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2010年4月20日火曜日

神経発達期ラットへの吸入麻酔薬曝露

Volatile Anesthetics Rapidly Increase Dendritic Spine Density in the Rat Medial Prefrontal Cortex during Synaptogenesis. Anesthesiology 2010; 112:546 –56

背景:麻酔薬によって脳発達期のシナプス形成は阻害される。大脳皮質のシナプス形成発達時期である生後16日のラットを使用し、吸入麻酔薬の曝露時間によって神経細胞骨格(cytoarchitecture)が受ける影響を調査した。
方法:生後16日ラットにイソフルラン(1.5%)、セボフルラン(2.5%)、デスフルラン(7%)で30,60,120分間の曝露。麻酔導入後6時間後の内側前頭前皮質の第5層錐体細胞を取り出し、神経細胞骨格を評価。細胞死の有無はfluoro-Jade B染色とTUNNEL法で評価。神経細胞をNeurolucidaソフトウェアを使用して3D再構築を行い、細胞の 樹状突起を顕微鏡で観察した。
結果:同モデルでは2時間までの曝露ではどの吸入麻酔薬も神経細胞死や樹状構造の変化は見られなかった。一方で樹状突起の密度は上昇した。重要なこととして、薬剤と曝露時間によって樹状突起の密度にかなりの差が認められた。
結論:吸入麻酔薬は神経新生に対し、数時間以内の曝露でも影響を及ぼす。大脳皮質発達における正確な神経回路構築を傷害する。

ラットでは恐らく生後10日頃までが麻酔薬によるアポトーシスが起こりうる非常に重要な時期である。その後生後1ヶ月頃まではシナプス形成は活発ではあるが、その時期に麻酔薬が神経細胞骨格に与える影響は未だ解決されていない。

今回のラットの結果をヒトに当てはめるのは難しい。生後7日のラットはヒトでは妊娠32-36週に相当するとも17-20週程度とも報告されている。最近の研究では吸入麻酔薬による細胞死誘導効果はラットでは生後5-7日がピークとされる。生後16日ラットはヒトではおそらく生後数年間に相当するのではないか。と著者らは述べている。
 
この結果を受けて子供に吸入麻酔薬を使わないほうがいい、とはならないだろうが、ヒトにおいても恐らく何らかの影響を与えているだろう。