過去にも2回ほど記載したように、私は煙草を吸いたい個人を拒否しないし、批判する気も毛頭ありません。(2010年9月29日、2011年6月24日記載)
煙草は嗜好品だと考えているので、吸いたい人が吸う、吸いたくない人は吸わなくて済む。どんなことでもそうだけれど、そんな、自分と異なる考えや嗜好をもつ人たち同士が、そこそこのところで妥協しあって共存できる世界に私は生きていたいと思っています。
煙草とは不思議なものです。
パッケージに、体の具合が悪くなる可能性についてしっかりと記載されたうえで、販売されており、体が悪くなることを自覚したうえで購入する人が大勢いて、それによる税収が2兆円を超えているというのですから。
すぐには死なないけれど、長い時間をかけて死に至らしめるような商品です。
とはいえ「~の後の一服」や「酒を呑みながらの一服」ってヤツが至高のひと時を作りだすことも、非喫煙者の私でも想像できます。
私がここで問題視したいのは新財務大臣の「税という点では、たばこだけ抜き出して議論するようなことはバランスを欠いている」という発言です。
新総理大臣が元財務大臣だったこともあり、増税を警戒する報道をメディアは続けていますが、煙草税の増税は税収の増大につながるでしょうか。
煙草税を上げる→単価は上がるが、喫煙者が減るかもしれない。だから税収は変わらない→喫煙者が減った分だけ肺がん等の疾患にかかる医療費は抑制される。一方で禁煙によって、肺がん等に罹患しなくなれば、長生きして他の悪性疾患に罹患する可能性があり、医療費や年金等がかかるため結局は国の歳出は減らない。
ということで煙草税増税によって国に入る、煙草税以外の税収も含めた税収が、増える/減るについては私にはわかりません。
煙草税の増税を表明した厚生労働省大臣の発言は、本人が嫌煙家か否かに関係なく、国民の健康を推進する観点からは、極めて真っ当な意見だと思います。ですが、財務大臣やその他の方からは芳しい反応がないようです。「増税」発言が、越権行為だとか「他で慎重に国民のコンセンサスが得られるように増税の議論をしていかなければならないところを先走りやがって」という主張のもとにトーンダウンさせられたのだとしたら、非常に残念です。
以下の観点から、私は「税という点では、たばこだけ抜き出して議論するようなことはバランスを欠いている」とは考えません。
・「国」は、財務大臣であろうと厚生労働大臣であろうと官房長官であろうと、国民の健康を増進するために働く役割がある。そのため、喫煙が健康によい影響を与える何らかの証拠がない状態では、喫煙者を減らす方向に舵を取るのが国としての極めて真っ当な仕事である(官房長官が愛煙家かどうかはどうでもよいことです)。
・「煙草税」だけ上げるのは…、という発言は極めて不適当である。なぜなら、喫煙が健康に害を及ぼすことは誰もが知っていることである(勿論喫煙者の方々も「煙草で死ぬならしょうがないよね」と心の何処かでほぼ間違いなく思っている)。「煙草税」以外に「健康に害を及ぼす物品等の税」があるのだろうか。あるとしたらそれは何か。ないのなら、何故それらを煙草と同じ俎上に上げて語るのか。
・煙草税が上がると煙草生産者の生活が…という発言もまた不適当である。煙草が健康に害を及ぼす→国は将来的に煙草税を上げるだろう→そうなると煙草も売れなくなるだろう→他の業務を今のうちに開拓しておくか…
という小学生でも思いつく論理は、何も煙草だけに限った話ではなく、どのような商品を作っている企業でも言える話である。大ヒット商品が出た影に、その煽りを受けて倒産した会社もあったはずだが、それらについても同じように、労働者を慮ったのだろうか。何故、煙草生産者だけがその生活をこれほどまでに慮られるのだろうか。それは逆に不公平ではないだろうか。健康を害さないものの生産に携わっていながら業績不良で失業に陥っている人々はたくさんいる。
・煙草は嗜好品(つまり、それがなくても生きていけるもの)である。それがなくても生きていける上に、国民の健康増進に寄与しないことが自明なのだから、何故ちょっとの増税発言でわざわざ閣内意見不一致を国民の目にさらすのか。
これらの意見は、医師で非喫煙者で経済のことを分かっていない人間である私が発信しているということで、「外野で上から目線でうるせぇよ」と一蹴されるのがオチでしょう。ただ、これだけ、世界的にも煙草税が増税されている状況と、肺癌食道癌喉頭癌咽頭癌口腔癌副鼻腔癌胃癌肝臓癌膵臓癌、COPD、心筋梗塞、脳梗塞との因果関係があるという研究結果が現実に存在するわけです(http://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause/smoking.html#hyo1)。
それらを踏まえた上で吸いたい人は吸えばよいと思います。
(私は、できればそれらに罹患したくないし、それらの治療が大変だったり、それらによる疼痛が強いということを普段見ている、という自分の肌感覚から、喫煙をしないというだけです。)
ですから、税収が上がる/上がらない、他とのバランス云々の話以前に、不健康な状態になることを放置するかのような発言をするのが、財務大臣だろうがなんだろうが、「国」を代表する人間として整合性のとれた発言とは思えません。しかも現在の400円ちょっとをいきなり2000円にします、とか、10000円にします、とか言ってるわけではない。700円程度であれば、煙草好きなら他にかけるお金を削ってでも捻出できる額であろうと思います。
私が、今回の財務大臣や官房長官の発言が極めて残念だと考えたのは、「なぜ、こういう目に見えて分かりやすい、おいしいところで、国民の支持を積極的に得にいこうとしないのか」というところです。
2010年の喫煙率は全体で23.9%(男36.6%、女12.1%)とされています(厚生労働省の最新煙草情報http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd090000.html)。ですから、残りの76.1%は非喫煙者であり、彼らが煙草税増税に反対する世論を形成する筈がありません。
厚生労働大臣の「たばこ、700円にしましょう」という発言が、財務省への越権行為かもしれなくても「そうですね、上げる方向も視野に入れていきましょうか」という程度の、国民の多くを占める非喫煙者へのリップサービスを財務大臣ができなくては、今後さらに難航するであろう様々な増税議論において、与党野党内の有象無象たちを押さえつけて政府の思う通りの増税方針に誘導する…ことはかなり困難になるのではないか、という失望を感じるのです。
ということで、煙草税増税の可否、は議論にすらならないくらいどうでもよい(税収の増減以前に国民の健康を守るべきであるという観点から、当然増税すべきです。それによって格安で輸入する違法のたばこ業者が増えようが増えまいが、JT株を国が保有していようが。)ことですが、今回のちょこっとしたことに対する対応が、国代表の方々の舵取り能力を疑わせるものでした。こんな体たらくで、今後一年間また迷走を重ねた挙句に、来年の党代表選において、「選挙で連戦連敗にも関わらずいまだに発言力が何故かあるあの人」たちと無益な抗争を繰り広げるだけにしないでいただきたい、と切に願います。数百円/箱の増税くらい、ガタガタ言いあわずにさっさとしてくれ。