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2011年3月3日木曜日

(映) 告白 (2010年) ☆☆☆☆

38,5億円の興行収入をあげた大ヒット作なので今更説明は不要か。
遅まきながらDVDで観る。
原作は未読のため、比較は不可能だが、映画は最初から最後まで一気に見せる面白い作品だった。

大義はどうであれ、結局のところ、皆が他人からの承認を得るために殺人、復讐、いじめを繰り返している。この映画の登場人物の様々な感情の流れをみていると、その「承認欲求」が何よりも強い。嫌悪、嫉妬、殺意はそれら自体強い感情だが、他人から認められることに比べたら大したことはないのである。人間が、孤独をどれだけ忌むものとして扱っているかわかる。

学校の教室がいかに密室空間で、外からの介入を拒む性質のものであるかをリアルに思い出すことができた。その場を支配するのは正義とか道徳とかではなく、「いかに仲間外れにならないか。または、いじめられっこにならないか」というご都合主義である。そのためには、凡庸な生徒であれば、たとえ間違ったことだと初めは思っていても、被害者にならないために、加害者に与する方を選択する。

当然である。

いじめられて意に介さないのは、そのような加害者同士の脆弱な人間関係(いじめる対象が共通である、というだけのつながり)とは、次元の異なった場所での価値観にしか重きを置かないような、第三者から観察すればタフなキャラクターの人間のみである。たいていの人間は「友達は少なくたっていいじゃん」とか「いなくたっていいじゃん」と息巻いても、全く社会と隔絶することには恐らく耐えられないのである。その耐えられない孤独を避けるためのルールが、この教室においては、「殺人者を苛め抜くこと」なのである。それは私の生活から考えれば異常な状態であるが、だからといってそれを手放しにイカれている、と断罪することもできない気がするのである。まして自分がこの教室の生徒の一人であれば、である。自分が構成員の一人であれば、その生存・安全を保ちつついじめをなくすなど極めて困難である。

2011年3月2日水曜日

(麻) HITに学ぶ凝固能亢進の原因と評価

Etiology and Assessment of Hypercoagulability with Lessons from Heparin-Induced Thrombocytopenia. Anesth Analg 2011;112:46-58

1.Inherited risk factors
@
Enhancement of Procoagulant Effects(凝固亢進の増強)
最も一般的な先天性危険因子(日本人では極めて稀)
第V因子ライデン変異(白色人種の5%)
 ・アミノ酸置換を引き起こし、活性化第V因子が活性化プロテインSによって分解されなくなるため凝固亢進。
 ・ヘテロ接合体で3倍、ホモ接合体で18倍、全体で9倍、静脈血栓症の危険性が増加する。
プロトロンビンG20120A変異症(同2%)
 ・血漿中のPT濃度が高くなり凝固亢進。
 ・VTのリスクが3倍上昇。
 ・VTと診断された患者の7%がこのPTの遺伝子異常を持つ
⇒これら2疾患と動脈血栓症の関係は明らかでない 


*フィブリノゲンの異常も凝固亢進の原因となる
・脳卒中発症時のフィブリノゲン値≧450mg/dlの患者は、機能的予後が悪い。
・産生されたフィブリン分子がトロンビンを抑制できなかったり、プラスミンで分解されにくいと、凝固亢進状態を引き起こす。⇒急性肺塞栓後の慢性期の血栓による肺高血圧状態の患者にしばしば見られる。 

@Reduction of Natural Anticoagulation 生理的な抗凝固能の減弱 
・プロテインC・プロテインSの欠損 
 ・凝固を促進する活性型第V・第VIII因子を抑制する。
 ・先天性欠損で静脈血栓の危険性が5-10倍上昇する。
 ・ホモ接合のプロテインC欠損症は新生児期の致死性血栓症の原因となる。

・アンチトロンビンの欠損
 ・ヘパリン存在下でトロンビンと強力に結合するセリンプロテアーゼ阻害タンパクである。
 ・ヘテロの欠損患者はトロンビン阻害作用が正常の50%しかないため、血栓症の危険性が高まる。ホモでは早期に死亡。

これら生理的凝固因子の先天的欠損は0.2%以下と稀だが、後天性に発生することもある

@Reduction of Fibrinolysis 線維素溶解の障害

2.Acquired risk factors for hypercoagulability

・後天性のものは一過性のことが多い。 
・先天的因子より、血栓症を発生する危険性が高い。
・殆どの場合、複数の条件が重なって血栓が発生するため、治療のためには原因を明らかにする必要がある。
@抗リン脂質抗体は、動静脈血栓の危険因子である (ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2糖タンパクI抗体)
・ループスアンチコアグラントの各血栓症でのオッズ比
 動脈血栓:8.6-10.8   静脈血栓:4.1-16.2
 全体:5.7-7.3    習慣性流産や胎児死亡:3.0-4.8
・抗リン脂質抗体は、急性感染・炎症で誘導され、短期間(2-3ヶ月)見られるが、ある患者群ではより長期間持続することもある。
・血栓症・習慣性流産の患者で12週以上間隔をあけて最低2回抗リン脂質抗体が陽性ならば、APSの診断基準を満たす。
・持続的な抗凝固療法が一般的に推奨されている。

@肝・腎疾患は出血のリスクだが、凝固亢進にも関与する
・肝硬変では、プロテインC・S、AT、プラスミノゲン濃度は全て低下
・凝固促進因子は合成障害によっても低下しているが、PTは相対的に高くなる傾向があり、凝固亢進の素地となる可能性がある。
・肺動脈や門脈の内皮障害によって血小板凝集が亢進し、凝固活性が促進される。
・ネフローゼ症候群ではフィブリノゲン合成が増し、AT濃度が正常以下になることが知られている。肝疾患同様、腎血管でも内皮障害が起こり、腎静脈血栓症の原因の35%を占める。

@その他の血栓症の危険性
・血流うっ滞には、麻痺による寝たきり状態、心不全による低心拍出状態など多くの状態が関与する。
・メタボリックシンドロームでは、内皮障害と血小板凝集の亢進が関与する。
・心不全患者では血管内皮からの一酸化窒素の放出が減少しており、血小板凝集が促進される。
・癌細胞は微小粒子を放出し、フィブリン沈着を促進する。
・健康な高齢者でも、フィブリノゲンや第VII因子増加、線維素溶解の障害、血小板凝集能の亢進など、凝固促進状態が見られる。

@妊娠や薬剤によるもの
・通常の妊娠は高エストロゲン状態だが、free プロテインS抗原が妊娠中期で正常の39%程度 、後期で正常の31%程度まで低下するため、血栓が起こりやすくなる。
・トラネキサム酸、アミノカプロン酸は競合的にプラスミノゲンアクチベータを抑制したり非競合的プラスミン抑制作用のために心臓外科手術時に使用される抗線維素溶解薬である。
・トラネキサム酸による治療後に動・静脈閉塞やアミノカプロン酸による糸球体血管の血栓症が報告されているが、血栓塞栓症の既往のある患者で発症率が高くなる。

@デスモプレッシンは凝固促進因子(第VIII因子、vW因子)や組織プラスミノーゲンアクチベータ(抗血栓作用)や血管内皮からのプロスタサイクリン(血管拡張作用)の放出を促す。
・vW病等に使われるが、血栓症の報告もある。
・他の危険因子を有す患者への使用は注意(FDA勧告)

@rFVIIa(ノボセブン®)は血栓症リスクは相対的に低い。 
・危機的出血に対して使われている(FDA適応外)。
・抗凝固療法・肝硬変・重症外傷に対するrFVIIa療法を検討した13の研究では血栓は投与群で6.0%(45人/748人)、プラセボ群で5.3%(23人/430人)と、有意差はなかった。いずれにせよ密なモニタリングが必要である。

@
後天性アンチトロンビン(AT)欠損症はヘパリン治療に伴って起こる。 
・PCI治療時にヘパリン投与を受けた250人の患者―PCI中にAT活性が7.5%低下、手技終了・翌日はさらに4%低下した。⇒20時間以上のヘパリン中止で基準値に回復。
・ヘパリン治療は未分画ヘパリン投与患者の1-5%、低分子ヘパリン投与患者の1%以下をHITの凝固亢進状態にする。
・ヘパリン治療患者の8%が非免疫的機序による無症候性・一過性血小板減少症を起こす。(HIT type1として知られる)

3.凝固亢進状態の評価
まず疑うことが重要である。 
・先天性因子をもつ患者が後天性危険因子となるような環境におかれると予後は悪い。
 例:無症状の第V因子ライデン患者が抗線維素溶解薬を投与され、長時間CPB下管理になると破滅的な血栓症が起こる。
・一般的には若年者で原因不明に血栓塞栓症を繰りかえしたり、動脈硬化性病変がないのに動脈血栓症を起こすような患者には、先天的危険因子を調べる検査が推奨される。
・凝固亢進状態の持続を示すマーカーの中では、D-dimerが1番研究されており、VTE患者の治療期間を判断するために有用である。
・最も使われているPT、APTTは整形外科、外傷、一般外科手術患者の血栓症発症との因果関係が見出されなかった。
・トロンボエラストグラフィ(TEG)は凝固・線溶を見ることができる検査だが、個人差が大きく、血栓症予測はできなかった。

4.HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)
・血小板減少 ≦15万/μL(オッズ比37)、ヘパリン開始後5日の血小板数 ≦開始前の50%(オッズ比12) で血栓症の危険性が増す。
・動静脈血栓症と強い関係(オッズ比12-37)がある。
・原因は免疫学的機序によると考えられている。
・HITで出血は稀である。
・ウシヘパリンはブタヘパリンより危険性が高いかもしれない。
(補:ヘパリン・血小板因子4(PF4)複合体に対する抗体が血小板表面に結合し、血小板活性を引き起こす。活性化された血小板はPF4を放出し、更なる複合体がつくられ、トロンビンの産生が増加する。それによってさらに血小板が活性化する。このサイクルで血小板が減少し、血栓が作り出される。抗体による血管内皮障害によってさらに凝固亢進状態になる。)

@HITの診断
・ヘパリン投与開始5-14日に血小板の50%以上の低下が見られれば疑うべき。(その時、既に投与されてなくても)
・過去100日以内にヘパリン投与されていれば、ヘパリン投与24時間以内に血小板減少が起こる可能性がある。
・ヘパリン注射部位の出血様皮膚斑や低血圧、全身性紅斑も疑う契機に。
・38-76%が最初の数日以内に血栓症を起こす。
・HIT患者の10%近くで四肢を失い、死亡率は20-30%である。
・HITを疑った場合、血液検査が推奨される。ヘパリン・PF4抗体に対する抗原性免疫試験はよく行われ、感度90%を超えるが、特異度は高くない。
・セロトニン放出試験は感度・特異度とも95%で免疫試験より高いが、通常はスクリーニングではなく確定診断のために行われる。
・検査は万能ではなく、診断には臨床医の疑いと判断が最も重要となる。

@HITの治療
血栓症の有無に関わらずHITが強く疑われたら確定診断を待たず、直ちにヘパリン投与を中止し、別の抗凝固療法を開始する。
・凝固亢進状態が少なくとも1ヶ月は続くためヘパリンを中止するだけでは不十分である。
・ワルファリンは効果発現に時間がかかり、X、IX因子やプロトロンビン濃度に比べて、プロテインC・S濃度を相対的に早く低下させる(これが血栓化を促進する)ので、HIT急性期には避けるべきである。
・直接トロンビン阻害薬の効果はAPTTやACTでモニタリング可能である。
・過去の研究によるとLepirudinとargatroban(ノバスタン®)はHIT患者の合併症を有意に減らす(特に新しい血栓の形成を抑える)。
・argatrobanは肝代謝のため、肝障害時は投与量を減らす。PT-INR値を延長させるため、ワルファリンでの治療へ移行する際は引き続きモニタリング可能。

最適な治療期間はまだ確立されていない。 
・血栓症がないHITならば1ヶ月、血栓症を合併すると3-6ヶ月治療が行われている。
・代替の抗凝固薬を投与し、血小板数が15万/μlになった後に徐々にワルファリンに移行するのはよいかもしれない。
・ヘパリン-PF4抗体が検出されなくなるまで、ヘパリンの使用を避けるべきである。

@心臓手術の場合
・心臓手術例での報告は少ない。
・待機手術なら、ヘパリン-PF4抗体試験が陰性になる発症3ヶ月後まで延期する。
・この場合、手術中のみのヘパリン投与とプロタミン拮抗は可能だが、術前・術後は他剤による抗凝固が推奨される。
・もし延期できない心臓手術なら、他剤による抗凝固が推奨される。
•Lepirudinとargatrobanを使ってCPB下に手術した少数の症例報告がある。


***
だいぶ端折ったが活字にすると結構な分量になった。15分弱でプレゼンテーションするには無理がある(そして聴く方にも大分負担がかかる)。

***
ASO患者さんの末梢血管バイパス術の麻酔を担当することになった。
HIT type2と診断されたのは2年ほど前。現在は抗体価は陰性になっているはずだが未検査。だが、血小板数が低めを推移している。こういう場合、術中に血小板を入れてもいいんだろうか?

血小板輸血に関しては― UpToDateによれば
Platelet transfusions — Platelet transfusions are generally considered as being relatively contraindicated for the prevention of bleeding in patients with HIT, largely due to the possibility that they might precipitate thrombotic events (ie, "add fuel to the fire").
In two reports of a total of 41 patients with HIT, platelet transfusions resulted in appropriate 24-hour post-transfusion platelet count increments in the majority, with cessation of bleeding in two-thirds of the bleeding patients [169,170]. No thrombotic complications were noted in either report. A review of the literature revealed no case of a complication clearly attributable to platelet transfusion [169].
These authors, as well as the 2008 ACCP Guidelines, concluded that platelet transfusions can be considered in patients with HIT and overt bleeding or who are deemed to be at high bleeding risk, particularly if heparin has been stopped for at least several hours.

1. American College of Chest Physicians. Treatment and prevention of heparin-induced thrombocytopenia: American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines (8th Edition). Chest 2008; 133:340S.
169. Platelet transfusions in heparin-induced thrombocytopenia: a report of four cases and review of the literature. Transfusion 2008; 48:2128.
170. Outcomes after platelet transfusion in patients with heparin-induced thrombocytopenia. J Thromb Haemost 2010; 8:1419.
overt: 明らかな
deem: 思う、みなす
 
・A-lineの加圧バッグはアルガトロバン5mg/生食500ml程度
・術中は2-5γでACT200-300秒程度になる
・抗凝固:APTT1.5-2.0倍には0.7γで開始
・アルガトロバンの拮抗薬は存在しない。生物学的半減期は39-51分

2011年2月25日金曜日

(雑) in Pacifico Yokohama (day 2)

これは絶対花粉症だ。みなとみらいの観覧車前で日光浴をしていたら、突然の漿液性鼻汁とくしゃみで発症。東京は19℃。異常な暖かさ。

雑誌の座談会に参加する機会をいただいていたので、そちらにお邪魔する。麻酔科医御歴々の先生方のディスカッションに小童が小一時間ほど混じってみる。
そこで改めて認識したのは、「麻酔の手技や方法は、研修の初期段階で刷り込まれたやり方が、否がおうにも体に染み付いている」という当然過ぎる事実である。例えば10人弱のその座談会の場において、硬膜外麻酔の「loss of resistance」を空気で確かめる方法に挙手したのは、(その場では)、私だけであった。

あ、あれ?

空気で何が悪い。
悪いんです。少なくとも医学的に良いことは1つも教科書にはかかれていない(強いて挙げるなら抵抗消失が生理食塩液より分かりやすいこと、準備が要らないのでラクチンということくらいだろうか)。
それは私も良く知っている。
だが、たかだか0.5mlにも満たない空気が、成人の体内に送り込まれて空気塞栓の原因になったり、まだら効きの原因になったりするだろうか。
こういうことを私が主張するのは、いかにも今議員資格停止処分を受けている議員の主張に通ずるところがあるような気もする。そしてこの論法で仕事をしていると、「いつか痛い目に自分で遭わないと、習慣から脱け出せない愚か者」となる可能性がある。

座談会の後で聴いたsurviving sepsis campaign guideline(SSCG)のauthorの一人、Mitchell M. Levy先生の講演(Reducing Mortality in Severe Sepsis and Septic Shock)が終わった後、座長の先生がフロアに質問していた。
「SSCGに則って治療している病院の先生方、どのくらいいらっしゃいますか?」
会場には数百人のオーディエンスが居たと思うが、手を挙げたのは恐らく2割程度。これは私の推測よりも大分少ない割合であった(まぁやっていても挙手しなかった方も多かったかもしれないし、英語での質問をよく理解していなかった方もいたかもしれないので、正確なところは分からないが)。
英語でのSSCGについての講演を、わざわざ聴きに来る方々の中でも、2割程度の実践。硬膜外腔の確認を空気で行うのと違い、患者の死亡率を下げると複数の大規模研究で証明されているのにも拘らず、である。
硬膜外の空気とSSCGは同列に比べる問題ではないが。

うーん。

2011年2月24日木曜日

(雑) in Pacifico Yokohama (集中治療医学会 day 1)


集中治療医学会に参加するために東横線に乗ってパシフィコ横浜に行く。平日だというのに大勢の医師・看護師・臨床工学技師がいる。それぞれ職場から「行ってきていいよ」と許可されて来ている人たちの集まりである。発表者でなければ、パチンコに行こうがスパに行こうが咎められないであろうにも拘らず、何百、何千という人たちが一堂に会し、何らか知恵や知識を吸収しようとする姿勢に一人感動する。
 
メリトクラシー(meritocracy)というのは、努力するものに報いる制度である。それは誰でもその気になれば努力することができるということを前提としている。しかし、「その気になれば」というところに落とし穴がある。というのは、世の中には、「その気になれる人間」と「その気になれない人間」がおり、この差異は個人の資質ではなくむしろ社会的条件(階層化)に深くリンクしているからである。(内田樹 知に働けば蔵が建つ p64)

この文脈で言うと、おそらく私が学会会場で見かけた人々は、社会的条件に多分に恵まれた人々である(本人が意識しようとしまいと)。1-3時間の教育講演やシンポジウムに言葉を発することもなく、物音も立てず、じぃぃっと演者の言葉やスライドに耳や目を集中させることが、少なくともこの瞬間においてはパチンコやスパに勝っているのである。たとえ演者の話が途中で迂遠なものになり、初心者向けの講演と言いつつ無闇に略語を断りなく使い出し、「発表スライドの推敲してないだろ、もしかしてやっつけ仕事なのか?」とスライドの誤字脱字が妙に気になりだし、白背景に黒字のシンプルなパワーポイントに妙にイライラして、なぜか文字のフォントも小さく、箇条書きであるべきところがだらだらと数行に渡る文章になっていてアカデミックな内容であるか否か以前に発表の仕方をもう少し工夫して欲しいと僭越ながら思ってしまったり、仕舞いには「この演者は自分の語る言葉にどれくらいの情熱を傾けているのか」について懐疑的になってきたとしても、その場に座り続けることを選んでいるのである(それは私だけかもしれないが)。
自分が何かもの申すときは「時間×その場に居合わせた人の数」分の時間を、ありがた~く頂戴して喋っているのだ、ということに改めて思いを馳せた1日だった。

(麻) MH in Japan

2010年11月23日にたこつぼ型心筋症について記載しましたが、本当に当直帯に遭遇するとは思いませんでした。SAHの重症度に比例するのでしょうか。

***

Anesthesiology 2011;114: 84-90のPrevalence of Malignant Hyperthermia and Relationship with Anesthetics in Japan: Data from the Diagnosis Procedure Combination Database. ではDPCデータから抽出した悪性高熱症(MH)の発症率や麻酔薬との関連を論じています。東京大学の先生たちの報告。18ヶ月、全麻123万件程度を対象。

観察期間中にMHは17人(7.3万人に1人)、家族歴や神経筋疾患などのリスクファクターはなし、死亡例はそのうち1人(5.9%)、14人でセボフルランが使用されていた。男(オッズ比3.49)、29歳未満(同1.91)、セボフルラン(1.53)、ロクロニウム(2.03)などだった(ただしこれらの薬剤が要因か、までは論文中で触れられていない)。サクシニルコリンは因果関係不明。


***
日本では1985-2004年までは死亡率が15%程度だったようですから、2006-2008年に調査したこの論文のデータを見ると死亡率は格段に低下しています。
イチ麻酔科医としては、たとえ肺塞栓症より頻度が低くとも、実際に見たこともないMHに対して、本当にテキスト通りの対応ができるかどうかなんて自信があるわけありません。上記17人は一般的なリスクファクターがなかったのですから、MHは予測不可能。毎回「起こるかもしれない」と思って麻酔をかけていくしかないのかも。この論文を読んで以来、全麻導入後にはどんなバイタルよりも体温を気にするようになりました。

@一般的な悪性高熱症の知識(の一部) (2011年5月24日追記)
・15分間で0.5℃以上上昇、最高体温38℃以上
・ダントロレンは1-2mg/kgを10-15分で。一応7mg/kgまで。
・カルシウム拮抗薬はダントロレンとの併用で心停止の報告あり慎重投与
・MHに伴う血行動態変化は心筋酸素消費量を4倍に上昇させる。代謝亢進に伴う全身の酸素消費量は約3倍、血中乳酸値は15-20倍
・初発症状はETCO2の上昇 > 急激な体温上昇 > 原因不明の頻脈 
(古典的にはSCC投与後の咬筋硬直)
・遺伝子検査では必ずしも異常は認めない
・病因はリアノジン受容体の機能異常により、Caイオンによるカルシウムイオン放出(CICR)が亢進し、細胞内Caイオンの濃度上昇に伴う骨格筋収縮が生じるため

2011年2月22日火曜日

(本) 30歳からの人生戦略 ― 古市幸雄

副題には
勉強を「仕事とお金」に変える方法
とあります。

多くの医師にとっては、ここで書かれている戦略があろうとなかろうと、まずまず安定した収入を得て、人生を終えることができるかもしれません。医学部という、まさに医師を作るための工場で培養された人間にとっては、勉強(あくまでこの著者が言うところの勉強ですが)は既に多くの場合習慣になっており、勉強が仕事とお金に変わっています。勉強が習慣になっているのは、これまで馬鹿にされることが多かった「知識の暗記に偏った学校教育と受験」を、各人の好き嫌いはさておいて通過してきているからです。人並みの努力で云われるがままにこつこつと努力をしてきた人間が到達できる場所として、医師という職業は他職に比べて、経済的には恵まれていると私は思います。経営者ほどのキャッシュは得られないが、雇われる労働者として得られるお金としては十分すぎるでしょう。

・Dike wasn't a bad leader because he made bad decisions. He was a bad leader because he made no decisions.(バンドオブブラザーズ第7話、雪原の死闘 p34)
・Tell your audience what you're going to tell them. Tell them. Then tell them what you told them.(106)
・継続できるかどうかは、あなたがスランプに陥ったり、気分が乗らないときに、やり続けられるかどうかに掛かっているのです。・・・中略・・・。継続できている人は毎回、「する」ことを選んでいるだけです。(148)

これからのキャリア形成のヒントがあれば・・・と思い読んでみましたが、今の時点の私にはあまり活用できる文言は見つかりませんでした。どちらかというと、もらった給料を飲み会等に散財してしまって貯金がないという方や、電車で移動中はケータイでゲームor高齢者を差し置いて優先席に陣取って鼾をかいて爆睡・・・のような習慣を持った方(私がこれらの習慣を批判する気はありませんが)で「このままではダメだ」と思っているような人が読むと得るところがありそうな印象を受けました。読書家⇒金持ちの図式は成り立ちませんが、金持ち⇒読書家は結構な率であたっているのではないでしょうか。

2011年2月21日月曜日

(音) Dimmu Borgir in Shibuya

ライブは6年振りです。今回はノルウェーのブラックメタルバンドです。新作「Abrahadabra」があんまり素晴らしかったので、チケットを購入してしまいました。Dimmu Borgirの来日は10年ぶりらしいです。次があるかは分からないし、彼らの公演を見るためにヨーロッパにいくこともそう簡単にはできません。平日夜のライブ参加に協力してくださった職場の方々には本当に感謝。


巨大な「Abrahadabra」アルバムのジャケットをステージ背景に構え、赤いライトが妖しく光る。タバコくさい。久しぶりに行ったライブハウス(o-east)はそんな場所。オーディエンスにはメタルTシャツを着た冴えない男性だけではなく、ねぇちゃんやおじょーちゃんや外人さんもいます。意外にファン層は広い様子。
「コブクロ?まぁ好きかも。彼女が好きなら付き合っていこっかなぁ」くらいのちょこっと好きレベルでは恐らくディムボガーのライブには来ないでしょう。後ろのほうにいても仕方ないのでステージから3列目程度の最前列近くの場所に移動します。


開演前の会場内にはGamma Rayが流れていました。アルバム「Somewhere out in the sky」から「Watcher in the Sky」「Shine on」と流れ、Helloweenの古典的名曲「March of Time」「Eagle fly free」「I want out」とGerman Metalを堪能したところでバンドが登場。19時ぴったりにアルバム通りに「Xibir」でスタートします。
お気に入りだった「Gateways」や「Progenies Of The Great Apocalypse」は意外にこじんまりとしていましたが「Dimmu Borgir」や「Ritualist」、過去の「The Chosen Legacy」や「Indoctrination」が非常にライブ映えしていたのが、そんなマイナス感を帳消しに。疾走曲になると私の前にいたロングヘアのお嬢さんが激しくヘッドバンキングをしており、とってもアットホームな気分になります。なぜか涙腺が緩んだのはそれほど思い入れのない曲「Puritania」が演奏されたとき。ライブではスタジオアルバムと違った魅力に出会える、ということも久しぶりに思い出しました。
それにしても、1曲の中でもシンフォニックに、暴力的に、転調を繰り返す彼らの楽曲群がこれほどライブでも映えるとは知りませんでした。キーボードが奏でる音をもっと強調したステージ作りをして欲しかったようにも感じますが、よりギターとドラムが強調された今日のような音作りのほうがオーディエンスの乗りはいいのでしょう。
1番の収穫はブラストビートを連発するドラムの激音がこの五体にビシバシと響くことがこれほどまでに快楽をもたらすのか、ということ。スキンヘッドで怪しい笑みを浮かべながらギターを演奏するGalderを間近に見ることができたのも、嬉しい体験でした。


ステージが90分で終わってしまったのが残念でしたが、アンコールをおねだりするオーディエンスたる我々会場の一体感はあまりなかったですし、オーディエンスもバンドも90分で燃え尽きたのかもしれません。ともかくも素晴らしい体験でした。

2011年2月18日金曜日

(雑) 今年は麻酔専門医試験が1週間早いらしい

研修医時代の「臨床実績報告書」に科長の署名をいただくべく、昔の勤務先に依頼書を送ったところ、返信が来てました。感謝。
書類には、麻酔科責任者(自署)を記載するようにと書かれています、そのため、「名前だけだし、自分で書いちゃお」と自分で代筆したりすると、後々ばれて大変なことに巻き込まれる可能性があります。やってはいけません。当たり前ですが。


久しぶりにJSAのホームページを見たら
2011年度麻酔専門医試験の試験日程は、9月30日(金)、10月1日(土)、10月2日(日)」と書いているではないですか!てっきり10月7-9日だと思っていたのに。
そしていつの間にか5月の総会の事前申し込みが始まっており、人気のDAMなどはもう定員いっぱいで締め切られています。何と皆さん勉強熱心なことか。完全に出遅れました。まぁいいや。取り敢えず専門医試験の申請に必要な書類を整理しよっと。


久しぶりの手術室監督で、歩くこと歩くこと12226歩達成。今日は大きなトラブルなく順調で何より。

2011年2月15日火曜日

(本) 苦役列車 ― 西村賢太

当直入りには何故か「お供」が欲しくなります。一通り、予定手術・緊急手術の麻酔が終了した後にちょっと読めるような文章を。生まれてはじめて「文藝春秋」を買ったのは芥川賞作品が2作収録されているという月並みな理由からですが、私の興味は専らこの著作にあったのでした。流石に朝7時半から麻酔の準備をし、全症例が終了する25時半まで18時間動き続けた後では読めませんでしたが、当直明けに読了。

著者の自伝的要素が多分に入っているという本作。中学卒業後各種アルバイトを転々とした(逮捕歴もある)とプロフィールにあります。そのような人生の中で、どのようにして、これほど読ませる文章を書く力を身につけていったのか。驚嘆。非常に長~い以下の一文がとても印象的。

加えて、すでに戸籍上では他人になっているとは云い条、実の父親がとんでもない性犯罪者であったことからの引け目と云うか、所詮、自分は何を努力し、どう歯を食いしばって人並みな人生コースを目指そうと、性犯罪者の伜だと知られれば途端にどの道だって閉ざされようとの諦めから、何もこの先四年もバカ面さげて、コツコツ夜学に通う必要もあるまいなぞ、すっかりヤケな心境にもなり、進路については本来持たれるべき担任教諭とのその手の話し合いも一切行わず、また教諭の方でも平生よほど彼のことが憎かったとみえ、さわらぬ神に祟りなしと云った態度で全く接触を試みぬまま、見事に卒業式までやり過ごしてくれていたから、畢竟、彼に卒業後のその就職先の当てなぞ云うのはまるでない状況だった。(p445-6, 文藝春秋 2011年3月)

濃密な臭いを発散する文章に窒息しそうになります。

2011年2月14日月曜日

(本) 君がオヤジになる前に ― 堀江貴文

・いまどき料理が不得意なんて、あり得ない。野菜を切って、コンロを使って、調味料をふる。たったこれぐらいの手間を惜しんでいる人に、幸福な人生がやってくるわけがない。「面倒臭い」は、思考停止した人間の、自覚のない敗北宣言だ。(p65)
・失敗や苦労は、若い時は買ってでもしろと言うけれど、僕は違うと思う。苦労を買うより、ミスを防止する思考力を育てる方が、若い人には大事だ。(71)
・自分が持っているパフォーマンスを最大限に活かさないのは、人が生まれた才能に対する冒涜だと考えている。(145)
・皮膚感覚で嫌だということを、受け入れてしまった後の後悔は、何億円稼いだって拭えるものではないだろう。(148)
・もし本気で負のループを断ち切りたいのなら、まず自分の孤独と真剣に向き合うべきだ。・・・(中略)逆境は我慢と、あがくことでしか乗り越えられないことを知っている。(168)
・こう打って、こう指せば必ず詰めるという将棋しか、指そうとしてない。でも人生って絶対、詰め将棋なんかじゃない。(205)

前に進むためには家族も友人も切ってきた、と本書のいたるところで語っていますが、それに拒絶反応を示す人は多いでしょう。著者の名前を見ただけで本書を手に取らない人もそれ以上に多いでしょう。本書で示されているような氏の価値観を私は全く否定しませんし、できませんし、する権利もありません。もっとも、こんな考え方をする人ばかりの世の中で生きていたいとは思いませんが。
仕事に対する情熱と行動力、それにかけてきた時間と成果は私の比ではないということだけは、本書を読んでよく分かる事実でした。(まさにこの点こそが、私が氏の価値観をどうこう論ずることができない理由です。何事も成し遂げていない私は、人のことをおこがましく批判できる存在とはなり得ません。)
共感できるところと共感できないところと玉石混交の本書でしたが、このような考えをもつ人が世の中にいて(そして恐らく絶対的少数といえるほど少なくはないでしょう)、自分の哲学の下に自分の生きたいように生きているという事実がある。それは素晴らしいことで、学ぶことが多々あった一冊でした。