このブログを検索

2011年5月3日火曜日

(映) ナイン / NINE (2009年) ☆☆☆、どうとでも書ける筈なのだが


家の郵便受けには、よくチラシが入ってくる。
中でも1番多いのが、「粗大ゴミ、片付けます」という内容のものだ。
いつもろくに目を通さずに捨ててしまうのだが、今日、ふと見てみるとこう書いてあった。

正社員だから清潔で明るくサービスも最高です!!

派遣社員の人やアルバイトで生計を立てている人たちの存在を、マンモスの足で踏み潰すかのような文言である。
このような文章を、お金をかけて大量にチラシとして印刷し、不特定多数の人に配る人の神経が、私には簡単に理解できない。何よりも、ここで働く”正社員”を不幸にする言葉である。このような文章が会社の売り上げの何%かを消費して作られる広告に載せられることを、私ならば到底容認できない(何だか昨日と同じようなことを書いている)。
この文章を書いた人と採用した人がどのような思想・信念の持ち主かについては関心はないが、上の文字だけから判断するに、この会社は
「アルバイト社員は不潔で暗くサービスも最悪です」と言外に示している可能性があるということは、小学生でもいいそうなことである。

と、私が書くこの文章も、人知れず誰かを不幸にしているに違いない。

***
いきなり話がそれてしまったが、久しぶりの映画ネタ。
DVDのパッケージを目にするたびに、あのサングラス男をずっとニコラスケイジだと思っていた。
実はダニエル・デイ=ルイス(Daniel Day-Lewis)だったのね。いつの間にか54歳。彼を見るのはさっぱり楽しめなかった「There will be blood」以来だが、今回はこれまでの彼の演じてきたキャラクターに比べ、随分と軟派な役で登場である(どうしても「父の祈りを」や「ラストオブモヒカン」の頃の記憶が残ってしまう)。もしこの役をニコラス・ケイジが演じていたら、非常に軽い仕上がりになっていただろう。
あらすじはwikipediaを見ればよいとして、本作は豪華絢爛、妖艶(を狙っているのかもしれないが、何故だかエロティックに感じられない。女性たちの肌の露出は極めて多いのだが)、要所要所を歌で締めていくミュージカル。
浮気性の夫役ダニエル・デイ=ルイスと妻役マリオン・コティヤールが、夫の浮気が原因で劇中に徐々に険悪になっていくのはよいが、「そうなる前のラブラブだった頃の蜜月期」があまり描写されていないため、ダニエルに感情移入がしにくい。「仕事ばっかりしてる」というのも妻の心が離れていく主因のようだが、映画を見る限りではそこまで「仕事にのめりこんでいる」という様子も伺えない。ダニエルが演じる主演の監督の幼少期の頃の映像を白黒で劇中にはさむのはよいのだけれど、それが効果的に使用されているようにも思えない(わざとわかりにくくしているのが目的であれば成功しているのだろうが)。
 と、ストーリーの方に気が向いてしまうのは、何より音楽にのめりこめなかったせいだろう。「Be Italian」以外は、「今の」私の心に入ってくるものがなく、消化不良。かつて大ヒット映画を量産したが、創造の枯渇に陥った映画監督の苦悩、という題材にしては、アカデミー賞クラスの豪華女優陣も、非常に勿体無い使われ方のようで、彼/彼女らのギャラばかりが嵩んでしまったのではないかと同情してしまう。
この映画の元ネタといわれ、一般的に名作と言われている「8 1/2」を見ればまた違った見方でこの映画に向き合えたのかもしれないが、鑑賞後の爽快感もなければ、心に染み入るいい話でもない。映画の主演と同様に、本作品の監督も、想像の枯渇に陥っているのだろうか。(こんな結論、誰でも言いそうだ。私の文字から想像される、「私自身の想像力」も大分枯渇しているのだろう)。