このブログを検索

2023年12月10日日曜日

「ふつうの相談」(東畑開人氏、金剛出版、2023年)を読む

 久しぶりに1冊読了。日々の慢性疼痛の診療のヒントというか救いとなるような言葉にたくさん出会いました。感謝。私はいつも「患者さんはお金と時間をかけて診療所に来てくださるのだから、何かプラスアルファのことをしなくては」と思って仕事をしていますが、気負いすぎもよくないのかな、と、本書に出会って、少しだけ肩の力が抜けるような気がしました。以下引用。

***

しかし、臨床経験を重ねる中で、平凡で誰でも思いつきそうなアドバイスがしばしば「思ってもみませんでした」と受け止められ、生活の改善に役立つことを知った。(中略)それでも強要さえしなければ、役に立たないアドバイスも役に立つという逆説がある、カウンセリングを一緒にトライ&エラーを行う場所にしてくれるからである。少なくともそのとき、クライエントは完全な孤独ではなくなる。p57-58

<ふつうの相談>が始まるとき、クライエントは混乱している。何が問題であるのかわからなくなり、何がどのように変化すればいいのかわからなくなっている。現在地を見失い、方角を喪失しているのである。このとき、問題の所在がどこにあり、どう変化するとよくて、それは何によって可能になるのかが知的に整理され、言語的に納得できることの価値は極めて大きい。客観的状況は同じでも、主観的な風景が変化するからだ。進むべき方角を実感できると、苦難に耐え忍び、それを乗り越えていこうとする希望が湧いてくるものなのである。p64

第二にユーザーの側から見るならば、私たち専門家に期待されているのはなによりもひとまず問題を引き受けることなのである。もちろん、引き受けられない問題は存在するのだが、カードAnによる華麗な治癒でなくとも、カードBで現実的なやりくりがなされることは、本人や家族、その他のステークホルダーにとって大きな価値がある。社会で生じた苦悩は誰かが預からなくてはならない。この「預かる」機能こそが、治療者というものの核心的な社会的役割なのである。p113

優れた治療者とは凡庸な治療の良さを知る人なのである。p149

そして、その響きが途絶えかけている人の苦しさが少しはわかるようになった。p155

だからこそ、その都度、失敗を認め、振り返り、反省を重ねることが、専門家としての責任である。それができなくなるならば、私たちは心を扱う専門家としての最も重要な素質を失うことになるであろう。しかし、そのように反省することは、実際には簡単なことではないのであえる。p165

ふつうの人がふつうに他者と関わる。このふつうのつながりの上に、心理学理解と技術がのっかったものが心理療法だ。私は心の底からそう思っている。だから発見すべきは、「心理療法化未満」だと思っていた自分が、実は「すでに心理療法家であったこと」だ。魔法のような心理療法ではなく、ゴワゴワしていて、スムーズにいかず、それでもなんとかかんとか進んでいく、ありふれた心理療法。その基盤になっているのは、君とクライエントのあいだに存在していたふつうのつながりだ。p181-182

***

結局のところ、目の前にいる人のことをよくみて、見て、診て、何ができるのかを愚直に考え言葉に出すことの繰り返しが必要、ということでしょうか。失敗を恐れず、進むしかないね。

2023年12月4日月曜日

ペインクリニック活動記録(其の五) 腰部脊柱管狭窄症の下肢痛が酷く、立って歩けない

 硬膜外カテーテル挿入の話。

LCS(腰部脊柱管狭窄症)のために腰部硬膜外腔が狭く、カテーテル挿入困難な患者さんに出会うことがあります。手術室だったら研修医がなかなか入らないものを、指導医が適当にLoss of resistanceをしてカテを入れて手術に望むことがあるかもしれません(術後痛がっていても、あんまり効かなかったねぇ、とか、痛がりの患者さんだねぇ、とか言って終わる感じ)。

ペインの場合はどうか。

LCSで下肢痛が酷くて歩けない、何とかしてほしいという患者さんがいらっしゃいます。そんなとき、ペインクリニシャンはどうするか。神経根パルス高周波をすればいい?椎間板ブロックをすればいい?硬膜外腔癒着剥離術をすればいい?それですぐに歩けるようになればいいですが、そうならない場合が沢山ありまして。

そうならないときには、なんとか硬膜外カテーテルを入れようとします。当院では全例、X線透視下で行いますが簡単に入る方、まあまあ難しい方、結構難しい方がいらっしゃいます。で、”結構難しい方”は、透視で椎弓間口が見えているにも関わらず、硬膜外針が硬膜外腔に到達しないんです。何かにゴツゴツあたって針が進まないんです。

最近、そんな患者さんが多くて、もう辞めようかな、と思うことしばしばですが、どうやったらカテーテルが入るのか、を考えるのもまたやり甲斐なので、続けることにします。