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2011年8月10日水曜日

(麻) 麻酔科専門医認定試験口頭試験2007年-症例9-子癇発作の緊急帝王切開術

こちらもI先生からの寄稿をもとに改訂したものです。

症例
30歳。155cm、87kg(非妊時75kg)。妊娠32週。
血圧180/105mmHg、脈拍103回/分、両下肢に浮腫が著明、蛋白尿(+)。
子癇発作のため緊急帝王切開術の麻酔依頼あり

1)術前評価と管理
1.患者の術前状態の問題点を列挙。
・ 肥満(非妊娠時BMI 31.2)
・ 妊娠時の体重増加 肥満群の推奨体重増加(目安5kg)を超えている。
・ 早産 妊娠32週
・ 妊娠高血圧症候群(重症)
・ 子癇発作(と胎児機能不全もあるかも)
・ フルストマック

2.術前の高血圧の対応について説明。
緊急かつ適度な降圧を要するので、ニカルジピンの持続投与を行う。(出産後の子宮弛緩を悪化させるので注意)
脳還流、胎盤血流を損なわず(下げすぎず)、心不全を予防するため。
降圧目標としては、sBP=140-160, dBP=90-100, mBPの低下を20%以内とする。(いずれもGrade C)

2)麻酔法および術中管理
1.麻酔法として何を選択しますか。その理由について述べて下さい。
@全身麻酔を選択する場合の理由
子癇で痙攣していれば、区域麻酔は不可能。おそらく子癇を止めるためにジアゼパム等のベンゾジアゼピンが使用されれば、妊婦は意識レベルが低下するため、やはり体位はとれなかろう。
また、痙攣発作の原因として脳血管障害や頭蓋内病変、PRES等の可能性があり、頭蓋内圧亢進は否定できない。その場合は脊髄くも膜下麻酔は禁忌となりうる。また子癇発作が落ち着いたとしても、手術中に子癇発作を再発する可能性も十分あり、手術開始前に確実な気道確保をしておいた方が安全な可能性がある。

@脊髄くも膜下麻酔を選択する場合
患者の痙攣がコントロールされていて、かつ血小板数が十分あり(HELLP症候群等が否定されている状態)、かつ凝固因子が正常で出血傾向がなく、かつ患者が頭蓋内圧亢進症状がなく、かつ患者の同意が取れる(つまり患者が意識清明である必要あり)のであれば、肥満のために気道確保が難しい可能性は十分あり(重症PIHでは重症の気道浮腫がありうる)、誤嚥性肺炎も恐ろしいので、脊髄くも膜下麻酔で行うことも選択肢として残る。

2.選択した麻酔方法を具体的(使用薬剤の種類および量も含む)に述べて下さい。
@全麻の場合
・チアミラール 4mg/kg(子癇が重度で子癇治療に対してジアゼパム等使用されていればもっと少なくてよいだろう) + スキサメトニウム 100mgまたは1.5mg/kgによる迅速導入。挿管で著明な高血圧になることも予想されるのでfentanyl 200ug程度を併用。
・脳血管障害、頭蓋内病変の除外をされていないであろうから、頭蓋内圧を上昇させる薬剤は避ける。GOSにはしない。(AOS+レミフェンタニルまたは)プロポフォール+レミフェンタニル、ロクロニウムによる全静脈麻酔にて維持する。
・術中覚醒を避けるためにBISモニタリングを行う。(添付文書において、児娩出後のプロポフォールは禁忌とはなっていない。)
・肥満があるため、換気困難や挿管困難も考えられる。手元にネーザルエアウェイ、エアウェイスコープ、LMAを準備する。
子癇発作の際、硫酸マグネシウムを投与されていると思うので、筋弛緩薬が過量投与になりすぎないように注意する。人手があったり、自分に余裕ができれば筋弛緩モニターも併用する。
・胎児のApgar scoreが低い可能性があるので、蘇生できているか確認する。

@脊麻の場合
・高位spinalで著明な血圧低下が起こる可能性があるため0.5%hyperbaric bupivacaine1.6ml+fentanyl 10-20ug程度がよいのではないだろうか。低血圧予防の輸液負荷はPIHのために危険であろう。あまり低血圧予防効果もないとされている。

3)周術期管理
1.脊髄くも膜下麻酔後に血圧が著明に低下。考えられる原因を挙げる。
・PIHで全身の血管が収縮しているはずだが、脊麻の影響で血管抵抗が著明に低下した
・仰臥位低血圧症候群
・全または高位脊髄くも膜下麻酔
・アナフィラキシーショック(稀)
・子宮内や腹腔内での出血(稀だろう)
・偶発的な肺塞栓(稀だろう)

2.仰臥位低血圧症候群の病態と対処法について述べて下さい。
子宮により下大静脈が圧迫され静脈還流が減少するために生じる低血圧。
ベッドを左側にローテーションする、右腰下に枕を入れる、用手的に子宮を左に寄せる。

4)周術期危機管理
1.術前訪問時、患者に子癇発作が生じていました。どのように治療しますか。
・ナースコールを押して、人手および救急カートを集める。産科の病棟が手薄なら救急科医師等にも応援を依頼
・上記が来るまで、側臥位とし、気道確保と誤嚥防止、舌損傷防止に努める。
・バイタル測定, 酸素投与(必要ならば気道確保)、静脈路確保。
・硫酸マグネシウム(マグネゾール)1管(2g/20ml)を5分間かけて静注。必要ならば、もう1管。これで4g。 以降は、1-2g/時で持続静注する。
・児の状態および母体の状態を評価する。
・マグネシウムの血中濃度を測定する。
・硫酸マグネシウムだけでは痙攣コントロールが難しい場合、ジアゼパムやミダゾラム、バルビタール等の投与も考慮する。
・マイルドに降圧する
・産科の先生と急速遂娩の可否・タイミングについて話し合い、急速遂娩であれば、手術室に連絡し、準備にとりかかる。
・患者さんの家族を呼んでいるか確認
・児が32週なので呼吸管理が必要であろうからNICU担当医にも連絡が必要。もしこの病院にそのような設備がなければ、より高度な医療施設への搬送も考慮する必要があろう。

***
子癇前症ならともかく、3)-1で子癇に対して脊麻していてびっくりする設問である。こんな設問にも動揺しないような精神力も見られているのだろうか。
と思って調べたら下記の論文があった。
ちなみに…The reported incidence of further convulsions in women receiving magnesium sulfate is 5.7% to 13.2%. (Lancet 1995;345(8963):1455-63.)
子癇発作が落ち着いていても安心できない。
同論文では最終痙攣から19.3 ± 7 hrs後に脊麻をしている。
私がこの問題に当たったら全身麻酔と回答するだろうな…。

以下のサイトにお世話になりました。ありがとうございました。
・日本妊娠高血圧学会 ガイドライン
http://jsshp.umin.jp/i_7.html
・研麻抄「重症妊娠高血圧症の帝王切開に脊髄クモ膜下麻酔[anesthesiology]
http://vril.blog.so-net.ne.jp/2008-09-11-1

参考論文
・Spinal anesthesia for lower segment Cesarean section in patients with stable eclampsia. Journal of Clinical Anesthesia (2011) 23, 202–206

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