ちょっと前に読んだ論文のメモです。実験の合間の1人抄読会です。放置していたので加筆して残しておきます。
韓国のDr. Kimらの報告。
Effect of pulse pressure on the predictability of stroke volume variation for fluid responsiveness in patients with coronary disease
J Crit Care. 2012 Oct 30. pii: S0883-9441(12)00321-8. doi:10.1016/j.jcrc.2012.09.011. [Epub ahead of print] PMID: 23122680
冠動脈手術を受ける患者さんたち(心収縮能自体は良好)を、麻酔導入前のpulse pressure(PP: 脈圧)の大小によって2群に分類。そして麻酔導入後に、輸液反応性を検証したときに、脈圧の大小がSVVの信頼性を変化させるか、を検証しています。
本論文では 脈圧≧60mmHgをwide PPと定義しています。輸液負荷はvoluven(中分子の人工膠質液) 500mlを15-20分で施行し、SVVはFloTrac/Vigileoで測定。「輸液反応性あり」の定義はPACで得られたΔSVI≧12%の上昇としています。
結果としてwide PPの患者で輸液反応性有りは、SVVのAUC=0.609 (normal PP では0.808)と低い値を示しています。
PP(脈圧)の上昇と関連する状態にはどんなものがあるかというと・・・高齢、LVEF高値、女性、MIの既往、DM、高血圧、Ca拮抗薬の使用などがあるようです(本論文のdiscussionより)。
本論文ではwide PP群でhigh EF、女性の比率、DM、Ca拮抗薬内服患者が有意に多く、それが結果に影響している可能性はありますが、それらの交絡因子を除いて解析しても同様の結果となった・・・と著者らは書いています。
また、研究の限界として
・輸液負荷前にノルエピネフリン投与されていた患者がいた
・FloTrac以外のデバイスで得られる(例えばPiCCOplus)SVVには拡大適応できない
・動脈エラスタンスをより良く把握するためにはPPVも測定すべきだった
を挙げています。
結果の解釈が難しい論文です。
術前にwide PPな患者さんたちは一般的に動脈壁コンプライアンスが低いですし、そのような患者さんたちのほうが麻酔中の血圧のup downが激しく、麻酔管理上、重症であることが多いです。そういった患者さんたちのSVVの信頼性が低いかもしれない・・・とすると輸液投与量の判断が難しくなりますね。
本論文では麻酔導入前のPPを測定してますが、麻酔覚醒後ってどうなんでしょう。
もしかすると、所謂high risk patientといわれる方々では、麻酔中にSVVなどの動的パラメータを低く保って管理しても(これ以上輸液してもSVやCOは上昇しないだろうという状態を目標とした輸液管理)、それが麻酔覚醒後の状態に対してもよいことなのか-つまり術中の輸液最適化が麻酔覚醒後の輸液最適化と本当に相関があるのか、という疑問が生じます。そのへんがよくわかっていないということが、もしかすると昨今のモニターによるGDTによって術後の予後が良い、いやこれまでの管理と変わらない、という分岐点になっているのかもしれません。