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2012年7月15日日曜日

(本) 新編 風の又三郎 - 宮沢賢治から

いつ買ったか覚えてないけれど、100円で買った文庫本です。先日日当直麻酔に向かう6時の電車の中で久しぶりに読んでみました。
グスコーブドリの伝記より。

  ブドリはもううれしくってはね上がりたいくらいでした。この雲の下で昔の赤鬚の主人もとなりの石油がこやしになるかと云った人も、みんなよろこんで雨の音を聞いている。そしてあすの朝は、見違えるように緑いろになったオリザの株を手で撫でたりするだろう、まるで夢のようだと思いながら雲のまっくらになったり、また美しく輝いたりするのを眺めて居りました。ところが短い夏の夜はもう明けるらしかったのです。電光の合間に、東の雲の海のはてがぼんやり黄ばんでいるのでした。
 ところがそれは月が出てるのでした。大きな黄いろな月がしずかに登ってくるのでした。そして雲が青く光るときは変に白っぽく見え、桃いろに光るときは何かに笑っているように見えるのでした。ブドリは、もうじぶんが誰なのか何をしているのか忘れてしまって、ただぼんやりそれをみつめていました。受話器がジーと鳴りました。(p245)

これに心動かされるのは、この世に生きる1つの幸福なんじゃないか―そんなことを思います。