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2011年8月9日火曜日

(麻) 麻酔科専門医認定試験口頭試問2007-症例8-関節リウマチ環軸椎亜脱臼

I先生に寄稿していただきました。
適宜改変しておりますが、回答の1つの案としてご利用ください。


@症例
・74歳女性。155cm、 45kg。
・RAによる頚椎環軸椎亜脱臼に環軸椎後方固定術が予定
・ステロイドを10年前から服用、現在はプレドニゾロン15mg/日内服


1)術前評価と管理
1.全身状態(ステロイド以外)の術前評価で注意する点
・関節病変,骨:術中体位に問題はないか、麻酔導入前に体位のチェックを患者さんとともにする。長期ステロイドで易骨折性、皮膚脆弱性注意。
・開口制限の有無
・頸椎の可動域と症状について
・肺病変:間質性肺炎の有無、胸水の有無、呼吸機能
・心血管病変:狭心症や脳梗塞の既往、心膜炎の有無
・眼病変:シェーグレン症候群を併発していないか?
・消化管病変:NSAID潰瘍の有無
・腎病変:金製剤によるアミロイドーシスの有無
・経鼻挿管の可能性もあるので、易出血性の有無や鼻腔の観察
・ステロイドによる糖尿病の有無
・その他の内服薬の確認
 ・他の膠原病の合併


2.ステロイドカバーについて述べてください。
通常、副腎はコルチゾール20mg/day程度を生理的分泌しており、ストレス時には200mg-300mgのコルチゾールを分泌する。しかし、長期ステロイド内服患者においては、副腎の機能が低下しているため、ストレス時にコルチゾールの補充を自ら行えない。本患者のPSL15mg/dayは、コルチゾール60mg/dayに当たり生理的分泌量を超えており、10年間内服しているため、副腎機能低下が充分に考えられる。そのため、急性副腎不全のリスクを考え、補充投与をするのが、ステロイドカバー。しかし、補充しなくてはいけないというエビデンスはなく、慣習的に行っているのが現状で、定まった補充量はない。

一般的に行われているのは、
・小手術:通常内服量のみ。カバーなし。
・中手術:通常内服。術前にハイドロコルチゾン50mg, 8h毎に25mg。翌日からは通常通り。
・大手術:通常内服。術前にハイドロコルチゾン100mg, 8h毎に50mg。
 POD1 8h毎に25mg、POD2 12h毎に25mg、POD3 25mg1回、POD4〜 通常通り
本症例は、中手術と考えられる。


2)麻酔法および術中管理
1.挿管方法について
・下記のいずれにせよ、熟練した麻酔科医がいれば、頸椎に過剰な負担がかからないよう導入の補助を依頼する。
・開口が十分でき、かつ、頸椎の可動域に余裕がありそうで、かつ、マスク換気危険因子がなければ全身麻酔導入後に、頸椎を中間位に保ったままエアウェイスコープで挿管する。
・それ以外の場合には、自発呼吸温存下経鼻挿管とする。フェンタニル25-50μgずつ分割投与、必要に応じてミダゾラムを0.5mg-1.0mgずつ分割投与。ぼぉっとしてきたら、挿管時の激しい咳嗽を避けるため、輪状甲状間膜から4%リドカインで喉頭に麻酔を予め施行。その後鼻腔を消毒しリドカイン+アドレナリン(フェニレフリン)を使用したのち、ID6.0mm程度の気管チューブを挿入。10cmちょっと進めたところで気管支ファイバーを進めていき、声門を通過し、気管分岐部を同定したところで、チューブを優しく進める。披裂軟骨部で抵抗があるようならば無理をしてはならない。チューブが気管内に挿入された後、プロポフォール等を投与して眠っていただく。


2.腹臥位にした時に起こりえる合併症について述べて下さい。
・体位変換時の頸椎症増悪
・4点支持器等による皮膚傷害
・神経障害(視神経障害、眼窩上神経、尺骨神経障害、総腓骨神経障害、外側大腿皮神経障害 48B36)
・呼吸:胸郭の動きが制限され,また腹圧もかかるため,気道内圧が上昇しやすい.体位変換後に気管支挿管状態になっていないかも注意


・挿管チューブの屈曲や圧迫、誤抜去、歯牙損傷
・上気道浮腫:頭低位、頸椎屈曲位、長時間手術、輸液過多などによる?


3)術後疼痛管理
1.術後鎮痛はどのように行いますか。
フェンタニルによるIV-PCA、25-50μg/hrにて。酸素を持続投与して経皮的酸素飽和度をモニタリングする。
もし腎機能等に問題がなければNSAIDsを併用する。



4)周術期危機管理
1. 術後、病棟で循環不全.考えられる原因を列挙。
・循環血液量不足(術中の輸液不足や、術後の創からの出血)
・急性副腎不全
・心筋梗塞や狭心症、輸液過多による心不全
・術後使用薬剤によるアナフィラキシーショック
・術前に見つかっていなかった下肢静脈血栓の遊離による肺塞栓
 その他


2. 急性副腎不全について説明
急激な副腎皮質ホルモンの絶対的または相対的な不足状態。本症例の場合は術前のステロイド長期投与による可能性が高い。
症状:激しい腹痛、高熱または低体温、低血圧、悪心、嘔吐
検査所見:低Na, 高K, 低血糖、好酸球増多
処置:血中ホルモン測定の採血を行った後、ハイドロコルチゾン投与。昇圧剤、酸素投与、輸液、電解質と血糖補正。


参考文献
・頚椎手術時の気管挿管
http://www.maruishi-pharm.co.jp/med/libraries_ane/anet/pdf/33/33work.pdf
・日本臨床麻酔学会誌 Vol. 31 (2011) , No. 1 150-156
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/31/1/31_150/_article/-char/ja
その他