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2018年6月29日金曜日

気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析

日本医療安全調査機構(https://www.medsafe.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=1#teigen004)から「医療事故の再発防止に向けた提言」の第4号「気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析」が発表されていました。

https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/teigen-04.pdf

その中で以下の提言が挙げられています。(PDFの3ページ目を引用)
1:気管切開術後早期(およそ2週間程度*)は、気管切開チューブの逸脱・ 迷入により生命の危険に陥りやすいことをすべての医療従事者が認識する。
2:待機的気管切開術は、急変対応可能な環境で、気管切開チューブ逸脱・ 迷入に関する患者ごとの危険性を考慮した方法で実施する。
3:気管切開術後早期の患者移動や体位変換は、気管切開チューブに直接張 力がかかる人工呼吸器回路や接続器具を可能な限り外して実施する。
4:「カフが見える」「呼吸状態の異常」「人工呼吸器の作動異常」を認めた場 合は、気管切開チューブ逸脱・迷入を疑い、吸引カテーテルの挿入などで、 気管切開チューブが気管内に留置されているかどうかを確認する。
5:気管切開術後早期に気管切開チューブ逸脱・迷入が生じた場合は、気管 切開孔からの再挿入に固執せず、経口でのバッグバルブマスクによる換 気や経口挿管に切り替える。
6:気管切開術後早期の気管切開チューブ交換は、気管切開チューブの閉塞 やカフの損傷などが生じていなければ、気管切開孔が安定するまで避け ることが望ましい。
7:気管切開術後早期の患者管理および気管切開チューブ逸脱・迷入時の具 体的な対応策を整備し、安全教育を推進する

PDF12ページ目に5症例の経過が図で示されています。
手術室では気管切開術はもちろんのこと、気管切開された患者さんの麻酔を担当する機会がしばしばあります。提言でも記載がありますが、ベッド移動の際には特に注意が必要です。
麻酔科医はきちんと読んでおく必要があるかと思います。

2018年6月27日水曜日

腹部手術では制限輸液とリベラル輸液で1年後死亡率に差がない

Paul S. Mylesらによる論文、6月号のNEJMで発表されていました。
Restrictive versus Liberal Fluid Therapy for Major Abdominal Surgery
N Engl J Med 2018; 378:2263-2274 DOI: 10.1056/NEJMoa1801601
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1801601

オーストラリアを中心とした国における腹部手術患者約3000人ほどを対象に、制限輸液(手術開始から24時間までで3.7リットル:interquartile rangeが2.9~4.9)かリベラル輸液(同6.1リットル:interquartile range 5.0~7.4)かで、前向きに1年後の死亡率を検討しています。死亡率は両群で差がありませんが、2次評価項目のAKIの発症率で8.6%対5.0%と有意差がついています(制限輸液群の方がAKI発症率が高い)。

エディトリアルもあります。
Editorial:Finding the Right Balance
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMe1805615

コペンハーゲン大学外科のBirgitte Brandstrup先生がエディトリアルの最後で以下のように書いています。

In addition, we learn that physiologic principles remain valid: both hypovolemia and oliguria must be recognized and treated with fluid. Finally, I agree with the authors’ statement that their findings should not be used to support excessive administration of intravenous fluid during surgery. Rather, they show that a modestly liberal fluid regimen is safer than a truly restrictive regimen.

なんでもほどほどがいいってことでしょうか。周術期の輸液療法においては、そのほどほどが難しいのですが。

ちなみにこの研究にエントリーされている患者さんに対するデンプン膠質液の投与率は両群ともせいぜい1%です。