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2019年5月10日金曜日

Barré試験とMingazzini試験

というタイトルの論文(臨床神経 2015;55:455-458)を読みました。
なぜ読んだかというと、救急当直をしていて、時々自分で患者さんを相手にこれらの試験をすることがあるからです。
学生の頃からお世話になって、最近になって買い直した「ベッドサイドの神経の診かた」(改訂18版、南江堂)にも、上肢バレー徴候は、私が学生の頃(およそ15年前)に教わった方法が記載されておりました。すなわち両上肢を掌を天井に向け水平挙上させて、障害側の落下を観察する方法です。ですが、この方法は上記論文の中では「上肢バレー徴候」ではなく「pronator drift test (回内落下試験)」という名前で紹介されています。へー、そうなのか。

上記の論文のまとめから引用させていただくと、

歴史的事実としては,器質的不全片麻痺の小徴候としてみられる落下現象を上肢のみならず下肢でも最初に報告したの は Giovanni Mingazzini(1913)であり,後年になり,下腿の落下試験手技の新たな変法を報告したのがJeanA.Barré (1919, 1937)である.すなわち神経学会の作成した手引きに記載された〝上肢バレー徴候〟なるものは無く,上肢では Mingazzini試験,下肢では背臥位による Mingazzini 試験と 6 年後に報告された新たな腹臥位による Barré 変法試験があると結論されよう.

とのことです。この論文を読む限り、著者の廣瀬源二郎先生の主張は正しいように思えます。原著が大切である、と。


2019年4月29日月曜日

日本区域麻酔学会第6回学術集会に参加してきました。

ハンズオンセミナーを時間が許す限り受講しまくってきました。超音波ガイド下腰神経叢ブロックはやはりちょっと敷居が高い…というかそのような症例は透視下に大腰筋筋溝ブロックをするというプラクティスでよいような気がしました。多分、まだまだ、自分は超音波下に針を描出する能力にかなりの伸びしろがある(つまりまだまだ手技としては発展途上ということです)ので、安全に、自信を持って、できることを1つずつ増やしていきたいものです。

初高知でしたが、学会が面白すぎて観光は1つもできませんでした。新しくお知り合いになった先生や、既にお知り合いになっている先生、昔所属していた医局の後輩の先生などなどにお会いすることができて、その面でも非常に充実した3日間でした。

ついでに…というか第1回となるJ-RACEも受験してきました。噂によると50名程度の受験者を見込んでいなかったらしいですが、実際の受験者は500名超えでした。試験問題は勉強不足のため私にとっては難しかったのですが(5つの選択肢のうち2つ正しいもの/間違っているものを選べ、という設問が多かったです)、全体的には、きちんと勉強してきた人が評価されるようなレベルだったのではないかと思います。5月中旬には合否判定が郵送されてくるそうなので、それを不安な気持ちで待つことにします。今年ダメだったらまた来年受験します。

RAPMが読みたいのですが所属している大学で契約されていないので、今更ですが自分でESRAに入会しました。130ユーロ/年でRAPMが読み放題です。月々約1300円で紙の雑誌も送られてくるというのですから、かなりお得です。

もっと色々うまくなりたいなぁ。うまくなるにはコツコツやるしかありませんね。

2019年3月28日木曜日

下肢の末梢神経ブロックについてのレビューなど

RAPMの2月号なので、もう読んでおられる方もいるかと思いますが、今現在無料でアクセスできます。


下肢の皮膚、筋肉、骨の神経支配についてのきれいな図、ブロック施行時に局麻に添加するadjuvantのEBM、LASTへの対応など盛りだくさんの全38ページのレビューです。無料で読めるとはすごい太っ腹。来月行われるJ-RACEの対策にも使えるかもしれません。

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第3回タイカダバーハンズオンセミナーに参加してきました。X線透視下/超音波ガイド下神経ブロックなどの手技の修行を、カダバーを利用させていただいて行える稀有なセミナーです。

https://www.jpcit.jp/event_20190307-10_3rd-cadaver.html

私はbasic courseで参加させていただきましたが、椎間板造影、神経根ブロック(腰部、胸部、頸部)、椎間関節ブロック(腰部、胸部、頸部)、大腰筋筋溝ブロック、腹腔神経叢ブロック、ガッセル神経節ブロック、脊髄刺激療法(SCS)、RACZカテーテル手技、DISC-FX手技などについて教えていただきました。

来年も開催予定で、2020年3月5-8日予定のようです。可能であれば来年も参加したいと思います。

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あとは、第43回東北ペインクリニック学会で一般演題の発表と、北関東甲信越ペインクリニック学会第8回に参加してきました。

一般演題・教育講演その他演題すべてがなるほどなるほど、と勉強になり楽しかったのですが、なかでも東京大学の笠原諭先生のご講演「慢性疼痛に対する俯瞰的評価とペインクリニシャンによる治療介入」が大変興味深い内容でした。
講演の中では、慢性疼痛患者さんにはパーソナリティ障害がある方もおられるため、医療面接のやり方にコツがある(勿論それで全てうまくいくわけではありません、ということも記載させていただきます)、ということをおっしゃられておりました。

推薦図書の1つに以下の書籍を挙げておられましたので、読み始めました。3024円です。

医療スタッフのための 動機づけ面接法 逆引きMI学習帳. 北田 雅子 (著), 磯村 毅 (著)

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本といえば、

わたしの信仰: キリスト者として行動する フォルカー レージング (編集), Angela Merkel (原著), Volker Resing (原著), アンゲラ メルケル (著), 松永 美穂 (翻訳)

に興味を惹かれて読み始めました。

健康な人は、自分の人生を自由に形作れるのはーわたしたちの足が導かれた広いところを踏破するのはー当たり前のことではないのだと、日々新たに自分に言い聞かせるべきです。別の状態もありえるのだということを、決して忘れるべきではありませんー人生は美しく、完璧な面だけを持っているのではないのです。そのことを常に意識に中に呼び起こすことがとても重要だと思います。なぜならそれによって人生の展望を狭めずにすむからです。 p48

長きにわたって首相をつとめている方が、どのような言葉を発してきたか。その精神が強靭でなければ(強靭という言葉では到底足りないと思いますが)到底つとまらない仕事をしながら、何を考えてきたのか。

最後まで読むのが楽しみな一冊です。

2019年2月17日日曜日

「福岡市を経営する」を読む、慢性疼痛学会に参加する、ケタミンは開胸術後慢性痛を減らさない

久しぶりに一冊全部読みました。

36歳で福岡市長になって現在三期目を務めていらっしゃる高島宗一郎氏による著作です。
36歳で市長になるってこと自体、驚愕ですが、自分で道を切り開いて目に見える成果を出しているところがまた驚愕です。

以下メモ。

なげやりと思われるかもしれませんが、これは決して「なるようになるさ」という行き当たりばったりのような意味ではありません。どうぞ私の命をこの世の中のために使ってください、という感覚なのです。私の居場所はどこでもいい。私に役割があるのであれば、運命がその役割に私を配置するでしょう。その置かれた場所で、全力を尽くすのみです。p74

だから、明日死ぬかのように今日を生きる。p75

ただ技をかければいい、ただギブアップが取れればいい、ということだけでなく、痛みや喜び、苦しみ、葛藤といった感情が伝わるレスラーこそが一流なのです。さらに「人生」まで伝えることができるレスラーは超一流です。p81

街を変えるには「よそ者、若者、バカ者」という3要素が必要と言われます。私は見事にすべてに当てはまります。p169

上の世代は、自分たちで道を切り開き、今の日本の繁栄をつくりました。心からリスペクトしています。私たちの時代も、繁栄を誰かが運んできてくれるわけではありません。自らの時代は自らで闘って勝ち取るもので、相続を期待するものではないのです。p201

チャンスはいつやってくるのかわかりません。それでも、いつそのときが来てもいいように緊張感をもって準備をしておくことが大切です。p248

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第48回慢性疼痛学会(岐阜市)に行ってきました。久しぶりに一般演題で発表の機会をいただきました。会場の岐阜市まで、実に7時間かかりました。

行かせていただいた成果としては、2日間缶詰で以下の項目について、シンポジウムや教育講演、セミナーを受講できました。発表者の真摯な思いが伝わってくるものばかりでした。

・慢性痛はゼロを目指すべきか
・頭痛(一般演題)
・脊椎脊髄疾患術後遺残症状(痛み・しびれ)のメカニズムと対策
・パーキンソン病の姿勢・腰痛・手術
・周術期疼痛管理におけるtransitional pain serviceの役割
・痛みの構造で考えるオピオイドの選択
・臨床研究法を視野に入れたビッグデータ解析
・タペンタドール
・薬物依存
・がん患者の非癌性疼痛や慢性疼痛のオピオイド
・FBSS(failed back surgery syndrome)に対するインターベンショナル治療
・ガバペンチノイド(ミロガバリン)の可能性と課題
・腎機能障害時の薬物選択と運動器疼痛の治療効果判定
を聴講しました。

また、学会の後に行われた第4回日本ペインクリニック・インターベンショナル治療研究会にも参加し、他施設の治療経験や経皮的椎間板治療について知ることができました。

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上記学会に行くちょっと前に読んだ論文。

Ketamine infusion for 96 hr after thoracotomy: Effects on acute and persistent pain (Eur J Pain. 2019 Feb 4. doi: 10.1002/ejp.1366. [Epub ahead of print] PMID: 30719817)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30719817

開胸術は術後慢性痛の頻度が高いものの一つとされています。この論文では、NMDA受容体拮抗薬であるケタミンが、そのような痛みの頻度を減らすか、について検証しています。プロトコルとしてはケタミン0.1mg/kgボーラスした後に、0.1mg/kg/hを術開始10分前から96時間投与し生食持続投与群と比較した前向き二重盲検試験です。結果、ケタミン投与群は、術直後のオピオイド使用量を有意に減らしましたが、手術後6週間〜12ヶ月の痛みを低下させることはなかった。ということです。

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この2−3日は、自分の中にパッションがたくさんあることを再認識することができる貴重な期間となりました。支えてくれた皆さんに心より感謝いたします。


2019年1月9日水曜日

慢性疼痛診療の研修会

あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。このブログも12年目になりました。

先日、「慢性の痛みと理解と診療体制構築に向けて」という研修会に参加してきました。


現在、慢性疼痛患者さんの外来診療を担当させてもらっておりますが、研修に参加して改めて、個々の患者さんの問題にフォーカスした診療の大切さに気づかされました。


「慢性疼痛診療ハンドブック」を参考に勉強するとよいですよ、とアドバイスをいただきましたので、座学でも学習を深めていきたいと思います。