気軽に楽しく読めました。たまには人の推薦を盲信して読むのもいいもんだ。読む本を自分で選んでるだけだと偏るし、天地がひっくり返るような驚きや興奮に中々出会えなくなりそうだし。
著者は主人公を、勉強ができない高校生、という設定にしておきながら、哲学的なことを只管(ひたすら)考えさせ、吐き出させています。この主人公は勉強はできない(やらない)だろうけど、、アタマは非常に良い。アタマがよいために窮屈な高校生活を強いられています。
学校の集団生活、社会生活というのは、ある意味においてバカになる、ということです。これはしてはいけない、あれをすると罰せられる。だから何も起こらないよう、目立たないよう、周りの人間と同じ行動をしよう。子供の頃からそのように洗脳、調教され、大人になるにいたっては、そのような態度で生きることに何の疑いもなくなっていく。でも、そうはできないから窮屈さを感じている。それを主人公は母子家庭で育ったことやいろんなことのせいにしているのですが。
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「どうせ、人って死ぬのかと思うと、将来ってどういう意味があるのかって考えちゃうよ。理想を追いかけてたって、体が消えちゃえば、それまでじゃない。ぼく、来る途中、考えてたんだ。煙をつかむようなものだって」
祖父は、興味深そうに、ぼくを見詰めた。
「煙をつかむのに手間をかけて何が悪い、秀美、そういうことをダンディズムと呼ぶんだぞ。まあ、悪あがきと言えないこともないが、格好の悪いことでは決してないぞ。物質的なものなんぞ、死んだら終わりだ。それなら煙の方がましだ。始末に困らないからな。困らないものがいったい何なのか、おまえにもその内、解る時が来るだろうよ」(p169)
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読む人によって、色んなセリフに引っかかりを感じるだろう良い小説でした。