火曜日11日。
月1回お世話になる外勤の病院。居宅から片道100分以上かかる。最寄駅からタクシーを使えばもうちょい時間短縮できようが、小さい頃から「タクシーはお金持ちが乗るもの!」と洗脳されて育った私にはタクシーは容易には使うこと能わざる乗り物なのである。
その1:Duration of Dual Antiplatelet Therapy after Implantation of Drug-Eluting Stents NEJM 2010, Volume 362:1374-1382
これはクロピドグレル(日本で商品名はプラビックス)+バイアスピリン群とアスピリン単剤群で比べたときにDES患者の死亡率はどうなるのかを2701例で19ヶ月followした研究である。結果は2剤併用群でMI,脳卒中、全死因死亡の複合リスクが有意ではないがアスピリン単剤群より上昇した。というものであった。心筋梗塞や全死因死亡等の各々のリスクは両群間で有意差はない。
その2:血管外科患者対象のCARP trial(J Vasc Surg 2006, 43: 1175-82)やDECREASE-V Pilot Study(J Am Coll Cardiol. 2007;49(17):1763-9)では術前の予防的血行再建を行っても短期死亡リスクや心筋梗塞のリスクは変わらないとしているし、最近のスタディでは術前PCIが術後30日以内の死亡率をむしろ上昇させるというものもある。
何でこれらの論文を思い出したかというと外勤先での任務はかねてから予告されていた通り、泌尿器科の手術の中でも1、2を争う長さの大手術の麻酔管理である。しかも高血圧、糖尿病、冠動脈3枝病変、肺気腫の合併症あり。3枝病変に対しては何故か2ヶ月程前にステント治療がなされており、しかもご丁寧に上記2剤の抗血小板薬はストップされている。もちろんヘパリン化はされていない。1年は継続しなきゃまずいんじゃなかったっけ?あ、でも最近NEJMに出た韓国のスタディでは逆の結果だったような……。という流れでのことである。上記の論文は「プラビックスとバイアスピリン」か「アスピリン」だけか、で比較しているのであり、抗血小板薬をやめていいとは一言もいってくれていない。とにかく目の前の患者さんの薬は中止されているのである。
術中にステント再狭窄だけは勘弁願いたい。施設により求められる麻酔のゴールが異なるのはよく実感することだが、この手術における最悪のゴールは 出血→頻脈、PVC散発→VT、VF→死 である。私の前だけでは心臓よ止まってくれるな!と赤血球をポンピングしているときに流れていた曲
Pain of Salvation「Ending Theme」
この曲のコーラス部ばかりが頭に流れ「え~んでぃんしぃ~、え~んでぃんしぃ~」と、映画のスタッフロールを迎えるかのごとき満ち足りた気分になれる手術の終結を心待ちにしていた。10時間の麻酔を終えた後には爽やかな開放感があった。
エビデンスを臨床に還元するのは難しい・・・と開放感に満たされて帰りのバス停で久しぶりに聞いた曲
友川かずき-生きてるって言ってみろ