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2011年2月15日火曜日

(本) 苦役列車 ― 西村賢太

当直入りには何故か「お供」が欲しくなります。一通り、予定手術・緊急手術の麻酔が終了した後にちょっと読めるような文章を。生まれてはじめて「文藝春秋」を買ったのは芥川賞作品が2作収録されているという月並みな理由からですが、私の興味は専らこの著作にあったのでした。流石に朝7時半から麻酔の準備をし、全症例が終了する25時半まで18時間動き続けた後では読めませんでしたが、当直明けに読了。

著者の自伝的要素が多分に入っているという本作。中学卒業後各種アルバイトを転々とした(逮捕歴もある)とプロフィールにあります。そのような人生の中で、どのようにして、これほど読ませる文章を書く力を身につけていったのか。驚嘆。非常に長~い以下の一文がとても印象的。

加えて、すでに戸籍上では他人になっているとは云い条、実の父親がとんでもない性犯罪者であったことからの引け目と云うか、所詮、自分は何を努力し、どう歯を食いしばって人並みな人生コースを目指そうと、性犯罪者の伜だと知られれば途端にどの道だって閉ざされようとの諦めから、何もこの先四年もバカ面さげて、コツコツ夜学に通う必要もあるまいなぞ、すっかりヤケな心境にもなり、進路については本来持たれるべき担任教諭とのその手の話し合いも一切行わず、また教諭の方でも平生よほど彼のことが憎かったとみえ、さわらぬ神に祟りなしと云った態度で全く接触を試みぬまま、見事に卒業式までやり過ごしてくれていたから、畢竟、彼に卒業後のその就職先の当てなぞ云うのはまるでない状況だった。(p445-6, 文藝春秋 2011年3月)

濃密な臭いを発散する文章に窒息しそうになります。