こういったものは、もうほとんど完成だ、と認識してからが長いのだ、ということが身に染みてわかった。(喜嶋先生の静かな世界-森博嗣 p246)
が、我が身にもしみるように、書きかけの論文の参考文献リストを整理したり、「てにをは」を直したり、フォントを直したり、まるで職人が目の細かい鑢(やすり)で木の表面をなめらかに仕上げるかのような作業を繰り返します。まるっきり孤独な時間ですが、だんだんと聴いている音楽の音が気にならなくなってくるような(もしくはMariah CareyのOne Sweet DayとCryptopsyのSlit your Gutsが同じ曲に聴こえてしまうような)集中ができれば至福の時間に変化します。
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麻酔中には、およそ想像しうること全てが起こり得ます。勿論想像し得ないことも起こるわけですが。
動脈内に薬剤を投与するって事はまだ私はやったことがありませんが、「稀ではない」(麻酔科エラーブックp102)という以上、わりとよく起こることなのでしょうね。ともあれ明日は我が身ですので、対処法は把握しておく必要があります。
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Triemanの組織虚血スコア(動脈内注入48時間以内)
・チアノーゼ
・四肢冷感
・毛細管血流回復の遅延
・感覚障害
以上の症状がなければ0点、あればそれぞれ1点。
・合計点2点以下では92%の患者が、元の状態に戻る
・合計点3点以上では42%しか動注された四肢が正常に戻らない。
治療ステップ
1.動脈カテーテルはそのまま留置
・シリンジで血液を引いたり、残存薬物を除去したりできる。
・ヘパリン生食をゆっくり注入し、カテ内腔の閉塞を予防する
2.組織傷害の可能性を評価する(上記スコアリング参照)
3.抗凝固療法を開始する
・ヘパリン投与。ただし一致した見解はない。60U/kgに続きAPTTを1.5倍~2.3倍程度にするとよい。ただし術後ならば出血のリスクを考慮して行う。
4.症状緩和
・鎮痛薬投与、障害部位の挙上、マッサージ、受動的運動療法など
5.特異的治療
・上記1-4の後。症例に応じて。
・局所麻酔薬注入(動脈内にリドカイン注入)、SGB
・動脈性血管拡張薬(ニカルジピンなど)、トロンボキサン合成阻害薬、
・動脈内パパベリン注入
・高圧酸素療法
・コルチコステロイド など
(参考文献:麻酔科エラーブック p.102-107)
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予防策は・・・落ち着いて薬剤投与する。投与しようとしているラインが静脈路であることをきちんと確認する。ラベルを貼っておく。etc、etc、etc・・・。などが考えられますが、一番の予防法は「不必要な動脈圧ラインは挿入しないこと」でしょう。なんとなく不安だから入れておこうか・・・なんていう理由で入れるのはダメです。
・・・でも、直感が往々にして当たるのが臨床なので(例:5000mlも出血すると思わなかったよ。でも、なんとなく不安だったからA-lineを入れておいたんだ)、ダメとも言い切れないのです。まぁどんな時でも平常心が大事ってことですね。患者さんと外科医のカテコールアミンが上昇しているときほど、麻酔科医(と外回りの看護師さん)は冷静でなくてはなりません。