以前作った回答を上げておこうかな。こういう問題に当たれば、満点は取れないとしても、全く答えられないということはないので、ありがたいのだけれど。
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症例
・45 歳男性。169cm、52kg。
・手根管症候群に対して手根管開放術予定。
・糖尿病性腎症で血液透析中。
・BP 170/80mmHg、HR 84bpm。
・空腹時血糖は181mg/dl、血液透析後のHb濃度8.1g/dl、血清K 4.3mEq/l、血清Ca 8.4mg/dl。
質問
1)術前評価と管理
1. この患者の術前状態における問題点を列挙してください。
・血糖コントロール不良の糖尿病かつ血液透析中であること
・調節不良の高血圧
・腎性?貧血
・軽度の低Ca血症(基準値およそ8.5-10.2mg/dl, 2.1-2.5mmol/L程度。血漿イオン化Ca<1.10mmol/L程度以下で低Ca血症)
2. 術前に必要な検査を挙げ説明してください。
・血算(血小板低下の有無)、生化学(肝機能など)、HbA1c値(普段のコントロールの指標に)
・透析に関する情報:スケジュール、週何回なのか、除水量は、dry weightは、HD中の血圧低下や臨床症状はあるのか、
・凝固機能(腕神経叢ブロックを考慮する際には)
・血液ガス分析(代謝性アシドーシスの程度)、
・胸部Xp(肺うっ血所見、胸水貯留所見、心拡大の有無)
・心機能(12誘導心電図、TTEで心嚢水貯留や弁機能、心収縮能・拡張能、壁運動以上をチェック)
問診では
・シャントの位置
・普段の運動耐容能(何METsくらいか推測)
・手根管症候群による正中神経麻痺以外の手足の神経症状
・出血傾向の有無
3. 貧血を是正するか。
・出血量は多くないだろうし、手術も短時間であることが予想されるため是正しない
4. 低Ca血症をどうするか。
ごく軽度なのでそのままでもよいように思う。
5. 糖尿病の評価、コントロールはどうか。
随時血糖値から判断する限りではあまりよろしくないであろう。恐らく末梢神経障害、自律神経障害、眼障害もあるのではなかろうか。冠動脈病変もあることを念頭においた管理が望ましい。
2)麻酔法および術中管理
1. 麻酔法を選択しその理由を説明してください。
2. 麻酔導入の方法と使用する薬剤について具体的に述べてください。
略。喘息患者の抜釘と同様に全麻か腕神経叢ブロックでどちらか安全に施行しうると思う方で説明。
3. 研修医が「スキサメトニウムを使いたい」と言った時、どのようにするか。
・K値が上昇する可能性がある。現時点ではK値は4台なので、恐らく問題とならないだろう。だが、術中使用する他の薬剤によりK値が上昇する可能性があるし、万が一にも赤血球輸血を行う可能性もあるだろうから、より安全に使用できる患者さんに対して使いましょう。
3)周術期危機管理
1. 全身麻酔で管理し、ETCO2が25mmHg で経過していたときにST がさらに低下。どうするか。
・純酸素にしながら、術者にSTが低下している旨を伝える。
・エフェドリン、フェニレフリン等の昇圧剤を投与する。
・ETCO2 35-40mmHg程度になるよう、換気回数を減らす
・冠拡張薬(ニコランジル2-6mg/hや硝酸イソソルビド2-5mg/h)投与開始。血圧が低くなければニトログリセリン使用も
・以上で回復すればそのまま注意深く経過観察。手術再開してもらう。ST低下や血圧低下が持続するようなら、TEEを。(但し食道・胃にTEEの禁忌となるような病気なければ)
2. i) 術前術後の透析スケジュールについて説明。
・術前日に透析を行う。dry weightを目標に。
・術後は術中合併症なく、術後出血も落ち着いているようならば術翌日に行う。
ii) 一般に透析患者に輸液や薬剤を使用する際にどのようなことに注意するか。
・輸液はKなしのものを使用する。生食か1号液。輸液量は除水量から判断して多すぎず少なすぎず、術後のことも考えて。低血圧には昇圧剤を積極的に使用し、輸血の判断も早めに行う。
・腎代謝の薬剤の使用は十分気をつける。筋弛緩薬は通常よりさらに慎重に、またモルヒネは極力使用しない。HD患者へのスガマデクスの投与は推奨されていないので、残存筋弛緩には十分注意して抜管・退室の指示をする。
4)術後管理
術後鎮痛の方法を具体的に説明。
略