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2011年8月22日月曜日

(雑) "続・オヤジの一番長い日" ~私的「24」ならぬ「44」

私はいつも意識を失っている患者さんの頭側に立っている。

だから、患者さんの顔をまじまじと見ることが多い。
しかし、患者さんの頭側から覗き込むので、顔立ちとしての造形美についてはよくわからない。

口には気管チューブが挿入されているし、鼻からは胃管が挿入されているし、目はアイパッチという角膜が乾燥しないためのシールを貼ってしまうので、どんな美人さんでも美人さんじゃなくてもあんまり変わりないのだ。
でもいつも気になって気になって仕方ないことがある。

それは目脂(めやに)だ。

ご老人だと結構しっかり頑固にこびりついていることが多い。長期入院の方に多いのは想像できるが、中には昨日入院、今日手術、数日後退院のスケジュールなのに、がっちりとついていることもあるのだ。
この方は入院してなくても、目脂をごっそり付けたままスーパーに買い物に行ってたのだろうか、とか目脂がべっとり張り付いたままパチンコ屋でスロット打ってたのだろうか…と思うとなんとも言われない気持ちになる。

目脂はおそらく、患者さんに無断でゴシゴシ取り除いても「お前、なんてことしてくれたんだよ!大事に取っておいたのに!」と怒髪天で憤慨されることはないだろう。だから、手術が終わって、アイパッチを剥がし、患者さんの意識が戻る前にガーゼなどでゴシゴシと取って差し上げることは、私の麻酔をやる上での、いくつかある楽しみのうちの1つである。

もう一つ気になることがある。

それは鼻毛(はなげ)だ。

びよ~んと、もの凄い長さのモノが1本だけ飛び出ていたりすると、切りたくて切りたくてウズウズしてしまう。だが、鼻毛の場合、「お前、なんてことしてくれたんだよ!その一本だけ伸ばして大事に取っておいたのに!」と万が一にも怒髪天で憤慨されることがあるかもしれないので、今日までの麻酔科医人生4年5ヵ月間で、患者さんに無断で鼻毛を切ったことはない。
いつか我慢できずに切ってしまう日がくるんだろうか…その時は術後回診時にきちんと説明した方がいいのだろうか…いやいや術前回診の時に説明しておく必要があるな。

「万が一、目に余る長さの鼻毛等がございましたら、全身麻酔中に処理させていただきます。」

それが高じて、そのうち、胆嚢を手術で取るついでに顔の無駄毛処理やフェイシャルパック、整髪パーマ染毛、二重瞼のプチ整形まで付いてきちゃうようなサービスが全身麻酔下にオペ室で行われるようになるのかなぁ。既に行われているのかなぁ。

***
などと妄想していて罰があたったのか、2か月と10日ぶり位に、オールナイトで麻酔をする羽目になった。
私は勝手に緊急手術の麻酔grading scaleを作って、難しい方から順にS級、A級、B級、C級(注1)に分類しているのだが、今回のはA級1件、S級1件、B級1件だった。なんにせよ、26時間中に6件の麻酔管理をしたのは久しぶり。真夜中に輸血をポンピングしたのも久しぶり。私はバイト麻酔科医なのに…。

これは自分の撒いた種ではない。
最早、金曜日に眠れるなんて甘い考えは捨てよう。

注1:C級とは、緊急手術なのにスパイロ検査をやっていたり、絶飲食時間がたっぷり取ってあったりする「外科医の都合による予定緊急手術」である。