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2010年10月17日日曜日

(麻) 麻酔科医とSLE (Systemic Lupus Erythematosus: A Review for Anesthesiologists)

今回はAnesthesia and Analgesia 2010;111:665–76 からです。関節リウマチは要チェックですが、SLEって意外とマークが甘かった・・・のは私だけ?

<まとめ>
麻酔科医が考えること
・活動性は患者毎に異なる (抗ds-DNAや補体値の推移で病勢を予測する)
⇒画一的な対応は×。急がない予定手術患者は、SLEが落ち着くのを待ってから手術をする。
・主治医にコンサルト~臓器障害の程度、薬剤使用歴の正確な把握を
・産科手術や心臓手術患者はハイリスクのため、慎重に対応する必要がある。
・免疫抑制剤継続の有無、ステロイドカバーの有無についてはきちんと評価すべき。
・抗リン脂質抗体陽性患者では、特に整形外科手術や血管外科手術で血栓症のリスクが高いため、予防が重要である。

周術期管理は患者の病態に応じて行う
・silent ischemiaに注意-5誘導心電図、観血的血圧測定はモニター装着適応の閾値を下げて行う。
・Difficult airwayに注意-声帯麻痺、予期せぬ声門下狭窄症例や喉頭浮腫。特にSLEの活動性が高い患者では注意。環軸椎亜脱臼患者ももしかするといるかもしれない。
・腎機能は低下しているかもしれない-Cr値が上昇していなくても腎保護を意識した麻酔管理を行う。
・区域麻酔の施行は十分注意-周術期の抗凝固療法計画をしっかりと把握。血栓症の有無を確認。
・体位に注意-骨折や末梢神経損傷を予防。
・感染、SSIに注意-免疫抑制剤使用の有無を確認。

<以下各論>
歴史と疫学
・12世紀:Rogeriusが頬部の発疹を”lupus”という語で初めて表現
・1872年:ハンガリーの皮膚科医Moric KaposiがSLEの全身病変を初めて記述

・有病率:7.4-159.4人/10万人。最も多いのはイギリスのアフリカ・カリブ系住民、その他の非白人系。
・1:9で女性に多い。15-40歳に好発
男性、高齢発症者は重症化する傾向。予後はよくない。
・一卵性双生児間で24-60%の一致、
・二卵性双生児間では2-5%の一致(遺伝的要素が関係)
・関連因子:喫煙、結晶性シリカ、EBウイルス、ホルモン
・薬剤誘発性ループスの症状は関節痛、漿膜炎が主で、通常、臓器傷害は見られない。

心血管系
・心膜炎(25%に合併)は診断基準にも含まれており、よく知られている。(無症候性を含めると50%以上に合併)
・心膜炎は発症早期やSLEの再燃期によくみられ、胸水を合併することもある。
・心タンポナーデは2%未満と稀である。
・NSAIDSやステロイドによって治癒するが、タンポナーデ解除に心膜穿刺や心膜開窓術が必要となることもある。
・心筋炎(5-10%に合併):発症者の80%で左室収縮力の低下を起こし、進行すると不整脈、左室機能障害、拡張型心筋症、心不全を起こす。
・近年の研究で心血管合併症がSLE患者の後期死亡の主因となっていることがわかった。疫学的には44歳から50歳のSLEの女性は心筋梗塞の危険性が50倍高いため、注意が必要である。
・コホート研究では、高齢女性、長い罹病期間、長期間のステロイド使用、高脂血症合併症例が心血管病変合併の危険因子とされる。

弁疾患(Libman-Sacks endocarditis:疣贅形成による弁異常(10%に合併))
・罹病期間が長い、活動性が高い、抗リン脂質抗体陽性患者などで見られる。
・①僧帽弁②大動脈弁に起こり、主に逆流症を起こすが、進行すると狭窄症を起こす。
・疣贅が飛散して脳梗塞を発症することがある。
・臨床的に明らかな弁疾患はSLEの3-4%。その半分は手術適応となる。生体弁は逆流の再発が起こりやすいため、機械弁による置換がよい。

呼吸器 無症状でも機能は低下
・剖検研究では18%のSLE患者に肺病変が認められた。
・60%のSLE患者では潜在的に呼吸機能低下を認め、特にDLCO(diffusing capacity for carbon monoxide)低下がよく見られた。
・HRCTで肺をみると、20%の患者ではスリガラス陰影、網状影が見られ、肺の間質病変を合併している。
・胸膜病変は有名で、SLE患者の35%は胸膜炎を起こす。通常は軽症である。
・重篤な合併症に肺胞出血がある(1-5%の合併率)。死亡率は50%に達する。診断にはBALが用いられ、人工呼吸器、強力な免疫抑制療法、血漿交換等が必要になる。
・肺高血圧(PH)は0.5-14%で合併するが、症状が非特異的なため、診断が遅れがちになる。

喉頭病変の合併に要注意
・50歳以上のSLEで見られる(0.3-30%)
・所見:軽い炎症、声帯麻痺、声門下狭窄、急性閉塞を来たすような喉頭部の浮腫、喉頭蓋炎、輪状披裂関節炎が挙げられる。
・多くは免疫抑制療法で改善するが、気管挿管や外科的気道確保が必要になることも稀にある。
活動期SLEでは短期間の挿管後でも声門下狭窄を起こしやすいとする意見もある。

腎疾患は予後に直接影響する
・ループス腎炎(60%に合併)はSLEの診断後3年以内に見られることが多い。
・腎合併症があると死亡率は4.3倍となり、独立した予後規定因子である。
・腎合併症患者の5-20%は末期腎不全に至るが、近年は減少傾向にある。
・病気は組織学的に6つに分類されるが、Class4(び慢性ループス腎炎)は腎予後不良で、重症高血圧合併
・血清クレアチニン値が正常な患者でも「生検するとclass4だった」ということがあるため、SLE患者では常に腎保護を念頭におくべきである。

神経合併症
・37-95%の合併。中枢神経、末梢神経、自律神経障害、精神障害を起こす(neuropsychiatric SLE; NPSLE)
・7-20%の患者が痙攣を起こすが、他の併存疾患がないか鑑別が重要。
・抗リン脂質(aPL)抗体陽性患者では脳血管病変合併のオッズ比が2.3-6.7倍と高い。

造血器合併症
・リンパ球減少、貧血(50%)、血小板減少(約10%)がよくみられる。
・腎傷害やCNS病変合併例ではHb8.0g/dl以下の重度の貧血例もある
・血小板減少症例の1/5では免疫抑制療法が効果なく、脾摘が必要となる。

消化器合併症
・消化器系合併症は非常に多く、非SLEのものもあるため、診断に苦慮することが多い。
・口腔潰瘍(7-52%)だけが診断基準に入っているが、通常「無痛性」で、全身の病変の活動性に無関係である。
・食道病変は嚥下困難(1-13%)、胸やけ(11-50%)。上部食道の蠕動異常を認めることもあるが、SLE患者では下部食道括約筋障害の報告はなく、胃食道逆流の危険性は高くない。
・急性腹症はSLE患者の40%に見られる
・SLEに関連するものには漿膜炎、血管炎、小腸の虚血、膵炎、無石性胆嚢炎、タンパク喪失性腸症などがある。
・SLEに関連しない、手術を必要とする病気も合併も多いので注意が必要である。
・自己免疫性肝炎の生涯合併率は2-5%程度。

骨・関節病変
・非びらん性関節炎が有名。
・骨粗しょう症(23%)。骨折(12.5%)
・ステロイド使用と骨粗しょう症には直線的な関係はなく、SLEの活動性と関係があるようである。
環軸椎亜脱臼の報告はいくつかある
  ・頚椎の屈曲位を画像診断して59人を前向きに検討した研究では5人(8.5%)に亜脱臼を認めたという。5人中4人は頚部痛を認め、4人のうち1人は指の麻痺・感覚低下を合併していた。そのような患者は罹患期間が長く、CKDを合併し、副甲状腺機能が亢進していた。

凝固系
・ループスアンチコアグラント(LAC)陽性患者の方が、抗カルジオリピン抗体(aCL)陽性患者より血栓症を起こしやすい。
LACはAPTT値が延長する(試験管内では抗凝固性を示すため)が、むしろ血栓傾向を示すので要注意。
・「抗リン脂質抗体症候群(APS)患者」より「SLE+抗リン脂質抗体陽性者」の方が血栓症を起こしやすい。
・下肢の静脈血栓症を起こす。動脈血栓は稀である。
・静脈血栓塞栓症のある患者に対しては、PT-INR 2-3を目標にワルファリン治療を行う。
・血栓症の既往のない「SLE+aPL抗体陽性者」には低用量アスピリン治療を行う。
・動脈血栓塞栓症の既往患者には、より強固な抗凝固(INR 3-4)が勧められるが、まだ議論の余地がある。
・妊娠中にはヘパリン/低分子ヘパリンを使用する。

薬物治療と副作用
・SLEの治療はNSAIDs、アスピリン、免疫抑制剤(ステロイド、シクロフォスファミド、アザチオプリン、メトトレキセート、ミコフェノール酸モフェチル)等で行う。

◎おもな薬剤の副作用
・高用量シクロフォスファミド:心毒性があり、可逆性の心収縮力低下をもたらす。
・アザチオプリン、メトトレキセート:骨髄抑制、肝傷害
・メトトレキセート:肺傷害の原因にもなる。

麻酔薬との相互作用
・アザチオプリンの代謝拮抗作用
⇒筋弛緩薬の必要量が増える。アトラクリウムは37%、ベクロニウムは20%、パンクロニウムは45%増えたとする研究が1つある。
・シクロフォスファミド:pseudo-ChE阻害作用⇒サクシニルコリン使用後の無呼吸時間が延長する
・NSAIDs+メトトレキセート:急性腎傷害や汎血球減少を起こす可能性あり。
・笑気:骨髄抑制を起こすかもしれない。

結び:Anesthetic and perioperative management remains dependent on clinical acumen and understanding of the medical issues at play in these patients.
「鋭い洞察力(acumen)」をもって周術期管理をすることが重要である。

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