1990-91年に初めて日本で報告されたこの疾患は、私にはあまり縁がありません。apical ballooning cardiomyopathyやstress-induced cardiomyopathyともいうようです。本疾患に対してはド素人の私が何故無知をさらけ出す恥を承知で書くかといいますと、麻酔専門医認定筆記試験47C44-45に出題されていたからです。それなりに知識を整理しておかなくてはなりません。
診断基準としてはUpToDateによると
The following are the proposed Mayo Clinic diagnostic criteria, all four of which are required for the diagnosis :
•Transient hypokinesis, akinesis or dyskinesis of the left ventricular mid segments with or without apical involvement. The regional wall motion abnormalities typically extend beyond a single epicardial coronary distribution. A stressful trigger is often, but not always present.
•Absence of obstructive coronary disease or angiographic evidence of acute plaque rupture.
•New electrocardiographic abnormalities (either ST-segment elevation and/or T wave inversion) or modest elevation in cardiac troponin.
•Absence of pheochromocytoma or myocarditis.
だそうです。(参考文献として・・・Systematic review: transient left ventricular apical ballooning: a syndrome that mimics ST-segment elevation myocardial infarction. Ann Intern Med 2004 Dec 7;141(11):858-65.)
@覚えておく知識
・病院死亡率は2%程度。通常1-4週でもとの心機能に改善
・70歳以上女性に多い
・AMIに類似した胸部症状や心電図変化。トロポニンTも陽性に。
・左室心尖部を中心とした広範な収縮低下と心基部の過剰収縮。
・冠動脈は異常なし。左室壁運動異常は冠動脈支配域に不一致。
・収縮異常は通常数日~数週で改善する
JAMA(2011; 306: 277-286)の前向き7施設256人の解析によれば
・平均年齢:69歳
・女性:89%(227例),閉経後女性:81%(207例)、50歳以下の女性:20例(8%)
・男性:11%
・来院前の48時間以内に重大なストレス事象あり患者:71%(182例)
・心理的ストレス:30%
・身体的ストレス:41%
・来院時の心電図異常:87%
・冠動脈造影:193例(75%)の冠動脈が健康
・CMR画像:全例に左室心尖部のバルーン状拡張と中等度~重度の左室機能低下あり。(MTpro 2011年9月1日(VOL.44 NO.35) p.01より引用)
@治療
・前負荷・後負荷の軽減
・重度の心不全やショックの時には左室内圧較差の存在にも注意(たこつぼ型心筋症の13-18%程度にLVOTOを合併~UpToDateより)。その際はカテコラミン使用注意。βブロッカーやACE阻害薬、適切な輸液で治療。フェニレフリンも有用かもしれないが、冠攣縮等に注意。
・冠拡張薬は無効
・LVOTOがなければドパミンやドブタミンを使う。重症例ではIABPの使用を考慮(短報として・・・麻酔 53: 799-803, 2004)
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たこつぼ型心筋症の原因として外科手術やSAHなどもあるようです。術中発症のたこつぼ型心筋症には遭遇したくもありませんが、術中に原因不明に低血圧で頻脈になったりしたらTEEを使って診断する必要があるのかもしれません。でも、SAHの手術中には口からTEEのプローベを入れられませんし、入れたくもありません。
今宵の当直帯にそのような患者さんが来ないことを祈るばかりです。
色々調べた後にwikipedia(英語の方)を読んでみたら相当詳しく書いてありました。inotropeで治療に難渋したらIABPを使うことを考慮くらい書いてあります。しかも、たこつぼ型の左室造影画像まで掲載されています。日本語の「ウィキペディア」には英語程の情報がなかった(あくまで今日現在ですが)ことから、日本語のみによる情報収集が如何に心許ないものかを改めて知らしめてくれる一件でした。
なんでこの疾患が「たこつぼ型」というかを万が一、留学生に聴かれたときの為に
「The name of the disorder is taken from the Japanese name for an octopus trap (tako-tsubo), which has a shape that is similar to the apical ballooning configuration of the LV in systole in the "typical" form of this disorder.」