of Vascular Air Embolism (Anesthesiology 2007; 106:164 –77)」(free article)


vascular air embolism(VAE)は有名だが、普段なかなかお目にかからない。(今日までの私の麻酔管理症例1648件では1件だけである。となると0.06%程度か)

Y先生の発見の契機は血圧低下、ETCO2の低下、心電図ST上昇だったということだが、中心静脈カテーテルから空気は引けなかったようである。


上記reviewによると対処法は
・stop entrainment ~ 術者に告げる
・increased inspiratory oxgen ~酸素濃度を増やす
・hemodynamic support - ドブタミン、ノルアドレナリン、イソプロテレノール
・重症なら胸骨圧迫、CPR


CVPが低いのはVAEのリスクを高める。PEEPの有無はcontroversialらしい。
また上記論文では血管内に入った空気の量が <0/5ml/kg,  0.5-2.0ml/kg,  2.0ml/kg<で軽症、中等度、重症と重症度分類しているが、臨床的にはあまり意味がない気がする。「あ、asystoleになったから100ml位入ったんじゃない?」と言っても、全く救命には役に立たない。
でも、大量出血時にポンピングしていて、20mlのシリンジいっぱいの空気を間違って患者さんの体内に何回か送り込んだら、大抵の人は不可逆的な循環虚脱になることは間違いなさそうだ。慣れない人にポンピングしてもらうのは危険かも。

2011年3月23日水曜日

(本) WEDGE4月号

特集「若手がつくる若者消費」を読む。誰もが節電を声高に叫んでいる震災後の今この時期に出す記事としてはなかなかチャレンジングな内容である。

車を買わない。旅に出ない。酒は飲まない。家電に関心はない。

と若者は一般的に思われているらしい。
三十路になったばかりの私が「若者」に入るかは不明だが、確かにこれらのものにあまり興味はない。そんな若者向けに商品を開発し、何とか買ってもらおうとする企業、人々の話が掲載されている。なるほど、人々の興味関心消費行動が多方向に拡散してしまった今、ヒット商品を作るのは、並大抵の努力と根性では不可能だろう。国民的に多売れするのは、水、米、卵、牛乳、電池、ガソリン、懐中電灯、カップラーメン、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、マスクなどなどなどなどの生活必需品+αだ(被災地でなら分かるが、被災もしていなければ、大した放射線も飛散していないのにこれらの物資が首都圏でなくなるのは全く理解できない)。

経済が伸びていくためには、みんなにお金を使わせなきゃならないんだろうけど、車を持っていない、家にいるのが好き、チューハイ1杯で酔っ払う、家電は壊れたときにしか買わない私のような人間は資本主義社会の敵なのだろうか。それらのものがなくても人生は十分楽しいけど。

2011年3月20日日曜日

(麻) 麻酔と法律関連メモ

「臨床麻酔」臨時増刊号(2011年3月)を興味深く拝読する。
全13項のトピックのうち、2項目が安全・危機管理に関するものであり、世の中の(麻酔科医の?雑誌の編集委員の先生方の?)関心が高いことが伺える。

以下は 13 麻酔事故と安全 ―刑事訴訟を避けるために― (著:加藤愼 弁護士) (p437-444) から引用
・刑事責任を追求する場合の対象は、問題となる医療行為を行った医療行為者自身、すなわち個人である。
・雇い主だけではなく医療従事者相互にも利害関係の対立を生じる可能性がある。
手術自体はチーム医療であっても刑事責任に関してはチームの利害が常に共通しているとは限らないのである。
・民事訴訟に関する限り、患者が勝訴判決を得て終わるものは1割強。
・刑事訴訟手続きでは、訴訟を提起する検察側の勝訴率(=有罪判決率)は99%を超えている。起訴便宜主義という原則のため。
そもそも刑事訴訟になること自体が既に敗北といえる
・医師個人として考えるべきことは 1.刑事事件化しないこと 2. 刑事事件化しても起訴されないこと
・術中に生じた不測の事態については、その原因を医療機関として情報を集約し、関与した医師がそれぞれの立場できちんと検討すること。院内での検討結果として評価困難なら院外の意見や検討を求める
・麻酔科医として麻酔科領域に属する医療行為に問題がないかどうか、もしなければその点をきちんと明確にする。問題があれば、麻酔科医の直接医療行為に起因するものか、物的設備や人的配置・体制に起因するのかは大きな違いがある。
・上記に基づいて、第1次的には当該事故対応を医療機関として行うことを確認する。ただし、具体的な責任原因が麻酔科医にあるという評価になり得る場合で、かつ刑事手続になる可能性が高い場合には、医療機関との意思疎通や信頼関係を考慮しつつ、麻酔科医個人として弁護士などの専門家への相談を検討する。
・医療における「失敗」概念と、法律の世界における「ミス」の概念には本質的な違いがある
・麻酔科医は多くの場合勤務医に過ぎないこともあり、また刑事事件での利害状況も考慮すると、こうした麻酔科医に対するバックアップは医療機関には期待できない

***
「外科医の立場から望む効率的手術室運営における麻酔科医の役割」(日本臨床麻酔学会誌, Vol. 29 (2009) No. 4 pp.418-426)によると

・術中の出血に責任をもって管理できる麻酔科医、予期せぬ事態に迅速かつ的確に対応できる麻酔科医
・緻密な思考から大胆に決断し、論理的・学問的な説得力を身につけ、協調性を重んじながら行動で示してリードすることである。

が外科医が求める麻酔科医像のようだ

正確な麻酔記録を残すことは当然として、術前にすべき検査の依頼、術中モニタリングの選択、術後帰室先、鎮静するのか抜管するのか。全て自分が最後の砦として、誰に遠慮することもなく、強い心をもって主張しなくてはならない、のかなぁ。まぁそうなんだろうなぁ。

2011年3月19日土曜日

(音) Silent Stream of Godless Elegy の Navaz (2011年)

チェコ共和国の8人編成フォークメタルバンド。1995年に結成されたということだが、初めて聴く。


これは思いがけない掘り出し物で、8曲目「Pramen, co ví」はミドルテンポながら本作で1番の珠玉の出来。このアルバムはOpethやOrphaned Landといったバンドのカラーに近いかもしれない。ヴァイオリンが曲調に非常にマッチしている。男女混成ヴォーカルなのも曲に深みを加える要素となっている。


この曲が150円(iTunes)で買えるなんて本当に安い(You Tubeなら無料だし)。なんてよい世の中なのだろう。

2011年3月17日木曜日

(雑) 生きてるって


震災初期の報道は非被災地向けの見世物的なもの(これだけ街が洪水で流されました、死亡者は○○名です、など)が多かったが、それによる利益があるとすれば節電や援助活動に協力的な世論の形成が為されたことか。

節電はしているが、私の勤務先の大学病院は計画停電を全く意に介さず(ということもないのだろうけど)、予定手術も緊急手術も稼働率は全く変わっていない。「常に揺れているような気がする」とは多くの人が(医療関係者でさえ)口にする言葉。職場では大地震の再発時にいかに患者さんを、自分を守るかに頭を使い、家との往復においてはどの路線を使えばよいのかに頭を使い、(そして電車に乗れそうもなければタクシーや自分の足を使って帰らなくてはならない。西武池袋線は未だに平常時の40%しか稼動していないので、朝6時半過ぎに家を出ようものなら乗車率300%の地獄が待っている)、仕事帰りに道を歩けば、19,20時には多くの店がシャッターを下ろし、社会主義国家かと見間違うほどの経済活動の停滞ぶりに心を痛め(かといって宴会をしていようものなら、被災者の気持ちも汲まないで、という無言の圧力がなんとなく存在するようで息苦しい)、スーパーに入っては「カップラーメンはお一人様4個まで」と書かれた文字に幻滅し、翻って仕事においては、どんな重症患者でも常にベストパフォーマンスであることを当然のように求められるのである。

今日は医療安全委員会に出席。この1年半で4回目。

批判されるのも仕事のうち。
そう思えば何の苦もない。
重圧を受けて強くなる。
そのような重圧の中で仕事ができることは感謝したい。

2011年3月14日月曜日

(走) Training in Rena (其の百弐~参)

3/8 7.0km 45min (8.5-11.0km/h, 傾斜0-10.0)
3/13 10.0km 54min (11.1km/h, 平坦な道) 今年初めての屋外


total distance: 739.1km (Nov 52.2km, Dec 42.2km, Jan 21.1km, Feb 37.0km, March 32.0km)
total time: 4612min = 76h52m


***
今日から輪番停電が始まった。私の家もその区域に入る。


私がこの場にいて出来るのは、自分と家族の身を守ること、自分の仕事に集中すること、節電すること、募金すること、祈ること。それくらいである。
土曜日のうちはそれでもTVの情報に熱心に耳を傾けていたが、途中からTVを消した。何だか他人の不幸を心のどこかで、自分の安全が担保された状況下で、興味本位で鑑賞しているかもしれない自分に嫌気がさす。
震度5の地震を経験したが。今までの人生で一二を争う恐怖だった。だが恐怖を感じる間もないうちに命が潰えた幾多の人々のことを思うに、私の恐怖など、全くもって取るに足らないこと。そして自分は毎日、今日で人生が終わっても後悔しないという程には一生懸命生きていない。改めてその事実に突き合わせられた。

2011年3月11日金曜日

(雑) 他人から見てどうなのか

これまでは、年間400件弱の麻酔が自分のテリトリだったが、リスクマネージャになってからというもの、数千件/年の麻酔科管理の麻酔が自分の身に災厄の降りかかるテリトリとなった。

脊髄反射でやってても、疲れ果てていても間違えちゃいけないことってある。間違えると首がとぶような行為だ。人様の体に針をさして喜んでる(って言うと語弊があるかもしれないが)麻酔科医の仕事であれば尚更。
逆にそれができなければ、できないことが予想されるならば、仕事を断る勇気が必要だ。力が残ってない位に集中力を欠いていれば、最後の力で「わたしにはムリです。他の方にまわしてください」と言わなくちゃならない。

患者さんには期待権というものがある。「適切な診療が行われれば救命された(後遺症を残さなかった)相当程度の可能性がある」と判断された事例で、適切な治療が行われることへの期待権侵害を認めた裁判事例が複数存在する。(wiki)


だから第三者から見て、分かりにくいストーリーに則った臨床行為は全てインシデントのもとである。自分の医療行為を客観視する癖を、それこそ吐き気を催すくらい繰り返さなくては、いつ足を救われてもおかしくない。そのようなトラップが、手術室にはいくつもいつでも存在している。


***
そして今日起こった地震。
交通機関が麻痺したため病院に泊まることになった。20時頃、少し病院の周りを歩いてみると、非常に多くの人が歩いている。家路にあるのか。都心で働く人たちは、自宅まで歩くと相当距離があるはずだが大勢歩いている。私の職場にも10数キロの道を歩いて帰った方が。車は渋滞しているがそれなりに流れている。御茶ノ水駅前のタクシー乗り場にタクシーは来ないが数十人が並んでいる。そして公衆電話にも大勢の人が。コンビニには強盗が入ったかのように弁当を中心に食べ物がなくなっていた。


翻って手術室。手術室の麻酔器は全て動いていたし、麻酔器への酸素供給も途絶えることなく無事だった。全ての手術室のドアの開閉も問題なかった。何度も来る余震に心窩部をむかむかとさせつつも、手術室にいた全ての患者さんが無事に退室したのは何よりであった。Touphy針で硬膜外腔を探っているときに揺れなくて本当に良かった。震度5の揺れというものはなるほどこういうものだったのか。自分が損傷する恐怖。目の前で全身麻酔下にある患者さんに何らかの傷害が及ぶ恐怖。そのどちらもが恐怖。

2011年3月8日火曜日

(本) 大前研一 洞察力の原点 プロフェッショナルに贈る言葉 ― 大前研一

本当に大切なのは、必要なときに必要な知識を速やかに探して来れる能力、そしてその知識を元に論理的に考えることのできる能力であるはずだ。(p96)

***
1575円で買えるソフトカバーの本としては、かなり活字の少ない方だろう。30分掛からずに全ページ読了可能である。そのため、書店でぱらぱらめくって、その言葉にぴんと来ない人にとってはただのぼったくり本である。余白も多いし、文庫本だったら相当な薄さになって持ち運びが楽そうだ。

氏が語ってきた言葉なだけに、言葉の重みが違う。不必要な説明、つまらない例え話。そういったものが多く含まれているビジネス書の何十倍も親切であるし、どのページを開いても、ありがたい言葉に出会うことができる。

これは本気で戦いたいビジネスパーソンに贈られる「詞集」だ。潜在的に各人がもっている戦闘能力を引き出し、その能力を最大限発揮するために、知恵の使い方を授けてくれるものだ。

2011年3月7日月曜日

(走) Training in Rena (其の九十八-百壱)

2/13 8km 50min (8→9→10→12→13km/h, 傾斜 0.0)
2/26 5km 30min (10km/h, 傾斜 3 )
3/3  10km 60min (9-12.0km/h, 傾斜 0)
3/6  5km  34min (8.5-10.0km/h, 傾斜 3-6)


total distance: 722.1km (Nov 52.2km, Dec 42.2km, Jan 21.1km, Feb 37.0km, March 15.0km)
total time: 4513min = 75h13m 



ついにランニングが100コマを超えた。地道に走ってきたが、この練習量では到底フルマラソンは不可能。「忙しい」を言い訳にしては何もできないが、仕事の拘束時間は実際に長い。しかし、「苦役列車」を読む暇や、映画「告白」を見ている暇があれば走れるのも事実。走行距離が短いのは自分の欲深さと集中散漫の結果なのである。


To keep on going, you have to keep up the rhythm. This is the important thing for long-term projects. Once you set the pace, the rest will follow. (Haruki Murakami - What I talk about when I talk about running 5頁より)


私にとってmarathonはまさにlong-term projectであるので、走ることが習慣として日常に組み込まれていればよい。

2011年3月6日日曜日

(麻) 麻酔専門医認定申請

当直の合間を縫って、申請に必要な書類の整理をする。
どんなものでもそうだろうが、申請書類というものは結構厄介である。しかし、先方にとっては私という人間を判断する材料がそれしかないのであるから、可能な限り書類の不備は避けたい。
目を皿のようにして、申請の要項を熟読。学会発表の抄録や論文のコピーも添付すると数十枚の紙の束になる。書類チェックを担当する方の労力といったら凄まじいものがあるだろう。ご迷惑をおかけいたします。

書類の準備で特に骨が折れるのが
・臨床実績報告書(5年分。何症例担当したかも手術部位別、担当したか指導したかの別まで記載する。あぁ)
・専門医実績目録(参加、発表、論文の3種類それぞれについて記載する。あぁ)
の2点。

学会参加は「参加証明書」のコピーを添付する必要があるから、まとめて保管しておく必要がある。参加証と言ってもただの紙ぺら。うっかりすると毎回、学会から帰ってきたときに「もういらねーや」と捨てかねない代物である。研修医の先生方には捨てないでおくよう、強くお勧めしたい。

最も手間をかけずにいくにはどうするか?
専門医実績目録の点数を眺めて考えるに
・日本麻酔科学会年次学術集会に2回参加(15点×2=30点)
・Journal of Anesthesia (JA) に筆頭著者として症例報告等を1篇だけ載せる(20点)
の3度の負担でよい。あまりよく知られていないかもしれないが(私が知らないだけだろうが)、学会でポスター発表なぞしなくても、専門医になれるのだ。おぉ、人前で喋るのが苦手な方でも、論文をカリカリ書いてJAにアクセプトされればよいのである。

これだけやって、後は臨床を週3日やれば専門医申請は可能である。(専門医申請資格に症例数のしばりはない。満一年以上かたよらない麻酔管理業務に専従していること、という文言はあるが)

ということは月火水働いて木金土日休み、という「3日手術室で労働、4連休で南の島」を繰り返しても専門医にはなれるのだ。恐らく臨床実績の少例数が少なすぎて書類審査で引っかかるだろうが・・・。

そしてこれら「日々頑張ってますよ~。頑張って麻酔かけてますよ~。日の出も日没も見ないで麻酔してますよ~」という努力の結晶たる書類をまとめて提出し、ようやく専門医認定試験の受験資格が得られる。なぜか書類の目処が立ちそうだと思えただけで、試験にも合格したような錯覚に陥る。

2011年3月4日金曜日

(音) Children of Bodom の Relentless Reckless Forever (2011年)

relentless: 容赦ない、無慈悲な
reckless: 無謀な


というタイトル自体がそもそも無謀とも思える、フィンランドの骨太メロディックデスメタルバンドの7枚目のオリジナルアルバム。ちなみに前作「Blooddrunk」(2008年)は未聴。
disk unionの店員のお兄さんの話では結構な売れ行きの様子。私はiTunesで購入してしまいました。ごめんなさい。


期待と不安で聴いてみたのだが、唯一即効性をもって「おぉ!」と思えたのは#6「Ugly」のみ。
歌って叫べる分かりやすい歌メロだった初期の作風はすっかり鳴りを潜めてしまった。ギターやキーボードソロが楽しくないからか、アレキシライホのヴォーカルラインが凡庸なものになってしまったためか。
過去の作品のどこかで聞いたことのあるギターリフだったりメロディラインだったりが、いろいろな場所で顔を出すような出さないような。全て過去の焼き直し、それも劣悪な。バンドがバンドのコピーバンドのようになってしまったかのような曲ばかり。あーダメだこりゃ・・・。


と、思っても何度か聴きなおしているとこれが結構良いアルバムなのである。
#9の「NorthpoleThrowdown」は速くてよい(同郷のImpaled Nazareneのアルバム「All that you fear」(2003年)収録の「Armageddon Death Squad」をなぜか思い出した)し、#2「Shovel Knockout」も佳曲だ。ミドルテンポの楽曲はもしかするとライブでとても映えるのかもしれない。

でもやっぱり「Hate Me!」だったり「Silent Night, Bodom Night」だったり「Trashed, Lost & Strungout」だったり「Towards Dead End」だったり「Mask of Sanity」だったり「Hate Crew Deathroll」などなどなどなど名曲が山ほどあるこのバンドだからこそ、それらの似て非なる名曲が聴きたい私としては物足りなく感じてしまうのであった。バンドの新しい魅力にピンとこないのは、年を取ったせいだろうか。

2011年3月3日木曜日

(映) 告白 (2010年) ☆☆☆☆

38,5億円の興行収入をあげた大ヒット作なので今更説明は不要か。
遅まきながらDVDで観る。
原作は未読のため、比較は不可能だが、映画は最初から最後まで一気に見せる面白い作品だった。

大義はどうであれ、結局のところ、皆が他人からの承認を得るために殺人、復讐、いじめを繰り返している。この映画の登場人物の様々な感情の流れをみていると、その「承認欲求」が何よりも強い。嫌悪、嫉妬、殺意はそれら自体強い感情だが、他人から認められることに比べたら大したことはないのである。人間が、孤独をどれだけ忌むものとして扱っているかわかる。

学校の教室がいかに密室空間で、外からの介入を拒む性質のものであるかをリアルに思い出すことができた。その場を支配するのは正義とか道徳とかではなく、「いかに仲間外れにならないか。または、いじめられっこにならないか」というご都合主義である。そのためには、凡庸な生徒であれば、たとえ間違ったことだと初めは思っていても、被害者にならないために、加害者に与する方を選択する。

当然である。

いじめられて意に介さないのは、そのような加害者同士の脆弱な人間関係(いじめる対象が共通である、というだけのつながり)とは、次元の異なった場所での価値観にしか重きを置かないような、第三者から観察すればタフなキャラクターの人間のみである。たいていの人間は「友達は少なくたっていいじゃん」とか「いなくたっていいじゃん」と息巻いても、全く社会と隔絶することには恐らく耐えられないのである。その耐えられない孤独を避けるためのルールが、この教室においては、「殺人者を苛め抜くこと」なのである。それは私の生活から考えれば異常な状態であるが、だからといってそれを手放しにイカれている、と断罪することもできない気がするのである。まして自分がこの教室の生徒の一人であれば、である。自分が構成員の一人であれば、その生存・安全を保ちつついじめをなくすなど極めて困難である。

2011年3月2日水曜日

(麻) HITに学ぶ凝固能亢進の原因と評価

Etiology and Assessment of Hypercoagulability with Lessons from Heparin-Induced Thrombocytopenia. Anesth Analg 2011;112:46-58

1.Inherited risk factors
@
Enhancement of Procoagulant Effects(凝固亢進の増強)
最も一般的な先天性危険因子(日本人では極めて稀)
第V因子ライデン変異(白色人種の5%)
 ・アミノ酸置換を引き起こし、活性化第V因子が活性化プロテインSによって分解されなくなるため凝固亢進。
 ・ヘテロ接合体で3倍、ホモ接合体で18倍、全体で9倍、静脈血栓症の危険性が増加する。
プロトロンビンG20120A変異症(同2%)
 ・血漿中のPT濃度が高くなり凝固亢進。
 ・VTのリスクが3倍上昇。
 ・VTと診断された患者の7%がこのPTの遺伝子異常を持つ
⇒これら2疾患と動脈血栓症の関係は明らかでない 


*フィブリノゲンの異常も凝固亢進の原因となる
・脳卒中発症時のフィブリノゲン値≧450mg/dlの患者は、機能的予後が悪い。
・産生されたフィブリン分子がトロンビンを抑制できなかったり、プラスミンで分解されにくいと、凝固亢進状態を引き起こす。⇒急性肺塞栓後の慢性期の血栓による肺高血圧状態の患者にしばしば見られる。 

@Reduction of Natural Anticoagulation 生理的な抗凝固能の減弱 
・プロテインC・プロテインSの欠損 
 ・凝固を促進する活性型第V・第VIII因子を抑制する。
 ・先天性欠損で静脈血栓の危険性が5-10倍上昇する。
 ・ホモ接合のプロテインC欠損症は新生児期の致死性血栓症の原因となる。

・アンチトロンビンの欠損
 ・ヘパリン存在下でトロンビンと強力に結合するセリンプロテアーゼ阻害タンパクである。
 ・ヘテロの欠損患者はトロンビン阻害作用が正常の50%しかないため、血栓症の危険性が高まる。ホモでは早期に死亡。

これら生理的凝固因子の先天的欠損は0.2%以下と稀だが、後天性に発生することもある

@Reduction of Fibrinolysis 線維素溶解の障害

2.Acquired risk factors for hypercoagulability

・後天性のものは一過性のことが多い。 
・先天的因子より、血栓症を発生する危険性が高い。
・殆どの場合、複数の条件が重なって血栓が発生するため、治療のためには原因を明らかにする必要がある。
@抗リン脂質抗体は、動静脈血栓の危険因子である (ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2糖タンパクI抗体)
・ループスアンチコアグラントの各血栓症でのオッズ比
 動脈血栓:8.6-10.8   静脈血栓:4.1-16.2
 全体:5.7-7.3    習慣性流産や胎児死亡:3.0-4.8
・抗リン脂質抗体は、急性感染・炎症で誘導され、短期間(2-3ヶ月)見られるが、ある患者群ではより長期間持続することもある。
・血栓症・習慣性流産の患者で12週以上間隔をあけて最低2回抗リン脂質抗体が陽性ならば、APSの診断基準を満たす。
・持続的な抗凝固療法が一般的に推奨されている。

@肝・腎疾患は出血のリスクだが、凝固亢進にも関与する
・肝硬変では、プロテインC・S、AT、プラスミノゲン濃度は全て低下
・凝固促進因子は合成障害によっても低下しているが、PTは相対的に高くなる傾向があり、凝固亢進の素地となる可能性がある。
・肺動脈や門脈の内皮障害によって血小板凝集が亢進し、凝固活性が促進される。
・ネフローゼ症候群ではフィブリノゲン合成が増し、AT濃度が正常以下になることが知られている。肝疾患同様、腎血管でも内皮障害が起こり、腎静脈血栓症の原因の35%を占める。

@その他の血栓症の危険性
・血流うっ滞には、麻痺による寝たきり状態、心不全による低心拍出状態など多くの状態が関与する。
・メタボリックシンドロームでは、内皮障害と血小板凝集の亢進が関与する。
・心不全患者では血管内皮からの一酸化窒素の放出が減少しており、血小板凝集が促進される。
・癌細胞は微小粒子を放出し、フィブリン沈着を促進する。
・健康な高齢者でも、フィブリノゲンや第VII因子増加、線維素溶解の障害、血小板凝集能の亢進など、凝固促進状態が見られる。

@妊娠や薬剤によるもの
・通常の妊娠は高エストロゲン状態だが、free プロテインS抗原が妊娠中期で正常の39%程度 、後期で正常の31%程度まで低下するため、血栓が起こりやすくなる。
・トラネキサム酸、アミノカプロン酸は競合的にプラスミノゲンアクチベータを抑制したり非競合的プラスミン抑制作用のために心臓外科手術時に使用される抗線維素溶解薬である。
・トラネキサム酸による治療後に動・静脈閉塞やアミノカプロン酸による糸球体血管の血栓症が報告されているが、血栓塞栓症の既往のある患者で発症率が高くなる。

@デスモプレッシンは凝固促進因子(第VIII因子、vW因子)や組織プラスミノーゲンアクチベータ(抗血栓作用)や血管内皮からのプロスタサイクリン(血管拡張作用)の放出を促す。
・vW病等に使われるが、血栓症の報告もある。
・他の危険因子を有す患者への使用は注意(FDA勧告)

@rFVIIa(ノボセブン®)は血栓症リスクは相対的に低い。 
・危機的出血に対して使われている(FDA適応外)。
・抗凝固療法・肝硬変・重症外傷に対するrFVIIa療法を検討した13の研究では血栓は投与群で6.0%(45人/748人)、プラセボ群で5.3%(23人/430人)と、有意差はなかった。いずれにせよ密なモニタリングが必要である。

@
後天性アンチトロンビン(AT)欠損症はヘパリン治療に伴って起こる。 
・PCI治療時にヘパリン投与を受けた250人の患者―PCI中にAT活性が7.5%低下、手技終了・翌日はさらに4%低下した。⇒20時間以上のヘパリン中止で基準値に回復。
・ヘパリン治療は未分画ヘパリン投与患者の1-5%、低分子ヘパリン投与患者の1%以下をHITの凝固亢進状態にする。
・ヘパリン治療患者の8%が非免疫的機序による無症候性・一過性血小板減少症を起こす。(HIT type1として知られる)

3.凝固亢進状態の評価
まず疑うことが重要である。 
・先天性因子をもつ患者が後天性危険因子となるような環境におかれると予後は悪い。
 例:無症状の第V因子ライデン患者が抗線維素溶解薬を投与され、長時間CPB下管理になると破滅的な血栓症が起こる。
・一般的には若年者で原因不明に血栓塞栓症を繰りかえしたり、動脈硬化性病変がないのに動脈血栓症を起こすような患者には、先天的危険因子を調べる検査が推奨される。
・凝固亢進状態の持続を示すマーカーの中では、D-dimerが1番研究されており、VTE患者の治療期間を判断するために有用である。
・最も使われているPT、APTTは整形外科、外傷、一般外科手術患者の血栓症発症との因果関係が見出されなかった。
・トロンボエラストグラフィ(TEG)は凝固・線溶を見ることができる検査だが、個人差が大きく、血栓症予測はできなかった。

4.HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)
・血小板減少 ≦15万/μL(オッズ比37)、ヘパリン開始後5日の血小板数 ≦開始前の50%(オッズ比12) で血栓症の危険性が増す。
・動静脈血栓症と強い関係(オッズ比12-37)がある。
・原因は免疫学的機序によると考えられている。
・HITで出血は稀である。
・ウシヘパリンはブタヘパリンより危険性が高いかもしれない。
(補:ヘパリン・血小板因子4(PF4)複合体に対する抗体が血小板表面に結合し、血小板活性を引き起こす。活性化された血小板はPF4を放出し、更なる複合体がつくられ、トロンビンの産生が増加する。それによってさらに血小板が活性化する。このサイクルで血小板が減少し、血栓が作り出される。抗体による血管内皮障害によってさらに凝固亢進状態になる。)

@HITの診断
・ヘパリン投与開始5-14日に血小板の50%以上の低下が見られれば疑うべき。(その時、既に投与されてなくても)
・過去100日以内にヘパリン投与されていれば、ヘパリン投与24時間以内に血小板減少が起こる可能性がある。
・ヘパリン注射部位の出血様皮膚斑や低血圧、全身性紅斑も疑う契機に。
・38-76%が最初の数日以内に血栓症を起こす。
・HIT患者の10%近くで四肢を失い、死亡率は20-30%である。
・HITを疑った場合、血液検査が推奨される。ヘパリン・PF4抗体に対する抗原性免疫試験はよく行われ、感度90%を超えるが、特異度は高くない。
・セロトニン放出試験は感度・特異度とも95%で免疫試験より高いが、通常はスクリーニングではなく確定診断のために行われる。
・検査は万能ではなく、診断には臨床医の疑いと判断が最も重要となる。

@HITの治療
血栓症の有無に関わらずHITが強く疑われたら確定診断を待たず、直ちにヘパリン投与を中止し、別の抗凝固療法を開始する。
・凝固亢進状態が少なくとも1ヶ月は続くためヘパリンを中止するだけでは不十分である。
・ワルファリンは効果発現に時間がかかり、X、IX因子やプロトロンビン濃度に比べて、プロテインC・S濃度を相対的に早く低下させる(これが血栓化を促進する)ので、HIT急性期には避けるべきである。
・直接トロンビン阻害薬の効果はAPTTやACTでモニタリング可能である。
・過去の研究によるとLepirudinとargatroban(ノバスタン®)はHIT患者の合併症を有意に減らす(特に新しい血栓の形成を抑える)。
・argatrobanは肝代謝のため、肝障害時は投与量を減らす。PT-INR値を延長させるため、ワルファリンでの治療へ移行する際は引き続きモニタリング可能。

最適な治療期間はまだ確立されていない。 
・血栓症がないHITならば1ヶ月、血栓症を合併すると3-6ヶ月治療が行われている。
・代替の抗凝固薬を投与し、血小板数が15万/μlになった後に徐々にワルファリンに移行するのはよいかもしれない。
・ヘパリン-PF4抗体が検出されなくなるまで、ヘパリンの使用を避けるべきである。

@心臓手術の場合
・心臓手術例での報告は少ない。
・待機手術なら、ヘパリン-PF4抗体試験が陰性になる発症3ヶ月後まで延期する。
・この場合、手術中のみのヘパリン投与とプロタミン拮抗は可能だが、術前・術後は他剤による抗凝固が推奨される。
・もし延期できない心臓手術なら、他剤による抗凝固が推奨される。
•Lepirudinとargatrobanを使ってCPB下に手術した少数の症例報告がある。


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だいぶ端折ったが活字にすると結構な分量になった。15分弱でプレゼンテーションするには無理がある(そして聴く方にも大分負担がかかる)。

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ASO患者さんの末梢血管バイパス術の麻酔を担当することになった。
HIT type2と診断されたのは2年ほど前。現在は抗体価は陰性になっているはずだが未検査。だが、血小板数が低めを推移している。こういう場合、術中に血小板を入れてもいいんだろうか?

血小板輸血に関しては― UpToDateによれば
Platelet transfusions — Platelet transfusions are generally considered as being relatively contraindicated for the prevention of bleeding in patients with HIT, largely due to the possibility that they might precipitate thrombotic events (ie, "add fuel to the fire").
In two reports of a total of 41 patients with HIT, platelet transfusions resulted in appropriate 24-hour post-transfusion platelet count increments in the majority, with cessation of bleeding in two-thirds of the bleeding patients [169,170]. No thrombotic complications were noted in either report. A review of the literature revealed no case of a complication clearly attributable to platelet transfusion [169].
These authors, as well as the 2008 ACCP Guidelines, concluded that platelet transfusions can be considered in patients with HIT and overt bleeding or who are deemed to be at high bleeding risk, particularly if heparin has been stopped for at least several hours.

1. American College of Chest Physicians. Treatment and prevention of heparin-induced thrombocytopenia: American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines (8th Edition). Chest 2008; 133:340S.
169. Platelet transfusions in heparin-induced thrombocytopenia: a report of four cases and review of the literature. Transfusion 2008; 48:2128.
170. Outcomes after platelet transfusion in patients with heparin-induced thrombocytopenia. J Thromb Haemost 2010; 8:1419.
overt: 明らかな
deem: 思う、みなす
 
・A-lineの加圧バッグはアルガトロバン5mg/生食500ml程度
・術中は2-5γでACT200-300秒程度になる
・抗凝固:APTT1.5-2.0倍には0.7γで開始
・アルガトロバンの拮抗薬は存在しない。生物学的半減期は39-51分