といってもThe Beatlesと、今回の記事は全く関係ない。
私は音楽は好きだ。だが、自分の手術技術が標準に達していない(であろう)状態の術者が「何か音楽お願いします」と、外回り看護師さんにお願いするような場に居合わせたくない。術者にはゾーン(超集中状態)に入っていただきたいと、全く身勝手ながら思っている。上手くて早ければいくらでも何でも聴いていただいて構わない。だが、「さとうきび畑」が流れていても、「Phobophile」が流れていても、耳に入らないくらい集中してもらいたいのである。
手術は1分でも1秒でも早く終わった方がいいに決まっている。麻酔導入後、いつまでたっても手術が始まらないなど言語道断である。(私はいいけど、いやよくないけど、無駄に麻酔薬を使用される患者さんの身になっていただきたい、と偽善者ぶってみる)
それはそうと「手術がいつまでも続かないかな~」と願ってしまうときがある。
術中の血圧変動が激しいときだ。血圧が高めで続くのならばよい。もともと高血圧+糖尿病+慢性腎機能障害の患者さんならば血圧は高めの方が安心。
だが、硬膜外麻酔+remifentanilで鎮痛を図っているにも拘らず、皮切から腹膜切開にかけて血圧がぐんぐん上がっていき、侵襲が落ち着くと安定し、切開をちょっと広げるとそれに伴い血圧が上昇し、侵襲が落ち着くとまた一定の状態に落ち着き、腹腔内洗浄時にまた上がり、腹膜縫合時にまたぐんぐん上がり、というような状態である。私はよっぽどのことがない限り、硬膜外カテーテルを挿入した後、カテーテル挿入部位を中心に冷覚低下が見られるかを確認(所謂コールドテスト)することにしている。そのテストで、冷覚低下が、侵襲がおよぶ予定の範囲に見られているにも拘らず、上記のようなバイタル変動が起こるのである。しかもremifentanilを0.3-0.5γ程度併用しているにも拘らず、である。
このような場合、患者さんの瞳孔が縮瞳しているのを何回も確認し、血糖値もいつもよりこまめにチェックして、浅麻酔のせいで高血糖になっていないかをしつこく確認する。そして痛いのかよ~あ~あ週1しか麻酔してないから罰があたったのか、とか、未治療の褐色細胞腫か?、とか、もしかしてアルチバにケタミンが混入されてるのか?、とか、カテ先は皮下組織か?だったら「コールドテストはOKだったが、実は効いていなかった硬膜外麻酔の1例」で症例発表しようか、できるわけねーよ、とか、buckingしませんように、そうだいつもよりちょっと筋弛緩を多めにしとこう、とか、患者さんが目を覚ました後に痛がったらどう言い訳しよう、あぁこの外科医たちと仕事するの初めてだよ患者さんが痛がって暴れたら気まずいなー術中も愛想よく振舞っておくか~ラポールは大事だ大事、でもあと数時間でラポールを築いてもぶち壊れるんだろうけど、とか、硬膜外が駄目ならiv-PCAにするか、でも硬膜外カテーテル入ってるしポプスカインにフェンタニル混ぜちゃったよiv-PCAにするとしてもどんだけフェンタニル入れるんだよ、「エピ(硬膜外麻酔のこと)の効きがいまいちですね~」とかいってフェンタニルをちょっと静注して落ち着いたらあとは病棟に丸投げするかとか、あぁでも上腹部切開だし痛かったら絶対SpO2下がるよな、とか、大量出血して大量輸血するような超長時間手術になって「麻酔の先生、すいません本当にご迷惑かけて」なんて言われながら、「じゃぁ一晩様子見ましょう」としれっと言って抜管せずにICUへGo!、って話にならないかなーとか、本当に麻酔科医としてお天道様に顔向けできないような妄想ばかりが頭の中にぐるぐるまわるのである。
だが手術が終われば麻酔から覚醒させるしかない。恐る恐る(勿論remifentanilは切らずに0.05γ流しながら)麻酔から患者さんを起こすと、患者さんは目をぱちくりさせてけろっとしている。抜管基準を全て完璧に満たしているので、術後のレントゲン撮影の5分後には抜管できてしまうのである。
ん?おかしくないか?なんで痛がらないんだよー!?
Remifentanilが残ってるせいか?と思っても、ベッド移動の体位変換でも顔をゆがめない。10分、15分,
20分見ても。しっかり深呼吸できるのである。
痛がらないなんておかしいだろ、なんであんなに侵襲に応じて血圧上がってたんだよ、とカテコールアミンが過剰に分泌していたのは自分だけだったのか、と腹立たしいやら何やら。
本当に血圧の変動だけでは痛みがあるのかないのかわからない。
ということが、毎日の麻酔の中ならば、その衝撃も希釈されるのだが、週1回程度の麻酔で、毎週あったらたまらない。