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2010年4月24日土曜日

(麻) 全身麻酔抜管後の嗄声に関する知識

術後嗄声の知識を整理しておこうと思い記す
・術後発生頻度は10-55%程度。報告によって差がある
・呼吸困難感の有無を確認。ある場合はSpO2モニタ。神経麻痺を念頭に置き速やかに対応。FOBで声帯の動きを観察。専門医への診察依頼
・まずは術操作に関連があるか確認。術操作の場合は難治性
・術後の反回神経麻痺は圧迫を受けやすい左側が多い
・体位による圧迫が原因のこともある
・反回神経は切れてない場合、圧迫麻痺では数カ月後自然治癒する可能性が高い、はやい場合なら1ヶ月以内に治癒することもある
・披裂軟骨脱臼は、治療開始が遅れるにつれ、輪状披裂関節に強直化が発生し整復困難となるため、治療開始時期が発声状態の予後を左右。発症10週まででは発声状態が改善する(麻酔科診療プラクティス17 麻酔科トラブルシューティング 文光堂. p300, 2005より)

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UpToDate 「Endotracheal tube management and complications」によると
・声帯麻痺は数日から数ヶ月で回復する。一般的には声門下喉頭で気管チューブカフと甲状軟骨部部位において反回神経の前枝が圧迫されることで生じる。大きいサイズの気管チューブや多すぎるカフを避ける、気管チューブを動かさない、等で予防できるかもしれない。(Risk factors associated with prolonged intubation and laryngeal injury.Otolaryngol Head Neck Surg 1994 Oct;111(4):453-9.)
・カフ圧はエアリークを防ぐため18mmHg以上、粘膜壊死を避けるため25mmHg以下にすべきである。

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阪大の先生方が報告した3093件の前向き研究「Prolonged hoarseness and arytenoid cartilage dislocation after tracheal intubation. Br J Anaesth. 2009 Sep;103(3):452-5」によると
方法
・対象はASA-PS1-2の手術室で抜管した患者18-77歳計3097名。
・チューブサイズは男8.0、女7.5mmで統一し、聴診でリークがなくなるまでカフを膨らませる
・嗄声の評価判定基準:術当日、1,3,7日後に患者と面接。患者の訴えがなくなり、評価した麻酔科レジデントが完全に回復したと判定した時点で回復と判定
・7日を超えて嗄声が続く場合は耳鼻咽喉科専門医により声帯を観察してもらう
結果
・0,1,3,7日後の嗄声率は49, 29, 11, 0.8%
・7日後の嗄声者25人のうちfollowできた18人の内訳
・3人は披裂軟骨脱臼(arytenoid cartilage dislocation)(発症率0.097%)で、全員外科治療で回復(68,144,177日後に回復)
・4人は声帯麻痺。3人は長期観察(35-121日)後に回復、1人は3年後も回復しなかった
・7人は病的変化なく2週間以内に回復した
・2人は手術による反回神経麻痺のため回復せず
・2人は声帯浮腫あり、26,97日後にそれぞれ回復
重回帰分析では嗄声期間延長に関与したものは
・有意:年齢と挿管期間
・有意ではない:性別、体重、Cormack grade、使用全身麻酔薬(笑気、セボフルラン、イソフルラン、プロポフォール)
考察
・過去の報告では女性の方が術後咽頭痛、嗄声が多いとされていた。今回それに当てはまらなかったのは女性で細いチューブを使ったためかもしれない
・披裂軟骨脱臼は過去のretrospective studyでは13698人中4人(0.029%)だった。正確な発生頻度の把握にはより大規模な前向き研究が必要だろう

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そういえば先日の抄読会でラリンジアルマスクのカフ圧に関する論文が取り上げられていた。
Use of Manometry for Laryngeal Mask Airway Reduces Postoperative Pharyngolaryngeal Adverse Events: A Prospective, Randomized Trial. Anesthesiology. March 2010 - Volume 112 - Issue 3 - pp 652-657

・LMA classicによる合併症調査
・200人での前向き無作為二重盲検
・麻酔はPRFとfentanyl導入。desflurane維持、自発呼吸下。笑気は使用しない。
・・咽頭痛、嚥下困難、発声困難は13.4% VS 45.6%でカフ圧を40-44mmHgに調節した群で有意に低かった。調節しない群でのカフ圧はは114mmHg程度と高かった。
・満足度のVASは両群で有意差無し
・著者らはカフ圧計の使用を推奨している

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「これでわかった!図解ラリンジアルマスク. 克誠堂出版 2009.」によると
・ LMAでカフを入れすぎないように注意。サイズ3,4,5は15ml注入を基本とし、必要なら5ml追加。それぞれのLMAに記載されている20ml,30ml,40mlは最大量であり、適切な注入量ではない。
・LMAのまれな合併症として長期の神経麻痺や声帯麻痺が報告されている

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まとめると重要なことは以下の2点だろう。
・術前の患者さんへの説明と発生時のfollow up。
・漫然と気道管理を行わない

英単語
elucidate: 解明する、説明する