大傑作だった前作"Mabool"から気がついたら既に6年経過。
キャッチーで疾走感溢れる"#1 Sapari"で開演するバンド4作目のアルバムである。メジャー感が増したのはプロダクションのみで、コビ・ファーヒのヴォーカルが聞こえてくればそれはもうOrphaned Landの世界以外の何物でもない。ギター、サズやカンバス、シャントゥール、アラビアンフルート、ブーズキー、ヴァイオリン、その他使われている楽器全てに彼ららしさが刻み込まれており、全く変わらない唯一無二の個性で安心させてくれる。
いやしかし、本当に凄い作品である。詩の描く世界は全く違うが、映画「パッション」でイエスが十字を担いでゴルゴダの丘をのぼらされているシーンの、あの埃くささがアルバムの音像から伝わってくるようなのは彼らがイスラエルのバンドだからというのと無縁ではないのかもしれない。中東のプログレッシブメタルバンドと評されているようだが、メタルという範疇には収まらない叙情性と「音だけで景色が浮かんでくるような」世界観を作り出す力にはただただ驚嘆するだけである。メタルというだけで聞かれないのだとしたらこんなにもったいない作品はない。
アルバムのハイライトは"#7 Warrior"の後半で聞かれるような官能的なギターや、Blackmore's Nightのようなイントロからコーラス部で大仰に歌い上げるバラード"#10 New Jerusalem"やOpeth的ダーク&ゴシックな色合いが印象的な"#12 MI?"のようなスローサイドの楽曲群であろう。
不満を言えばランニングのときのBGMには向かなそうなところだろうか。runner's highでエンドルフィンがたくさん出ているような状態で聴けばとても気持ちよさそうである。青空の下でのドライブのBGMに向かないであろう事は言うまでもない。