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2011年5月22日日曜日

(麻) TRALI(輸血関連急性肺傷害, transfusion-related acute lung injury)

・1951年Barnardらにより,輸血関連の非心原性肺浮腫として報告される。
・1983年Popovskyらによって現在のTRALIと命名された.
・死亡率は6-10%
・輸血関連死亡の上位を占める(多くの死亡例はFFPで報告されている)
・診断は下記を全て満たすもの(除外診断的要素が強い)

TRALI の臨床的診断基準
TRALI の定義(European Haemovigilance Network:EHN)(下記文献1)
・急性呼吸障害
・両側肺浸潤像(胸部X 線検査)
・輸血後6 時間以内の発症
・輸血による循環過負荷は否定
TRALI Consensus Conference Committee in Toronto(2004)による追加事項 (下記文献2)
・低酸素症(PaO2 / FiO2<300またはSat O2<90%または他の臨床症状)
・新たな急性肺障害(acute lung injury, ALI)であり,誤嚥,複雑外傷,肺炎,心肺バイパス,熱傷,毒ガス吸引,肺打撲,急性膵炎,薬物過剰投与,溺水,ショック状態,敗血症など,ALI の他の危険因子が存在しないこと
・ALI の危険因子が存在する場合,TRALI(疑い,possible TRALI)と診断すべきである

(1)European Haemovigilance Network(EHN):Definition of adverse transfusion events.(Available from http://www.ehn-org.net)
(2)Kleinmann S, Caulfield T, Chan P, et al.:Towards an understanding of transfusion-related acute lung injury:Statement of a consensus panel. Transfusion 44:1774-1789, 2004


・多くは1-2時間で発症
・多くの症例(約81%)でX線による肺水腫像も96時間以内に消失する
・特に新鮮凍結血漿と血小板製剤輸血時に多い


頻度
・免疫学的機序TRALI:輸血5,000単位に対して1症例,輸血625症例に対して1症例程度)
・非免疫学的機序TRALI:血球含有製剤(赤血球濃厚液や血小板製剤など)で1症例/1,120 輸血,血小板製剤は1症例/453輸血,赤血球製剤1症例/4,410輸血


鑑別診断
1.輸血関連循環過負荷(transfusionassociated circulatory overload:TACO)
2.心原性浮腫
3.輸血によるアレルギー性反応・アナフィラキシーショック
4.細菌汚染製剤の輸血(1-2時間以内に発症。)
・循環過負荷による肺水腫とTRALI を鑑別する場合,TRALI症例ではCVPおよびPCWPが正常
・.細菌汚染製剤の輸血では,発熱,血圧低下などを初症状とすることが多く,特に室温(22℃)保存する血小板製剤を輸血する際に注意が必要

治療:早期に確定診断し,迅速に対処。呼吸困難の程度に応じた呼吸管理.必要に応じて挿管,人工呼吸を考慮.BNPは通常上昇しない(BNP↑ならTACOかも)
Popovskyらが報告した36症例では,全例呼吸管理を必要とし,26症例(72%)は人工呼吸管理を必要とした.利尿薬やステロイドの有効性は疑問視されている.微小循環内皮細胞傷害が病態の根幹であるため,循環負荷によって改善する

出典:Anesthesia 21 Century Vol.10 No.2-31 2008
出題:47C31-32

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輸血はこれまでひじょ~に多く使ったが、「こりゃTRALIだ!」っていう場面に遭遇したことないなぁ。輸血5000単位に1例あるなら、1つくらい見ていてもよさそうなものだけど。