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2011年9月7日水曜日

(麻) 麻酔科専門医認定試験2010-症例4‐2 甲状腺癌、挿管困難difficult airway management

症例
・58歳の女性。高血圧に内服中。158cm/88kg
・甲状腺癌
・気管軽度圧迫。気管粘膜までの浸潤はない
・甲状腺摘出術が予定

質問
1) 術前評価
1.この患者の術前での問題点
・高血圧
・3度肥満、BMI35.2
・気管を圧迫する甲状腺癌のため気道確保に注意が必要
・嗄声があるかも
・甲状腺機能異常があるかも(動悸、脱力感や倦怠感、手足振戦、体重減少、異常発汗、便通異常、体毛異常、下腿浮腫)

2) 麻酔管理について
1.導入前10分以上かけて純酸素を十分投与。呼吸循環状態は安定しており、チオペンタール200mg静脈内注射を行った。意識消失したので、マスクを当てて用手的気道確保を行い、バックを押そうとしましたが換気できない。仮に、呼吸停止をきたしてなんら適切な処置がなされなかったとしたら、何分程度でSaO2が90%以下になるか。
・Anesth Analg 1991;72:89-93によれば中等度肥満BMI32.1±0.8にて4.1分。高度肥満者BMI43.2±1.6では2.7分とあり、3-4分で90%以下になると想像される。
因みに非肥満者では6.1分。

2.原因として何を考えるか。その対処法についても述べる。
A.肥満による解剖学的変化
・咽頭周囲の軟部組織の増大による上気道の狭小化
・咽頭開大筋(主にオトガイ舌筋)の活動低下
・顔面の形態異常(顔が大きい)
・頭部後屈制限
対処法:2人法を行っていなければ2人法を行い、バッグ換気と下顎保持を別々に分担する。スニッフィングポジションをしっかりとる。改善しなければLMA等の上喉頭換気デバイスを挿入する。
その後、筋弛緩薬が投与されていなければ、頭高位にして覚醒を待ち、意識下挿管を行う。
もしくは喉頭展開が困難でない(開口が3.5cm以上、甲状頤間距離が6cm以上、頭部後屈十分、小顎でない、動揺歯がない、など)ことが予想されれば、LMA等で十分に酸素化を再度行った後に挿管を試みる。

B.浅麻酔で喉頭痙攣
対処法:麻酔薬を追加して深い麻酔にする。

3) 気道確保
チオペンタールを追加し、マスク換気が可能となった。ロクロニウム80mg投与し、筋弛緩を得て喉頭展開を試みた。開口するが、咽喉頭の視野が確保できない。
1.気管挿管に入る前に何をするか。考えられるものをすべて挙げる。
・まず冷静になり、喉頭鏡に固執して何回も喉頭展開しないように自分を戒める。
・2,3回試行して無理ならば他の麻酔科医に手を変えるか、早々に他のデバイスでの挿管に変更する。
・手元にガムエラスティックブジー、マッコイ喉頭鏡、気管支ファイバー、AWS、挿管用LMA、i-gel等のデバイスをもってきてもらう

2.気管挿管のための補助器具には具体的にどのようなものがあるか。
上記の補助器具。

3.それでも気管挿管ができないときはどうするか。
・上気道デバイスを挿入して気道確保する
・筋弛緩薬をリバースして自発呼吸温存下に経口ないし経鼻挿管を試みる

4) 術後管理について
1.挿管困難であったが気管挿管下で甲状腺摘出術が無事行われた。術後合併症について可能性のある病態を挙げる。
・術後副甲状腺機能低下症、低カルシウム血症
・反回神経麻痺
・両側反回神経麻痺
・術後出血
・気胸
・乳縻
・舌下神経麻痺
・創部感染
・肺炎

2.術後手術部位の出血を認め、気道狭窄症状を呈した。緊急手術の依頼を受ける。どのような管理にするか。
・まず「私が経口or経鼻気管挿管をしなくちゃ!という考えに固執しないこと」を頭に思い浮かべる
・挿管困難だったので、恐らく経口/経鼻挿管は相当困難だろう。
・創解放で頸部圧を解除すると挿管が容易になる場合があり。その際に気管も確認できればそのまま局麻下に気管切開してもらう方法もある。
・手術室の入室を待てない程に切迫した呼吸状態であれば、病棟で気管切開してもらうことも提案する。
・気道も循環も危機的状態になる可能性がありそうならば、PCPSを挿入、管理できる医師に応援を求めるのも一案だろう。
・術後は、上気道の浮腫も合併していれば、気道確保を目的に、術後2‐3日程度は挿管のままの管理をした方が無難だろう。

参考にした論文などです。大変お世話になりました。
・LiSA2010年5月号p.460-463
・LiSA2011年2月号p.122-129
救命処置・緊急外科的気道管理ガイドブック―換気も挿管もできない!どうする?. 2010年,  真興交易医書出版部
・経皮的心肺補助装置を用いて気道確保し手術を行った甲状腺癌の一例. 頭頸部外科. 2010, Vol. 20, No. 1, p.75-79 .
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshns/20/1/20_75/_article/-char/ja/