このブログを検索

2011年8月18日木曜日

(麻) 麻酔科専門医認定試験口答試験-2007年症例7-喘息患者の橈骨抜釘術

こちらもI先生からいただいたものを加筆したものです。

症例
・56歳男性。178cm、55kg
・左橈骨骨折術後の抜釘術
・小児期から気管支喘息があり、一年に数回、特に季節の変わり目に喘息発作が起こる。1ヶ月前にも発作が起こり、ステロイド吸入と気管支拡張薬の吸入療法を受けた。

1)術前評価
1.術前回診で必要な問診と検査について述べて下さい。
問診)
・現在、調子の良い時期か悪い時期か?分泌量はどうか?
・コントローラーは何を使用しているか?きちんと定期的にコントローラーを使用しているか?
・特にテオフィリン内服患者においては、血中濃度確認。
・レリーバーは何を使用しているか?最終発作とそのときの治療。
・ステロイドの内服歴は?
・喫煙の有無・ アスピリン喘息の可能性は?
・薬剤アレルギーの有無

検査)聴診、胸部レントゲン、スパイログラム

*もし調子の悪い時期であれば、緊急手術ではないので、喘息の状態が改善するまで手術を延期することも患者さんや主治医と相談してよいと考える。

2)麻酔法および術中管理
1.この症例で選択する麻酔方法について理由を付けて説明。
・腕神経叢ブロック。喘息があるので、気道に刺激を与えたくないから。

2.この症例を腕神経叢ブロックで行う場合どのようなアプローチがあるか。選んだアプローチの利点と合併症を挙げる。
斜角筋間アプローチ、鎖骨上アプローチ、鎖骨下アプローチ、腋窩アプローチ
私なら・・・、鎖骨下アプローチ(超音波ガイド下、神経刺激装置併用)で、カテーテルを挿入する。
利点:斜角筋間アプローチや鎖骨上アプローチのような横隔神経麻痺やホルネル症候群が非常に稀。気胸の危険性はあるが、鎖骨上アプローチよりも頻度が少ない。カテーテル挿入位置が感染しにくく、見えやすく、固定性もよく、管理がしやすい。
合併症:気胸、血管損傷、神経損傷、局所麻酔薬中毒、感染、腫脹

3.この症例を全身麻酔で行うとすればどのような麻酔管理をおこなうか。
・気管挿管下にセボフルランとレミフェンタニルで行う。挿管前にセボフルラン濃度をしっかり高くし、レミフェンタニルの血中濃度が十分高くなるようにする。手術侵襲を考えるとLMAやi-Gelでもよいだろうが、術中に喉頭痙攣や重度の喘息発作が起こった時に換気ができなくなる可能性があるため、初めから気管内挿管で行う。
・術中、浅麻酔にならないように十分気を付ける。抜管は、深麻酔下またはしっかりと覚醒させてから行う。深麻酔のうちに、気管内吸引を行なっておく。
・手元にβ刺激薬を準備しておき、術中呼吸回路から使用できるように準備しておく。
・テオフィリンとステロイドを手元に準備しておく。

4.術後鎮痛は。
・腕神経叢ブロックなら…鎖骨下アプローチで後神経束近くにカテーテルを挿入。0.2%ロピバカイン4-6ml/hrを持続投与する。
・全身麻酔なら…アスピリン喘息ならNSAIDsは使用しない。抜釘ならペンタゾシンとアセトアミノフェンの併用で乗り切れるのではないだろうか。

3)周術期危機管理
1.術中に突然SpO2が90%以下に低下。どのように対処するか。
・術者に異常事態であることを告げ、外回り看護師に、他の上級麻酔科医(いれば)を呼んでもらう。
・酸素100%にし、麻酔回路と気管チューブ(もしくはLMA等)が接続されているか確認する。
・パルスオキシメータが患者さんの指にきちんと装着されていることを確認しつつ、換気を手動に替えバッグの重さを触診。聴診してwheezeが聴こえないか確認する。
・テオフィリンやアドレナリンやステロイドやサルブタモール等が手元になければ持ってきてもらう(救急カートにあればカートごと)。血圧がどの程度かも確認する。
・以上の対処をしつつ、麻酔機のトラブル、喘息発作、分泌物による閉塞、気胸、肺塞栓を鑑別する。
・喘息発作が最も疑わしければ、セボフルランを深くし、深くなってから、気管内吸引をする。
β2刺激薬の吸入を行う。アミノフィリン250mgを生食100mlに溶解し、半量を15分で、残りを45分かけて、持続静注する。ただし、もともとテオフィリンを内服しており血中濃度が8μg/mlの場合は、その半量とする。アスピリン喘息でなければ、ヒドロコルチゾン200mgを持続静注。それでも改善しなければアドレナリン1/3A程度を皮下注。

*喘息発作だと思っていても、アナフィラキシーの症状として出ている可能性があることを忘れない方がよいでしょう。覆布の下の患者さんの体に発赤がないか…をチェックするのって焦っていると忘れてしまいがちになる。

参考web
・麻酔と救急のために
http://www.msanuki.com/m/index.php?%E5%96%98%E6%81%AF%E6%B2%BB%E7%99%82%E5%89%A4
・リウマチ・アレルギー情報センター 成人気管支喘息ガイドライン
http://www.allergy.go.jp/allergy/guideline/02/contents_04.html#8
・慶應義塾大学医学部麻酔学教室 術中喘息発作の治療ガイドライン
http://www.keio-anesthesiology.jp/clinical/m09.html