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2011年8月2日火曜日

(麻) 麻酔専門医認定試験2010-症例3‐2 脳死・臓器提供

http://www.anesth.or.jp/guide/index.html
にいろいろなガイドラインが提示してあるが、麻酔専門医認定試験受験者たる私は目を通した方がよいんだろうなぁ(って受験生たちは皆とっくに目を通してるんだろうか)。「宗教的輸血拒否に対するガイドライン」の未成年者への対応など、口頭試問で問われた時に、知識がないと変な回答をしかねない…が、これって「このように答えたら何点あげます!」とはやりづらいだろうから心配しすぎかも。

***
脳死の臓器提供については、色々な考えをお持ちの方がいると思う。日本麻酔科学会では「脳死体からの臓器移植に関する指針」で学会会員に対して脳死体移植への基本姿勢を示している。(この指針はフリーアクセスで日本語が読める方であれば誰でも閲覧可能である)
そこで書かれているように
1 麻酔指導医は、所属する医療機関の長官から脳死判定を要請された場合、速やかにこれを行う。
2 臓器提供病院の麻酔科医は、臓器摘出時のドナー管理を依頼された場合、これに協力する。
3 麻酔科医は、ドナーとその遺族に対して、礼意をもって接する。
4 麻酔科医は、所属する医療機関で臓器移植が行われる場合、レシピエントの麻酔および周術期管理を行う。

controversialでdelicateな「臓器移植」の問題を、ここに、このように問題形式で記載するとは何事だ、とお怒りになられる方も当然いらっしゃると推察いたしますが、ドナーとその遺族に対しては人間としてだけではなく麻酔科医として世界のほんの片隅からでも礼意をもって接することができるようになりたい、という願いから記載されたものとして、どうぞご容赦いただきたい。
また、私は本日時点で、腎移植レシピエントの麻酔を担当した事がありませんので、それもご了承ください。(ということでおわかりでしょうが、患者さん向けやその家族向けの情報でもありません)

質問
1) 法的脳死判定における脳死判定基準と麻酔科医の役割
1.法的脳死判定における脳死判定基準を説明する
@以下のA-Cを満たしてから判定を開始する
A.前提条件を完全に満たす
・器質的脳障害で深昏睡か無呼吸
・原疾患の確実な診断
・回復の可能性が全くないと判断されること
B.確実な除外診断
C.生命徴候の確認
・体温:深部温32度を超えること
・血圧:sBPが90mmHg以上
・心電図:重篤な不整脈がないこと
@判定基準は
・深昏睡
・瞳孔径4mm以上、瞳孔固定
・消失する脳幹反射(①対光反射②角膜反射③眼球頭反射(人形の目反射)④眼球前庭反射(カロリック反射)⑤咽頭反射⑥咳嗽反射⑦毛様脊髄反射)
・平坦脳波(聴性脳幹反応の消失は必須ではないが確認が望ましい)
・無呼吸テスト(最後に行う。*臨床的脳死判定には含まれていない。補:開始前PaO2≧200mmHg、PaCO2は35~45mmHg、TOF≧0.9になって1時間以上経過、中枢温は35℃以上が望ましい)

2.法的脳死判定に携わる麻酔科医の3条件は…
A.脳神経外科医、神経内科医、救急医又は麻酔・蘇生科・集中治療医で学会専門医又は学会認定医の資格を持つ者
B.脳死判定に関し豊富な経験を有する者
C.臓器移植に関わらない者

2) 腎移植手術について
1. 腎移植レシピエントの術前問題点を挙げる
・腎不全とそれに伴う症状や合併症
・循環:dry weight、高血圧、浮腫、心不全、虚血性心疾患、心筋症、 感染性心内膜炎などの有無、程度、コントロール状態。
・貧血の程度:Hb、Ht、透析による変動
・呼吸:肺水腫の有無
・代謝:糖尿病の有無、代謝性アシドーシスの程度
・電解質異常:カリウム、カルシウム、リン、マグネシウムの値。最終透析後に採血しておく
・出血傾向...血小板数低下、機能異常、出血傾向の有無
・その他合併症...動脈硬化、易骨折性、喘息、けいれんなど
・精神状態
・透析用シャントの位置、ラインとる位置...シャント側にモニターをつけない。シャントを圧迫しない。
・術前に免疫抑制剤を内服していれば、易感染性がある。ステロイド投与されていれば術中のカバーを相談する。

2. 腎移植時に使用される免疫抑制剤を3つ挙げて下さい。
内服薬としては…
・プログラフ (タクロリムス、FK506): カルシニューリン阻害薬
・ネオーラル(シクロスポリン、CyA):カルシニューリン阻害薬
  ・ 血中濃度を測定し内服量を決定。
  ・グレープフルーツまたはグレープフルーツジュースを摂取しない。血中濃度が上昇するため。
・ブレディニン(ミゾリビン、MZ):代謝拮抗型免疫抑制薬
・セルセプト(ミコフェノール酸モフェチル、MMF):代謝拮抗型免疫抑制薬
・アザニン、イムラン (アザチオプリン、AZ):代謝拮抗型免疫抑制薬
・メドロール (メチルプレドニゾロン、MP):副腎皮質ステロイド
一般的には免疫抑制剤の内服は上記のものから3剤使用。
カルシニューリン阻害剤(プログラフまたはネオーラル)の中から1剤
代謝拮抗型免疫抑制剤(ブレディニン、セルセプト、アザニン)の中から1剤
メドロールのあわせて3剤を内服する。
これらの組み合わせは、移植した条件や拒絶反応の有無、薬剤の副作用を考慮して決定。
他に注射薬もある。

3) 移植後のICU 管理について
腎移植手術終了後、、手術室内で抜管、ICU に搬送
1. 死体腎移植直後のICU 管理について、特徴的な事項。
(・通常,腎静脈は外腸骨静脈に,腎動脈は内腸骨動脈に吻合する。)
・尿量低下。輸液量に注意。カリウムフリーにする。NSAIDsの使用は慎重におこなう。

2. ICUでの疼痛管理方法について、具体的に説明。
・免疫抑制剤により易感染性があるため、硬膜外は施行しない
・iv-PCA フェンタニル25-50ug/h程度。

*参考文献
・法的脳死判定マニュアル
http://www.jotnw.or.jp/jotnw/law_manual/law5.html
・臨床麻酔 2010年4月号の総説
・泌尿器ケア 2010 vol.15 no.7 p86-88
・綜合臨床2009(VoL 58):増刊 今すぐに役立つ輸液ガイドブック
・質問は死体腎移植ですが、生体腎移植について
http://www.maruishi-pharm.co.jp/med/libraries_ane/anet/pdf/36/36spe_3.pdf
・こちらも
http://www.maruishi-pharm.co.jp/med/libraries_ane/anet/pdf/36/36spe_4.pdf
・「神戸大学麻酔科マニュアル」http://www.med.kobe-u.ac.jp/anes/manualholder/ldkt.html


◎2012年10月11日追記
Management of the heartbeating brain-dead organ donor. British Journal of Anaesthesia108(S1): i96–i107 (2012)(脳死ドナーの管理についてのreview記事)
・LiSA Vol.19 No.10 2012 徹底分析シリーズ
・脳死ドナー管理について過去の自分のまとめ(一部重複してます)