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2012年10月30日火曜日

(麻) 輸液反応性の評価信頼性についての論文

2つ出てました。

Pleth variability index is a weak predictor of fluid responsiveness in patients receiving norepinephrine.
Br. J. Anaesth. (2012)   First published online: October 26, 2012 PMID:23103777

今度はDr. Monnetからの報告です。ICUの敗血症患者さんをメインの対象とした研究。研究介入時のノルアドレナリン投与量はレスポンダー(この論文での定義=生食500mlを30分投与してCI≧15%以上の増加)で1.00 (0.62 – 3.4)γ、 ノンレスポンダーで0.68 (0.18 – 3.2)γとなっています。
タイトルそのもので結果もまぁそうですか・・・という感じではありますが、エントリーした42人中、7人ではPVI自体が測定できなかったとあります。

***
Prediction of volume responsiveness using pleth variability index in patients undergoing cardiac surgery after cardiopulmonary bypass.
J Anesth. 2012 Oct;26(5):696-701 PMID: 22588287

Dr. Haasからの報告だとPVIはSVVと相関性ありと結論しています。心臓外科待機手術患者さんのCPB離脱後においてPVIは信頼出来るか、を検証しています。コロイド4ml/kg投与してCI≧10%の上昇を輸液反応性ありと評価していますが、CPB後の不安定な状況(心拍数や右心不全の存在)ですから、PVIもSVVも特異度、陽性的中率は低いものとなっています。

SVVやPPVはもう「大体こんなもんだ」ということにして、PVIやNICOMの信頼性を検証するのが最近のトレンドなんですかね…。

2012年10月25日木曜日

(麻) 一部分だけ無侵襲に分かっても意味ない?

11月号のAnesthesiologyですが

Anesthesiology. 2012 Oct 4. [Epub ahead of print]  PMID: 23042225
Comparison between Respiratory Variations in Pulse Oximetry Plethysmographic Waveform Amplitude and Arterial Pulse Pressure during Major Abdominal Surgery.

PPVとΔPOP(パルスオキシメータから得られるdynamic parameter)の相関性を開腹術で見ています。ΔPOPはPPVとの相関性に乏しいということです。無侵襲にかつ信頼性をもって輸液反応性が判断できるようになるのはもう少し先なんでしょうか。PPVも限界がある状態ですし・・・。ASA2012でもパルスオキシメータから得られる動的パラメータとSVVとの相関性が低いというポスター発表を拝見しましたし・・・。

上記論文についてのeditorialはfreeで読めます。Dr. Cannessonが記載してます。
Anesthesiology: November 2012 - Volume 117 - Issue 5 - p 937–939
Noninvasive Hemodynamic Monitoring: No High Heels on the Farm; No Clogs to the Opera.

その中でDr. Cannessonは以下のように書いています。
Consequently, such a subtle hemodynamic parameter as ΔPOP will probably not replace the arterial line in the near future. This is probably the main message carried by the Hengy et al. study; choosing the most appropriate hemodynamic monitor is context dependent (“no high heels on the farm; no clogs to the opera”). During high-risk surgery, invasive and more robust signals should still be preferred. However, there is no justification in using invasive lines in patients who are at lower risks. As recently demonstrated by Hood et al., a noninvasive parameter such as ΔPOP still has significant clinical potential in this less challenging and more standardized situation.

数年前には
Br J Anaesth. 2008 Aug;101(2):200-6. Epub 2008 Jun 2.
のconclusionsにおいて自ら、「PVI, an automatic and continuous monitor of DeltaPOP, can predict fluid responsiveness non-invasively in mechanically ventilated patients during general anaesthesia. This index has potential clinical applications.」
と書いておられたことからも、この分野はまだまだ発展途上・・・なのでしょう。

そもそも輸液反応性を手術中に見る必要があるのは、
・ハイリスク患者
・ハイリスク手術
・その両方が重なる時
です。
そういう手術中には、患者さんの輸液反応性だけ見られれば良いのではなく、Hb値や乳酸値や電解質、P/F比、血糖値などが必要です。ということでそれらの値も無侵襲に、しかも相当な正確性で測定できるようにならない限り、術中に無侵襲に輸液反応性が測定できるようになったとしても誤誘導される可能性が高いのでは。循環血液量だって患者さんごとに異なるし、手術中変わっていくし、術中の輸液は本当に難しい。
術中のgoal directed fluid therapyは行き詰まってる感がしますね・・・。

2012年10月22日月曜日

(雑) 久しぶりの大学にて

・・・当直明けの土曜日に研究室の培地交換に行きがてら、自分の棚を覗いてみると、小さな辞典ほどの厚さの封筒が。

宿題が入っていました。

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課題は常にあった方がいい。(ベッキーの心のとびら、幻冬舎)

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だそうです。宿題を形にしないと気分よく正月を迎えられなさそうな雰囲気なので、やってみようと思います。というか、やる、しか選択肢はないです。まずは書く内容に関連した論文や解説を渉猟して、全体像を把握することから始めたいと思います。一見すると自分の手に負えないような、こういう仕事の1つ1つを、出来る限り全力できちんとやっていくことが大事なんですよね。きっと。それに気づくのはいつもそれが終わって時間が大分経ってからなのでしょうけれども。


今年の頭3/4は、臨床麻酔、麻酔関連の仕事、基礎研究と家のことなどの複数のミッションを並行して進めることに難渋しました。今年の残り2ヶ月ちょっとは、それらのバランスをどうとって上手く進めていくか。try and errorしながら成長できればいいかな、と。やりたいことを余裕をもってやるには圧倒的に時間が足りませんが、それもこれも自分のこれまでの積み重ねですし、何を選んで優先していけば自分も周りもハッピーになるか、考えないとなぁ。

2012年10月20日土曜日

(麻) ASA annual meeting ~Anesthesiology 2012~ 雑感ほか

ブログの更新が暫く滞ってしまいました。


今回は自分の発表はなかったので特に呼ばれてなかったのですが、行かせてもらえる幸運に恵まれましたので、ラッキー!とばかりに行って参りました。今回でJSA総会参加回数とASA annual meeting参加回数がともに3になりました。
日当直明けにふらふらしながらD.C.行きの飛行機に乗り、帰ってきた翌日には時差ボケする暇もなく、10時間半ほどの手術の麻酔を担当しました。
アメリカの食事を沢山食べましたが、出国前と帰国時とで体重が殆ど変化ありませんでした。奇跡です。恐らく学会場やD.C.の街の中を毎日14000-20000歩くらい歩いたせいです。地下鉄・タクシー・バスは勿論、街の中を走っていますが、徒歩30-40分くらいの範囲に色々とあるせいで、結構歩いてしまいました。

 
今回ASAに参加した目的を強いて挙げるならば、今、立ち上げようとしている新しい研究に関連した演題を聴きに行って最新の情報を得ることでしょうか。それと友人のposter discussionでの勇姿をカメラに収めること。彼はe-poster discussionでの発表だったのですが、それが微妙でした。彼の発表が微妙なのではなく、e-poster discussionはポスターをデジタル画面に映して、そのモニタの前で発表、討論するというものでしたが、そのモニタが通常のASAでのポスターサイズより小さいのです(下の写真のような感じ)。ということで文字やfigureも小さくてよく見えない。紙か布のポスターで普通にやったほうがいいんじゃないかと思いました。ASAも発表スタイルについてtry and errorしている最中だと思えば楽しめるのですが、演題の内容をよく知らないで聞きにくる聴衆には若干酷な試みだろうと感じられました。


あとは自分の関心の輪の中にある「fluid responsiveness」に関するポスター発表も幾つか聴いて来ました。

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学会の話から脱線しますが、今年の6月2-3日にカリフォルニアで行われた下記のシンポジウムのまとめが公開されています。
血行動態最適化に興味のある方はどうぞ。

2nd Goal-Directed Therapy Symposium
Hemodynamic Optimization in Perioperative and Critical Care Medicine: From Theory to Practice
***

「産科と区域麻酔」のリフレッシャーコースも聴いてみましたが、こちらでは新しい知識は殆ど得られませんでした。演者が提示した引用文献の、割と多くの部分が90年代や2000年代前半のものだったので、この領域で新しいトピックはないということでしょうか。がっかりしたようなほっとしたような。他にも聴いてみましたが、リフレッシャーコースは日本の麻酔科関連の学会で参加すれば十分な気がします。英語リスニングのトレーニングにこそなりますが、知識についてはASAでもJSAでも得られるものは大して変わりないです。寧ろ、演者の講演中にぺちゃくちゃとお喋りするスペイン語の2人組の前に座ってしまったり、「その写真、家に帰ってから絶対見ないだろ」っていうような、演者のパワーポイントを熱心に写真撮影する異国の人が視界にちらついたりする不快さに遭遇する確率はASAの方が高い印象です。今回を含めて3回目のASAなんだからいい加減気づくべきですね。次回もしこの学会に参加する機会があったとき、自分が絶対聴きたいと思える内容でなければリフレッシャーコースに参加するのは止めよう。

ということで、私の麻酔の知識は大して増えませんでしたが、今後10年くらいに自分が何をすべきか。Washington D.C.への旅は、それを改めてよくよく考えるきっかけになりました。

結局
・学会はoutputの場であって、inputの場ではない。inputできるとすれば、それは教科書的な知識ではなく、やる気や熱意や発表の技法。
・学問を続けるなら、自分の英語力じゃまだ全然ダメ。引き続き生活の一部を英語でやっていこう。
という2点を再確認しました。


そういえば。
翻訳が出たら買おうかな・・・と思っていたパウロ・コエーリョの「Aleph」を成田空港で発見したので道中読みました。次のフレーズは今の私の気持ちを代弁してくれていました。

There’s no point sitting here, using words that mean nothing. Go and experiment. It’s time you got out of here. Go and re-conquer your kingdom, which has grown corrupted by routine. Stop repeating the same lesson, because you won’t learn anything new that way. (p10, Aleph written by Paulo Coelho in 2011, translated by Margaret Jull Costa in 2012 )

―Washington D.C.往復、飛行機上でのセットリスト―
行き
・Megadeth:Th1rt3en
・Lady Gaga:Born this way
・Mastodon:The Hunter
・The Mars Volta:Frances The Mute
・Dream Theater:A Dramatic Turn of Events
 ほか

帰り
・Helloween “Who is Mr. Madman?”
・The Devin Townsend Project:Deconstruction
・Ego Wrappin’ ”色彩のブルース”
・Ten:Stormwarning
ほか

また日本で頑張っていこう。



2012年10月11日木曜日

(本) 孤独な散歩者の夢想 - ルソー (光文社古典新訳文庫、永田千奈訳、2012年)

思わぬ掘り出し物でした。
光文社古典新訳文庫は新刊が出るたびに惰性で買っていて、積ん読本化しています。「ねじの回転」も「トム・ソーヤーの冒険」もまだ途中です。私の読書速度だと全然消化できません。

読まないかもなぁ、と思いつつ先日、夏休みのお供の1冊として本書をスーツケースに入れていたのですが、携帯が圏外になってネットも繋がらない状態、というところに滞在したため仕方なく読み進めてみたところ、あれよあれよと読んでしまいました。

本書は1782年発表。ルソー最後の著作で未完に終わっています。

・私の場合、自分自身に知りたいという思いがあるからこそ、学ぶのであり、他人に教えるためではない。他人に教える前に、まず自分のために学ぶことが必要だと常々思ってきた。私がこれまで世俗のなかで自身に課してきた学問は、たとえ私が余生を無人島で孤独に過ごすことになっても同じように学び続けることができるようなものばかりだ。何を信じるべきかが分かれば、何をすべきかもおおかた決まる。(p46)

・この世の人生は試練でしかなく、神がその試練を与えた目的さえ達成できれば、それがどんな種類の試練かは大して意味がない。つまり、試練が大きく、難しく、頻繁であるほど、それに耐えることが価値を生む。その苦難を十分に埋め合わせるだけのことが必ずあると知っていれば、どんなに厳しい苦難に襲われても、平然としていられる。それ以前から熟考を重ねてきたが、そこから得た最大の成果は、いつかこの不運を埋め合わせるだけのことがあるはずと確信できるようになったことである。(p60)

・だが、忍耐、優しさ、受容、公明正大さ、不偏の正義などは自分が生きていくうえでの財産となり、常に価値を高めていくことができ、死をもってしてもその価値が失われることがない。だからこそ、こうした徳の分野での研鑽こそ、私が今後、余生を尽くして実行したい、唯一の有益な探求なのだ。私自身が進歩を遂げ、生まれたときよりも善良になるのは無理にしても、生まれたときよりも徳の高い人間として死ぬことができたら、幸せだと思う。(p68)

内容はタイトル通りなのですが、なんとも言えない悲哀と滑稽さとルソーの人間臭さが感じられる愛着がわく作品。
もっとこの本を味わうためには私がもっとがむしゃらに生きないと。今出会えてよかった一冊。

2012年10月7日日曜日

(雑) 三連休中日ですね、、

日当直で夜中まで緊急手術麻酔→結婚披露宴→実験→別の友人の結婚披露宴

ってとても幸せなことだと思いますが、私の今の体力には結構キツイでありました。何とか無事に?かどうか分かりませんが、役目をはたし終えました。

麻酔科専門医口頭試験、実技試験を受験された先生方、本当にお疲れ様でした。私は試験の合格に全くと言っていいほど貢献できませんでしたので、このようなことを申し上げるのも気が引けますが、受験された先生方が1人でも多く合格されることを祈っております。