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2011年8月11日木曜日

(麻) 麻酔科専門医認定試験口頭試験2007年-症例7-子宮癌広汎子宮全摘術DVT肺塞栓

I先生からの寄稿を改訂して掲載いたしました。感謝。

@症例
・73歳女性。150cm、82kg
・子宮癌に対し広汎子宮全摘出術が予定
・高血圧がありCa拮抗薬を内服し、血圧は正常範囲内
・膝関節症と下腿の痛みと発赤あり、日頃からあまり運動はしない

1)術前評価と管理
1.術前状態における問題点を列挙。
・ 60歳以上の骨盤内悪性腫瘍に対する根治術予定
・ 肥満(3度) BMI 36.4
・ カルシウム拮抗薬内服にてコントロール良好な高血圧
・ 膝関節症による運動制限
・ 深部静脈血栓症を疑わせる所見(下腿の痛みと発赤)

2.術前にどのような検査を行うか。
ルーチンの検査(血算、生化学、凝固、感染症、心電図、胸部X−p、呼吸機能検査)以外に、DVTの診断:D-dimmer測定, 下肢静脈に対する超音波検査, 腹部造影CTでIVCや腸骨静脈の圧迫による血栓がないか見たい。
また、肥満で高血圧があるので、胸部までCTが撮影されていれば、冠動脈や大動脈の石灰化も見ておきたい。また、肥満なので、硬膜外腔までのおよその距離をCTで測定しておきたい。

2)麻酔法および術中管理
1.硬膜外麻酔を施行するとしたらどのような点に気をつけるか。
DVTを疑わせる所見があり、術前より抗凝固療法が行われていないかどうか確かめる。原疾患による凝固異常もないか留意。
また、術後の抗凝固療法の予定の有無を主治医に確認。硬膜外カテーテル挿入時だけでなく、抜去前後での抗凝固薬の中止が必要という情報を主治医が認識しているか確認する。

2.この患者の導入時の危険性について述べて下さい。
・肥満(3度)があるため、換気困難が予測される。換気困難時には低酸素血症発症の危険性が非肥満者より高くなる。
・舌や咽頭浮腫の可能性があり、挿管困難も予想される。
・高血圧があるため、血圧変動が大きいことが予想される。
・導入時だけではないが、PEのリスクあり。

3)周術期管理
1.導入後100%酸素でマスク換気を試みましたが困難。対処法について説明。
・まず落ち着いて、これからすべきことを頭の中で整理する。
・換気介助可能な人を呼ぶ。外科医でも手術室看護師でも上手に介助できる人であれば誰でも。
・経口エアウェイか経鼻エアウェイを挿入し、再度換気を試みる。
・1人での換気が困難な場合、2人法を試みる。
@既に筋弛緩薬が投与されていたら…LMAやi-Gelが手元に準備されていなければ取りに行ってもらう。DAMカートがあればなおよい。また、普段からミニトラック等の取扱いに慣れている医師(自分がそうならば、一番良いのだが…)が思い当ればその医師を呼んでもらう。
それとともに挿管を試みる。1度喉頭展開して無理もしくは一度AWSを使用して無理ならば、深追いしない。声門の浮腫が強くなると、覚醒させたときに患者さんが自力で呼吸することもできなくなるためである。挿管が無理ならば、周りにいてかつ手が空いていて、かつ冷静に薬液をシリンジに吸えそうな人を指名してスガマデクス16mg/kg(80×16=1280mg)「20mlのシリンジにブリディオン6バイアル吸ってください」と相手が勘違いしないようにきちんと指示して吸ってもらう。その後投与し、自発呼吸を再開させ、覚醒させる。
@筋弛緩が投与されていなかったら(換気ができることを確認してから筋弛緩を投与するという、お作法をきちんと守っていたならば)
・患者を一度覚醒させ、自発呼吸温存下に経鼻ファイバー挿管に切り替える。

2.術中ETCO2の急激な低下とSpO2の低下あり。何を疑うか。その場合、他にどのような症状が現れるか。どのような対応をするか。
・第1に肺塞栓症を疑う
・症状:血圧低下、心電図変化(下記)、心停止
・対応:まず緊急事態であることを宣言し、人を集める。PCPSが挿入できるように心臓外科医や臨床工学技士を呼ぶ。同時に100%酸素投与、気道内圧が高ければ少し低めになるよう設定。術者に手術を一時中断してもらい心臓マッサージを依頼、PCPSの準備ができるまで頑張ってもらう。麻酔科医はアドレナリン等の昇圧剤を使用。人手に余裕があれば、TEEを持ってきてもらう。massive PEなら直接見えるだろうし、そうでなくても右心不全所見はとれるだろう。
治療はヘパリンを5000-10000単位投与したいが、術野の出血コントロールの程度との相談。カテーテルインターベンションか外科的血栓摘除になるだろうが、これらは様々な人的制限がない状態での理想的な治療オプションとなるだろう。

*心電図変化
・sinus tachycardia and atrial arrhythmias in 83% of patients with a confirmed diagnosis of PE; atrial arrhythmias, in particular, were associated with a higher mortality rate.
・ST-T変化
・右脚ブロック、T波陰転

*心エコー所見
Echocardiographic findings associated with pulmonary embolism
・RV/LV end-diastolic diameter ratio > 0.7
・RV/LV area ratio > 0.66
・RV end-diastolic diameter > 27 mm
・“McConnell sign” (右室自由壁運動低下で心尖部は正常か過剰運動…という所見)
・Septal shift
・Tricuspid regurgitation > 270 cm/sec

上記はいずれも「J Clin Anesth. 2011 Mar;23(2):153-65.」より引用


 4)術後管理
1.術後深部静脈血栓形成の予防方法について述べて下さい。
・早期離床、積極的な運動
・弾性ストッキング
・術後出血のコントロールがついた時点で、抗凝固療法(未分画ヘパリンとワルファリン)開始。腹部手術なので、低分子量ヘパリン(エノキサパリン)やフォンダパリヌクスも選択肢として挙げられる。
・本症例については、既に血栓が存在する可能性が高いため、間欠的空気圧迫法は避けるか、血栓がないことを確認してから行うべきと考えられる。
・DVTがあることが分かっていれば、血栓が溶解するまで抗凝固療法を行い手術を延期するか、どうしても手術をしなくてはならない場合は循環器内科コンサルトにて下大静脈フィルターの適応を検討すべき症例だと思われる。
・また、下肢の症状がDVT、PEによるものであればPEの最高リスクであろうし、もしDVTでなくただの蜂窩織炎等であり術中の症状もPEによるものでなければ高リスク症例であろうから、予防法が変わってくるであろう。

本記事の記載にあたり、以下のサイトや文献にお世話になりました。
・肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/index.htm
・術中閉腹時心静止から救命できた肺塞栓症の1例. 日臨麻会誌 Vol. 27 (2007) , No. 1 71-76
・肝細胞癌切除手術中に肺塞栓を合併しショックとなった2例. 蘇生 25巻1号 Page23-27(2006.03)
・両下肢骨折の観血的整復術中に急性肺血栓塞栓症を生じた1症例. 麻酔 53巻9号 Page1051-1056(2004.09)
・Perioperative pulmonary embolism: diagnosis and anesthetic management. J Clin Anesth. 2011 Mar;23(2):153-65.
・旅行中の大腿骨骨折に対するギプス固定後,手術中に肺血栓塞栓症を発症した1症例. 日臨麻会誌23巻3号 Page62-65(2003.04)
・周術期肺血栓塞栓症対策マニュアル(横浜市大病院)
http://www.fukuhp.yokohama-cu.ac.jp/about_hospital/approach/pdf/thrombosis_manual.pdf
・肺塞栓症; 肺塞栓症を見つけたら麻酔科的対策は? 日臨麻会誌 Vol. 28 (2008) , No. 1 62-68
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/28/1/28_62/_article/-char/ja

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

訂正を加えてくださり、ありがとうございました。
フリーな回答となると、それぞれの性格が文章の中にでますね。面白いです。
今日、頸椎のオペのときに、脊椎班の先生たちにRAの環軸椎亜脱臼について聞いてみました。挿管は、普通でいいでしょ〜。それじゃ駄目なの?とのことでした。頸椎症の場合は後屈すると悪化する可能性があるけど、環軸椎亜脱臼は前屈は不可だけど後屈は問題なしなんですって。「普通通り、挿管します!(きっぱり!!)」って答えづらいな・・・。試問の意図を汲み取ってないし・・・。
あと、しっかり頭部を固定したいので、通常はピン固定となるそうです。腹臥位の注意点、、、これも試問の意図を汲み取りたいんですけど・・・。

fragilemetalheart さんのコメント...

>匿名先生
コメントありがとうございます。
それなりに真剣に口頭試問の過去問に対峙してみると、設問が苦しい(作成者が大変なんだろうな、と推察されるもの)ものが結構ありますね。
なので、どう答えるにせよ、その回答の根拠として、何かしらの麻酔科学的EBMを提示できることが大事になるのではないかと思います。
今後ともお知恵を拝借できれば幸いです。