もし、あなたが患者さんだったら、
「ああ、私の主治医の先生は私なんかよりずっと偉大な人なんだ。この人について行けば大丈夫だ」
と強く信じることをお奨めします。(p32)
感染症を専門とする有名な先生が医療の諸問題に対して、緩い語り口で綴っています。どこかで読んだ文体だな・・・と思って読みすすめると、著者自身もあとがきで書いているように内田樹氏の文章から影響されているのでした。どうりで思想も論理もすっと私の心に入って来るわけでした。
・ふざけたガセネタほど、丁寧に誠実に反駁する、これがリスク下における正しい振る舞い方です。(p152)
・何度も繰り返しますが、僕らの居る世界は「どちらに進んでもリスクはゼロにならない」宿命を背負っているのです。(162)
・医療における善悪の問題は多くの場合絶対的な正否の問題ではなく、価値観としての「好悪」の問題であることが多いです。好悪の問題である、という認識の元で少しトーンを下げて医師の見解を述べれば、対立構造の起きる可能性は減るでしょう。(192)
・事物はその目的に応じてその価値が決定されるのである。一律に硬直的に事物の価値に優劣をつけるのは価値観の押しつけに過ぎない。(195)
本書を読むと、自分の価値観は価値観として、身の回りで振りかざされている一般的な「多くの人が賛同しやすい、こうあるべきだという正論」に、もう少しばかり慎重になろうと思います。「こんな酷い状態、患者さんの自業自得だ」、という分かりやすく同調しやすい意見も日々、私がそのように知らず知らずのうちに教育され、認知してきた結果に過ぎません。自分の立っている場所を相対化するのに役に立つ一冊でした。ありがとうございました。