これまでは、年間400件弱の麻酔が自分のテリトリだったが、リスクマネージャになってからというもの、数千件/年の麻酔科管理の麻酔が自分の身に災厄の降りかかるテリトリとなった。
脊髄反射でやってても、疲れ果てていても間違えちゃいけないことってある。間違えると首がとぶような行為だ。人様の体に針をさして喜んでる(って言うと語弊があるかもしれないが)麻酔科医の仕事であれば尚更。
逆にそれができなければ、できないことが予想されるならば、仕事を断る勇気が必要だ。力が残ってない位に集中力を欠いていれば、最後の力で「わたしにはムリです。他の方にまわしてください」と言わなくちゃならない。
患者さんには期待権というものがある。「適切な診療が行われれば救命された(後遺症を残さなかった)相当程度の可能性がある」と判断された事例で、適切な治療が行われることへの期待権侵害を認めた裁判事例が複数存在する。(wiki)
だから第三者から見て、分かりにくいストーリーに則った臨床行為は全てインシデントのもとである。自分の医療行為を客観視する癖を、それこそ吐き気を催すくらい繰り返さなくては、いつ足を救われてもおかしくない。そのようなトラップが、手術室にはいくつもいつでも存在している。
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そして今日起こった地震。
交通機関が麻痺したため病院に泊まることになった。20時頃、少し病院の周りを歩いてみると、非常に多くの人が歩いている。家路にあるのか。都心で働く人たちは、自宅まで歩くと相当距離があるはずだが大勢歩いている。私の職場にも10数キロの道を歩いて帰った方が。車は渋滞しているがそれなりに流れている。御茶ノ水駅前のタクシー乗り場にタクシーは来ないが数十人が並んでいる。そして公衆電話にも大勢の人が。コンビニには強盗が入ったかのように弁当を中心に食べ物がなくなっていた。
翻って手術室。手術室の麻酔器は全て動いていたし、麻酔器への酸素供給も途絶えることなく無事だった。全ての手術室のドアの開閉も問題なかった。何度も来る余震に心窩部をむかむかとさせつつも、手術室にいた全ての患者さんが無事に退室したのは何よりであった。Touphy針で硬膜外腔を探っているときに揺れなくて本当に良かった。震度5の揺れというものはなるほどこういうものだったのか。自分が損傷する恐怖。目の前で全身麻酔下にある患者さんに何らかの傷害が及ぶ恐怖。そのどちらもが恐怖。