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2010年5月8日土曜日

麻酔と誤嚥 aspiration

敵を知り己を知りて尚、百戦怖ろし。
しかし敵を知らずには戦うことさえ儘ならず。

定義:咽頭から気管へ何らかの物質が流入すること
適切な絶飲食時間: 軽食やスナック類(6時間)、固形物(8時間) - 1999ASAガイドライン
発生頻度:1万回の麻酔につき1-7例。平均在院日数は21日、多くがICUに入室。平均死亡率は5%
リスク:高齢、緊急手術、手術の種類(食道、上腹部、緊急開腹術)、食事摂取後、食道疾患(強皮症、アカラシア、憩室、Zenker憩室)、基礎疾患(糖尿病、通過障害、食道裂孔ヘルニア、麻薬や抗コリン薬)、外傷、妊娠、痛み・ストレス、意識レベル低下、病的肥満、difficult airway、神経筋疾患
注意点:
どんな患者がリスクが高いかを認識することが最も重要
・H2ブロッカが麻酔導入時に効果得られるようにするためには導入2-3時間前に投与。
・difficult airwayの患者は自発呼吸を保ったまま意識下挿管。局麻を併用する場合には噴霧を声門より上の気道に限る
臨床像:
・pH2.5以下の液体:0.4ml/kg以上で直ちに肺胞毛細管が破綻。間質浮腫、肺胞内出血、無気肺が起こり誤嚥して数分以内に低酸素になる。数時間後にさらに悪化することも(白血球による炎症性反応。chemical pneumonia)。
・非酸性の液体:肺サーファクタントを破壊。肺胞虚脱、無気肺で低酸素。酸ほど重篤でない。
・固形物:物理的閉塞と異物への炎症。
症状:90%以上の例で発熱。70%に頻呼吸やラ音。40%に咳、チアノーゼ、喘鳴
・2時間後に症状なく酸素投与量が増えていなければ完全に回復するだろう
治療:全ての患者にXpと数時間の観察。対症療法(気管内吸引、人工換気)、グラム陰性菌や嫌気性菌を誤嚥した場合以外は抗生剤は必要ない。

<その他の知識>
・圧:大気圧を0とするとUESは100mmHg、食道は-5mmHg、LESは20mmHg、胃内圧10mmHg
・麻酔薬:
UESはケタミン以外の麻酔薬で低下
LES低下:吸麻、PRF、チオペンタール、麻薬、アトロピン
上昇:スキサメトニウム、パンクロニウム、制酸薬
・意識レベルと気道反射は必ずしも平行しない
・輪状軟骨圧迫は第5頚椎と甲状軟骨間で食道入口部の圧迫閉塞をもたらす。100mmHgの逆流圧に耐えうる。
・挿管完了したら必ず気管内吸引して誤嚥がないことを確認。
・胃や小腸以外の手術では抜管時にも要注意。充満胃と考える。しっかり覚ます

<参考文献>
麻酔科シークレット第2版、MEDSi
麻酔科学スタンダード2-臨床各論